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川端由美の「CYBER CARPEDIA」



進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA

Geneva & NY Auto Show



自動車業界のエグエクティブはもちろん、セレブリティが集うことでも知られているのが、「ジュネーブ国際モーターショー」と「ニューヨーク・オート・ショー」だ。自動車産業がないエリアではあるが、世界有数の富裕層が集まる都市で開催されるため、華やかさでは群を抜いている。

世界中のセレブが集まる華やかなモーター・ショー



フランクフルト、パリ、デトロイト、東京……と、世界5大モーターショーに数え上げられる中で、自動車産業を地元に持たないのが、唯一、ジュネーブ国際モーターショー、通称“ジュネーブ・サロン”だ。日本のみならず、世界中で“クルマ離れ”が叫ばれる昨今、モーター・ショーの役割も変化していると言われてはいるが、こと、ジュネーブ・サロンに関しては、世界中のセレブリティが集うモーターショーとして活況を呈している。

今年、ジュネーブ・サロンで初公開されたモデルは148台にのぼり、それほど広くない会場に約900台の新型車が所狭しとひしめく。内容も充実しており、フェラーリがV12エンジンを積んだフラグシップ・クーペとなる『812スーパーファスト』を発表したかと思えば、競うように、ランボルギーニがV10モデルの強化版となる『ウラカン ペルフォマンテ』を登場させる。さらにアストンマーティンも、マクラーレンも、ポルシェも、こぞって新型車を持ち込んだ。



▲ポルシェの中でも、『911 GT3』はサーキットを駆け抜けるために生みだされたポルシェと言っても過言ではない。



▲アウディの最高級SUVのコンセプトとなる『Q8コンセプト』。

なぜ、だろうか――?

第一に、ジュネーブという都市そのものが、世界中の富裕層が集まるエリアであるからだ。ハリウッドスターやF1ドライバーといったキラ星のような人々が、こぞってレマン湖のほとりに居を構えている。風光明媚なことに加えて、充実した医療や税制作など理由をあげたら枚挙に暇がないがないが、とにもかくにも、ちょっとしたお金持ちではなく、スーパー・リッチな人たちにとって、住みやすい環境が整っている。加えて、春待ち望むこの時期、オープン・カーや2ドア・クーペといった華やかなモデルの発表が相次ぐのも、ジュネーブ・サロンを盛り上げる要素だ。

第二に、ヨーロッパアルプス最高峰であるモンブランのトンネルを抜けた先には、イタリアの自動車産業の中心地であるトリノやボローニャが位置している。富裕層が集まることに加えて、そんな立地の良さもあって、スーパー・スポーツカー・メーカーが揃うことも、このショーに華を添えている。

最後に、もっとも重要なのがジュネーブ・サロンでは、前年の決算報告が行われることも重要だ。毎年3月、ヨーロッパで最も早く開催されるだけに、欧州車メーカーのトップ・マネージメントが集う。これもまた、ジュネーブ・サロンの醍醐味なのだ。



▲ケーニグセグという車名をご存知だろうか? ジュネーブ・サロンで発表されるスーパー・スポーツカーの中でも異彩を放っていたのが、ケーニグセグ『グリフォン』。

スーパー・スポーツカーもコネクテッドの時代に



英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語といった各国の言語が心地よく入り交じる会場には、ピカピカの新車が所狭しと並び、クルマ好きには夢のような世界が広がっている。

最大の注目株は、ベントレーによる電気仕掛けの時代に備えたラグジュアリー・スポーツカーの提案、『EXP12Speed 6e』だ。見た目の美しさはもちろん、性能や品質も高級車に求められるものを満たす。例えば、一回の充電で走れる距離は、パリとロンドン、あるいはミラノからモナコまでという設定だ。非接触充電により、コードなしで充電が可能だ。



▲次ラグジュアリー・スポーツカーの次世代を担うコンセプトとして、ベントレーが提案する『EXP12Speed 6e』。

異型ステアリングホイールが備わっており、片側はパワー増幅、一方は速度制限にあわせるボタンが備わる。メーター類に最新のOLEDを採用し、ミラーレスでカメラからの画像を投影。車載コンシェルジュサービスを搭載するなど、快適なドライブのための最新技術が満載だ。

もう一台、注目すべきは、フェラーリ『819スーパーファスト』だ。オールドファンには“胸熱”の車名であり、’60年代に限定生産された『500スーパーファスト』にちなんでいることは明確だ。現代版『スーパーファスト』は、フェラーリ史上最強となる巨大なパワーを発揮する。最高速は340/hに達し、停車から100/hまでわずか2・9秒で加速する俊足ぶりだ。ハイブリッドやEV全盛の時代にあえて、V12エンジンを積むなんて時代遅れも甚だしいと思ってはいけない。実は、フェラーリは世界で最も早くアップル・カープレイを搭載した自動車メーカーなのだ。



