植田真梨恵、初出演映画で得たものとは何か

 シンガーソングライターの植田真梨恵(26)が、映画『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』(公開中)に出演した。

 『トモシビ 銚子電鉄6.4kmの軌跡』は、大正時代から関東の最東端を走り続ける千葉のローカル線・銚子電気鉄道にまつわる小説「トモシビ-銚子電鉄の小さな奇蹟-」を原作としたストーリーで、高校生ランナーの駅伝チームとローカル鉄道が競争をするイベント「駅DEN」を軸に、さまざまな登場人物たちの思いが交差する人間模様を描いた群像劇。

 「感情型シンガーソングライター」という肩書きを持つ植田は、このドラマでは夢破れて銚子の地に訪れたシンガー・キミエ役を演じる。当人もミュージシャンであることも手伝ってか、劇中でも存在感のある役柄を演じている彼女は、映画では主題歌「灯(ともしび)」を提供している。また劇中では、歌を披露するシーンもあり、自身の楽曲である「まわりくるもの」を披露、シーンを印象的に彩っている。

 今回は映画公開初日の舞台挨拶後の心境とともに、この映画で初出演となった植田に、ミュージシャンの立場から見た演技、映画という舞台についての印象や、出演、撮影の経緯、そして映画に寄せた楽曲「灯」に込めた思いなどを語ってもらった。

より音楽のことが好きに

植田真梨恵

――映画の公開、おめでとうございます。そして舞台挨拶は大変お疲れさまでした。最初に映画出演の話を受けられた時には、どんな気持ちでしたか?

 ありがとうございます。こんな風に舞台挨拶をさせていただく日が来るとは、全然思いませんでした。当初は映画がどのような感じで広がっていくとか、映画の規模感みたいなものが、まったく見当がつかなかったんです。

――オファーはどのようなきっかけだったのでしょうか?

 杉山泰一監督とご縁があって、見つけていただいたんです。それでキミエという役のお話をいただいた後に、杉山監督がライブを見に来てくださって。今回映画の中でも歌わせていただいているんですけど、そのライブで歌った「まわりくるもの」という曲を「すごく雰囲気がストーリーに合っているから、歌ってもらいたいな」と言っていただいたんです。そんな話の中で「私がやらせてもらっても、いいのかも」という気持ちになっていきました。

――その話をご家族にお知らせした時に、どんな反応がありましたか?

 母はすごく喜んでいましたね(笑)。私自身はこれまでずっと歌手にこだわってやってきていたから、正直、皆さんにお知らせする時に、どうかな、びっくりするかなと少し心配ではありました。でも内容的にも歌手の役で、話が進む中で曲も書かせていただく事にもなり、すごく自然な流れで仕事ができるから、たぶんファンの皆さんが見てもきっと喜んでいただけるだろうなと思い、参加させていただきました。

――完成披露イベントや他のメディアのインタビューなどでは、初出演ということで撮影に際しては「緊張した」「不安だった」というお話をされています。今も言われていましたが、ミュージシャンにこだわっていらしたということでは、役者というまったく違うジャンルにチャレンジするということで、抵抗などは感じませんでしたか?

 いや、それはありましたね。そもそも単純に自分自身が、演技ができるかということとか、セリフがちゃんと覚えられるのかということで、不安に思っていたところが大きかったんです。だから、そういう意味で抵抗はすごくありました。ただ映画を観たり、お芝居を観たりすること自体はすごく好きなので、その反面、参加できること自体はとても嬉しいと思っていました。

――今回見事に完遂することもできたし、自信もできたのではと思いますが、この流れで次もと期待する気持ちも?

 そうですね(笑)。本当に私も突然のお話だったのでびっくりしたけど、本当に嬉しかったので、これから先もまたそういうご縁があればいいですね、率先して「私は役者で行きます」とは言えないですけど。今回は本当にすごく良い経験の機会をいただいて、より音楽のことが好きにもなりましたし。

――一方で近年はミュージシャンがドラマや映画など、役者として出演するケースが、わりとクローズアップされることが多いように感じられるのですが、ミュージシャンとしてはこの方面にキャリアを積むということには、意義があると感じられたりもしますか?

