気分が昂揚する音楽がスピーカーから大音量で流され、場内のマイクパフォーマンスがさらにランナーたちをあおって盛り上げる。これまでに見たことのない雰囲気が漂う、このアゲアゲな陸上競技大会はいったい何なのか?


1年に1度の機会を大切に、熱い中でも自己記録に挑戦していたランナーの人たち 今年で5回目を迎えた「大人のタイムトライアル」が4月下旬、東京・織田フィールドで快晴のもと行なわれた。「大人のタイムトライアル」というのは、2013年にスタートした陸上競技のイベントだ。マイクパフォーマンスも担当する主催者の西本武司氏を中心に、走ることが大好きな有志が集まって「草の根レース」と「トラック”も”走ろう」を合言葉に奔走し、大会開催にこぎつけたという。

 最大の特徴は、各地のロードコースで数多く開かれているマラソン大会とは異なり、トラックを走り、なおかつ5000mのタイムを計る珍しい大会であることだ。

 現役の選手として走っている学生や実業団ランナーならば、トラックで行なわれる記録会や競技会に出場する機会も多くあるだろうが、一般の市民ランナーがトラックで、5000mのタイムを計る機会はそうそうあるわけではない。

 そんな市民ランナーの「トラックを走ってみたい」「記録に挑戦してみたい」という意欲をくすぐることで、回を重ねることに参加者は増え、徐々に大会の規模も拡大。今大会は今大会は1000人以上の参加者が集まった。

 昨年に続いて今年も出場した男性ランナーは、「去年が楽しかったので今回も参加しようと思いました。普段はトラックなんて走れないので、それがやっぱり魅力ですね」と、参加理由を語る。

 また、今年初めて出場したという女性ランナーは、「これまでもSNSで存在は知っていたんですが、一緒に走っているランニングチームの人が昨年の大会に出たのを見て、楽しそうだなと思って私も参加しました」と言う。実際に走ってみた感想は「楽しかったけどキツかった。でも、ペーサーの人が声をよくかけてくれて、走りやすかったです」と笑顔で答えてくれた。

 この「大人のタイムトライアル」の注目すべき点は、トラックを走れることだけではない。当日は設定された目標タイムごとに14組に分かれて走るのだが、参加者のコメントにもあるように、各グループに箱根駅伝の元選手や実業団チームの選手などの豪華なペースメーカーがついて走ってくれるのだ。


ボランティアとして大会を盛り上げていた杉江美沙さん(左)と丸山果恋さん(右) 学生時代から陸上競技ファンだったことが縁となって、第2回からボランティアとして参加している丸山果恋さんと杉江美沙さんが、今大会のペースメーカーについてこう話す。

「長距離のすごい選手をこんな近くて見られる機会は、めったにないと思います」(丸山さん)

「青学大を卒業したばかりの安藤悠哉さんや、元旭化成の八木勇樹さん、それに今年の世界選手権出場が決まっている競歩の小林快さんまで参加してくれていることがすごいです」(杉江さん)

 普段はなかなか会うことができない一流選手たちの走りを間近で見られることや、直接話ができるところが、この大会の魅力のひとつとなっている。

 実際、この日一番の盛り上がりを見せたのは、それまでペースメーカーを務めてくれた選手たちが、自ら本気の走りを見せる最終レースだった。日が落ちてきて、競技場がライトに照らされ始めたころには、どこからともなく人が集まり、最終レースが近づくにつれてトラックの周りにはギャラリーが増えていった。


迫力ある走りで、今大会一番の盛り上がりを見せた最終レース 当日のペースメーカーの中でもひときわ多くの人から声をかけられていた、今回で2回目の参加だという八木勇樹選手と三田裕介選手にも、大会の魅力について語ってもらった。

「これだけ多くの市民ランナーの方々が集まって、トラックでタイムを出すっていう機会はなかなかないと思うんですよ。一生懸命応援してもらえるなかで、苦しい顔をしながらも、みんなで走れるって本当にいいことだなと感じます」(八木選手)


早稲田大学時代にも活躍されていた、三田裕介さん(左)と八木勇樹さん(右)「いろんな記録会がありますけど、普通は割とシリアスな感じというか、緊張感があると思うんです。もちろん今大会も市民ランナーのみなさんは緊張していると思うんですけど、どちらかというと大会のマネージメントが、楽しくとか、みんなで記録を出すために盛り上げようという環境作りになっているので、走りやすいのかなと思います。和気あいあいとしたなかで、プロランナーと一般ランナーの方が一緒に走れるのが魅力ですね」(三田選手)

 ふたりがこう話してくれたように、本当に雰囲気が明るく、多くのボランティアや出場ランナーが「次回も参加したい!」と口を揃えていた。もしあなたが”脚に覚えのある”人であれば、きっと出てみたくなるに違いない。

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