6月にはミラノで開催

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 今年の第70回カンヌ国際映画祭のイベントのひとつとして、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督による展覧会「CARNE Y ARENA, Virtually Present, Physically Invisible」が開催された。展覧会というより、正確にはVRインスタレーション。撮影監督のエマニュエル・ルべツキがプラダ財団のサポートにより、ILMxLABとコラボレーションを果たし、最先端のVR技術を駆使して作った強烈なバーチャル・リアリティ映像だ。

 会場は飛行機の格納庫を改造しただだっ広い空間だが、中に入れるのは1度にひとりのみ。そこで6分半ほどのバーチャル映像を体験する。国境をテーマに、メキシコからアメリカへ越境する不法入国者たちの過酷な現実を、参加者たちは目の当たりにさせられる。

 まず会場のイントロダクションに目を通し、その後、案内に沿って最初のドアを開け待合室に入る。まるで独房のような小さく殺風景な空間で、部屋の片隅には実際にボーダーラインで拾われた、移民たちの落としていったぼろぼろの靴が散らばっている。自身も靴を脱いで待っているあいだ、ヘリコプターの騒音と振動が響いてきて、すでに臨場感満載だ。

 赤いランプの点滅に誘導されて第2のドアを開けると、砂が敷き詰められた暗い空間が広がっている。四方の壁にはVR用のライトが埋め込まれ、真ん中にはふたりのガイドの姿が。そこで彼らの指示に従って、天井からワイヤーで吊るされたリュックを背中に負い、VRゴーグルとヘッドフォンを装着。いよいよ上映が始まる。

 夕闇の砂漠のなかにひとり佇むなか、四方からスペイン語のような話し声が聞こえて来る。やがてやみくもに、越境者のグループが現れ、間髪入れずにパトロールカーが乗り付ける。ヘッドライトの眩しい光のなかで目の前に迫る銃を持った警備隊たち。さらに遠くには、轟音とともにこちらに近づいてくるヘリコプターが見える。

 もちろんすべてバーチャルなわけだが、思わず身を隠したくなるほどにリアル。さらに逃げ回る移民たちがぶつかりそうになるので、とっさに身をかわしてしまう。端から見たらなんとも滑稽な姿だろうが、そうせざるを得ないほど臨場感に溢れている。わずか6分半の時間がまさに手に汗を握るほどの強烈な体験で、終わった後は思わずよろけてしまう。

 実際にさまざまな生存者に会って話を聞き、4年の歳月をかけて本展の準備をしたというイニャリトゥは、砂漠の真ん中にビジターたちを放り込むことで越境者たちの過酷な現実を、身を持って経験させたかったのだという。ハイレベルな技術もさることながら、イニャリトゥらしいパワフルな説得力にみちた演出に唸らされる。

 展覧会は映画祭終了後、6月にはミラノに移動し、その後ロサンゼルスとメキシコでも開催予定。日本にもぜひ巡回して欲しいものだ。(佐藤久理子)