カンヌで喝采を浴びた『光』。河瀬直美監督が「順取り」にこだわる理由

写真拡大

 商業デビュー作『萌の朱雀』(1997)でカンヌ国際映画祭カメラ・ドール(新人監督賞)を、当時史上最年少の27歳で受賞し、10年後の2007年には『殯の森』で同映画祭のグランプリを受賞した河瀬直美監督。さらに10年後となる今年発表され、カンヌ映画祭コンペティション部門にノミネートされた新作『光』が公開中です。

 パルムドール賞は惜しくも逃しましたが、同作はキリスト教関連の団体や批評家によって選ばれる「エキュメニカル賞」を受賞しました。

 弱視のカメラマンの雅哉と、視覚障碍者向けに映画の音声ガイドを制作しているヒロイン・美佐子の姿を見つめた人間ドラマを撮った河瀬監督にインタビュー。ドラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』に出演した監督に山田さんの印象も聞きました。

◆人と人がつながる物語を作りたい

――永瀬正敏さん演じるカメラマンの雅哉が主役ですが、音声ガイドを制作するヒロインの美佐子の物語についてもかなり描かれています。

河瀬:人と人がつながる物語を紡ぎたいんです。雅哉と美佐子には執着しているものがある。雅哉は、目が見えていることに、美佐子は、失踪した父のことに執着しています。痛みをわかちあえる可能性があるふたりを描きました。

――永瀬さんはあて書きだと聞きました。『あん』でもお仕事をされて、この人でなければと感じる部分はどこですか?

河瀬:やっぱり映画への愛ですね。私も映画に魂を注ぐというか、捧げたといえる立場なので、その部分での共感です。

――雅哉の部屋は時計の時間が止まっています。永瀬さんのアイデアだとか。

河瀬:ええ。視覚障碍者の方のところで時間を過ごしてもらって、彼が得てきたものです。そういうことってスタッフがやることではないと私は思うんです。スタッフが得てきた情報を伝えて俳優がやるのではなくて、俳優が得てきた情報を映画の中に組み入れていく。見えない部分ですが、リアリティが違ってきます。

◆『山田孝之のカンヌ映画祭』に出演

――永瀬さんも、美佐子を演じた水崎綾女さんも、クランクイン前から役柄の部屋に住んでいたそうですね。また、監督の作品は順撮りですが、そうしたスタイルは今、少ないと思います。カメラの前に立った瞬間に、パチっと役に入る俳優さんもいるかと思いますが。

河瀬:僕はパチっと切り替えられると言っている人でも順撮りの中で見えてくるものが必ずあると思います。

――雅哉の写真は実際にカメラマンとしても活躍する永瀬さんが撮られたとか。雅哉が最後に撮った美佐子の内面を映し出したあの写真はどう撮影したのでしょうか?

河瀬:あれに関しては、本作の撮影を担当した百々新が撮っています。彼は、もともとスチールカメラマンで、木村伊兵衛写真賞を受賞したこともある人です。あのシーンでは、永瀬君と二人羽織のような状態で撮りました。

――二人羽織に? では、映画のシーンを撮影しながら、その場であの写真を?

河瀬:そうです。ムービーカメラを助手に渡して、永瀬さんからカメラを手渡されて撮影しました。すごく神聖な瞬間でした。

――少し前になりますが、監督は『山田孝之のカンヌ映画祭』に出演されて話題になりました。

河瀬:ね。あれは(監督の)松江(哲明)くんと山下(敦弘)くんと、プロデューサーも前から知っている人で、ぜひ出てほしいという話があって、いいですよ、楽しそうだからって引き受けたんです。山田くんは前から一緒に仕事をしてみたいと思っていた俳優さんだったし。

――これが縁で山田さんは監督の短編『パラレルワールド』(2017)に出演されたんですよね。

河瀬:そうです。山田くんが愛おしくて愛おしくて。もっともっと時間を過ごしたくなりました。ぜひ長編でも組みたいです。

◆監督の根は体育会系女子

――映像の世界に入られたきっかけを教えてください。

河瀬:映像方面に行きたいと思ったのは高校生のころでしょうか。テレビっ子で、そういうのを作る人になれたらいいなと思って、専門学校に入りました。

――高校生というと、進路を考えてから割とすぐにその世界へ飛び込んだ感じですか?

河瀬:10月までバスケをやっていたので(主将として国体に出場も)、進路を考えたのはそのあとだったんです。それまでバスケにかけていたから、バスケをやめて、新しい世界に行くのならバスケ以上にやりたいという思いでした。

――監督の根はスポ根タイプなのでしょうか。

河瀬:そうです。体育会系ですよ。

――最後に、女子SPA!読者に向けてメッセージをいただけますか。

河瀬:生きていくうえで一度はちゃんと自分を見つめる作業は必要だと思います。人と比べるのではなく。結婚とか出産とか、いろいろと言われる世代だと思いますが、そこも含めて、自分のライフスタイルを考えていってほしいです。この国はまだまだ女性に厳しいところもあります。でもめげないで。しなやかに強く。『光』の美佐子もそうですけれど、最後は納得して笑えたほうがいいですから。

<ヘアメイク/桑本勝彦、TEXT&PHOTO/望月ふみ>

『光』は5月27日より全国公開中
配給:キノフィルムズ/木下グループ
(C) 2017 “RADIANCE” FILM PARTNERS / KINOSHITA、COMME DES CINEMAS、KUMIE