 どうでしょうね。まだ私は、あまりキャリアといえるほど割り切ってお仕事として考えられていないと思います。例えばジャンル云々は別として、監督さんの中で作りたいものがあって、その中でこの役にハマるとか、こういうキャラクターはこんな顔で、こんな声で話すといいな、という人物像に私が当てはまるのであれば、やっぱりやらせていただきたいという気持ちもあります。その意味では、ものを作る、曲を書いたりする上で、ここにこういうものが欲しいと考える気持ちは、ほんの少しですけど理解しているつもりではあります。

 ただ今回は本当にすごく勉強になりました。映画を観る視点もちょっと変わったし、そこにどんな主題歌を描きたいかという部分で、私自身も参加させていただいて、舞台の裏側というかその場所に実際に立って、合宿して暮らしてみて、そこから改めて映画のことを振り返りながら曲が書けたのが、すごく良かったです。

植田真梨恵

――映画のストーリーという部分についてはどうでしょうか? 脚本を読まれて、「これはやってみる価値はあるな」という気持ちを感じたりしましたか?

 最初に脚本を読んだ時には、脚本というものを読み慣れていなかったので、正直ストーリーがうまく飲み込めなくて(笑)。お話を読むこと自体は大好きだし、シーンのつながりみたいなところは何となく見えていたんですが、この映画は群像劇としていろんな人の時間軸が並行して、それぞれにいろんなことが起きるんです。だからそれが出来上がった時にどんな風に絡み合って広がっていくのだろうというところには、最初はあまりついていけてなかったですね。

――ではその出来上がった時に、初めて「やって良かった!」と。

 そうなんです。出来上がったのを見ると感動しかなくて「ああ、ここがこんな風につながってきて…。なるほど! こういう風に距離が縮まっていくんだ!」と。綺麗に展開していく様子が、すごく面白かったです。

――映画のキミエというキャラクター自身に共感した点はありますか? バックグラウンドという部分では、植田さんは違う人生を歩んできたと思いますが、同じようにミュージシャンという立場ではありますよね。キミエは人生でかなり深い挫折を負ったキャラクターであるように見えますが、ご自身も何か歌われていて、うまくいかないと思った時のこととか、何かこの人と共感する部分はあったのでしょうか?

 そうですね、境遇というか…。キミエは「歌手を目指して、長い間夢を見て、都会に暮らして、そして騙された」という境遇の方ですけど、私もずっと長い間夢を見て、何度もオーディションを受けて落ちた経験もあるので、そんな時の心境も合わせて「もし今この状態から、歌手という夢がなくなってしまったら…。例えば仕事で周りの人たちに裏切られたりということが、もしもあったらどうしようか?」みたいな気持ちを想像して演じました。確かに重なる部分もすごく大きいと思います。

 だけど反面「その時に私だったらこうは言わない、しないな」というところもやっぱりあったから、一概に共感したとはいえなくて、すごく似ている部分、似ていない部分の整理が難しいところでしたね。

――その意味では、演技はかなり客観的な目線で演じなければいけないという、難しい演技をされていたということですね。

 そう、難しかったですね。杉山監督からはそのままで本当にいつも通りの植田さんのままでと言っていただいたんですけど「私は普段、どんな風にしているんだろう?」と考えてしまい、ナチュラルな部分を出すのが大変で。それに私は福岡出身で、今は関西に住んでいるので、標準語を全然喋れない(笑)。だから「帰って来ちゃった」というセリフがあるんですけど「そんな言葉、この人生で言ったことがない!」って(笑)。

――でも映画を観て、全体としては雰囲気が演技っぽくなくて、すごく自然でいいなと感じましたよ。セリフを覚えること自体はそれほど難しくなかったですか?

 ありがとうございます! いや、覚えるのも難しかったんですけど、とにかく自分が本当にちゃんと覚えているのかがわからなくて、自信がなかったです。

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