▲社内デザイン部門であるフェラーリ・スタイリングセンターの手になるV12モデルの最強版『819スーパーファスト』。

意外な伏兵が、インドの巨大自動車メーカーであるタタが発表した小型スポーツカー、タモ『ラセモ』だ。最高出力192psを生むターボエンジンを搭載し、停止から100/hまで6秒で加速する。シザードアを備えており、いかにもスーパー・スポーツカーといった雰囲気を醸す。特筆すべきは、タタ初のコネクティッドカーであり、ヴェンチャーやIT企業と協業することにより、約2万ドル程度まで価格を抑えることだ。



▲フェラーリが跳ね馬なら、ランボルギーニは暴れ牛といった風に、対で語られることの多い両ブランドだが、ここジュネーブでも競うように話題を振りまいていた。売れ筋のV10モデルの最強版たる「ウラカン・ペルフォマンテ」を発表。

従来の華やかさに加えて、ITや最新テクノロジーの話題も百花繚乱なのが、今年のジュネーブ・サロンの特徴である。

世界有数の株式市場に投資家が集うモーターショー



ジュネーブ・サロンに続いて、春の訪れを感じさせるのがニューヨーク・オートショーだ。毎年、イースター休暇にあわせて開催されるのが常で、ニューヨークのベストシーズンとも言える時期だ。世界有数の証券市場を地元に擁することから、投資家向けや企業情報の発表が多い。

デトロイトからほどよい距離にあり、降雪地帯で信頼性の高い4WD車が売れる市場で、さらに日本車のシェアも高い。そう、「日本車メーカーがアメリカで何をしたいのか?」がよくわかるショーでもある。



▲今回、サブブランドとして発表されたタモ『ラセモ』は、見まごうことなきスポーツカーだ。タタ初のつながる技術を搭載する予定。



▲メルセデス・ベンツの4ドアボディを持つモンスター・スポーツカー『メルセデスAMG GTコンセプト』がベールを脱いだ。『メルセデスAMG GT』の基本的なデザインは踏襲しつつ、リア・ドアを追加している。

実際、話題をさらったのは、2台の和製SUVだ。プレスデー前夜、招待状のアドレスを頼りに辿り着いた先は、フランク・ゲイリーの設計によるモダーンなガラス張りのビルだ。その中には、インフィニティの最上級SUVである『Q80モノグラム』が展示されていた。



▲インフィニティ『Q80モノグラフ』は、フラッグシップとなるフルサイズ高級SUVゆえに、狙う市場は主にアメリカとなる。同時に、ロシアや中東、そして中国も視野に入る。残念ながら、現状では日本市場に導入する予定はない。ライバルと目されるのは、『レンジローバー』やポルシェ『カイエン』である。

3列シートを備えるフルサイズSUVだけに、威風堂々たる佇まいだ。今週、勇退した中村史郎氏に代わって、日産のデザイン部門を牽引するアルフォンソ・アルペイザ氏が登壇し、インフィニティが目指す新しいデザインについて解説した。フロントランプがより切れ長になり、日本的な顔立ちだ。サイドビューにアクセントが施されており、存在感を強調し、インフィニティのアイコンであるクレッセントがDピラーに施される。あくまでコンセプトとの但し書き付だが、ドアミラーレスとなってはいるのも未来的だ。

スバルにとっても、ニューヨークは重要なショーだ。今回、ショーの目玉となったのが、3列シートを備えるミッドサイズSUV『アセント』だ。新しい「スバルグローバル・プラットフォーム」を採用し、成案能力を増強したインディアナ工場で生産される。残念ながら、日本での発売予定はないが、スバルの世界観を広げる重要な一台だ。同時に発表された『クロストレック(日本名「XV』)では、最新のコネクティビティとなる「スターリンク」の搭載が強調されていた。専用アプリをスマホにインストールすると、リンクはもちろん、アップルカープレイやグーグルプレイにも対応する。



▲トヨタの人気クロカンである『FJクルーザー』を思い起こさせるファニーな外観を持つ小型SUV、『FT-4X』。

ジュネーブ、ニューヨークともにモーターショーとしての規模は決して大きくはないし、自動車産業を抱える都市ではない。しかしながら、富裕層や投資家が集まるエリアだからこそ、将来を見据えたテクノロジーを積んだクルマが発表されるのだ。

文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

※『デジモノステーション』2017年7月号より抜粋

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