中国・上海のマンション。一戸一戸に荷物を届けるのは大変だ。そこで配達員は?(資料写真)


 人手不足が深刻な日本の宅配業界。いまや「パンク寸前」とも報じられているが、お隣の中国もまた“特殊な宅配事情”を抱えている。

 筆者は留学時代、上海の大学宿舎の門の前にさまざまな大きさの荷物が無造作に置かれているのをたびたび見かけた。送り主は学生の親や通販サイトなどである。

 学生宿舎は広大なキャンパス内に点在している。そのため、すべての荷物を受取人の部屋まで届けるのは大変な手間がかかる。そこで、「門のところまで自分で取りに来い」というわけだ。

 この方法が行われるのは大学に限らない。上海では、届け先が集合住宅などの場合、路上で荷物の受け渡しをする業者が少なくない。

 路上で荷物の受け渡しをする最大の理由は、もちろん「労力の削減」だ。中国では、宅配はきわめて「割に合わない仕事」と受け止められている。宅配業者の中には、地べたに荷物を並べて受取人に取りに来させる者もいる。手間をかけずに受取人に届けるための“工夫”である。

 しかし、その結果、荷物はぞんざいに扱われることになる。荷物の形が歪んだり、包装材が破れたりするのはしょっちゅうだ。

 以前、筆者が上海で50冊の雑誌をある人に発送したときの話だ。宅配業者が受取人に届けようとしたところ、あいにく不在だった。日本なら不在票を置いて荷物を持ち帰るところだ。ところがその業者はあろうことか荷物を開梱して、50冊の雑誌を1冊ずつガラス戸の下の隙間に無理やり突っ込んでいったのだ。翌日、筆者は受取人から厳しいクレームを受けた。

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利益確保のしわ寄せは配達員に

 中国で宅配の配達員をしているのは、農村からの出稼ぎ労働者が多い。最近は「仕事の大変さに比べて、あまりに低賃金」であることがネックとなり、人員確保がますます困難になっているという。

 今年3月、山東省で「宅配業者殴打事件」が起きた。配達が予定の時間よりも遅れたことに受取人が腹をたて、宅配業者に殴りかかったのだ。配達員は肋骨9本を折る大けがをした。

 配達が遅れた理由は人手不足だった。営業所はもともと6人体制だったが、退職者が出て配達員が減ってしまったのである。

 中国の宅配業界は、業界の成長に人員の確保が追いつかない状況だ。

 国家郵政局の発表によると、2016年、宅配サービス企業の取扱量は312億2000件。前年比で51.4%の増加だった。売上高も3974億4000万元(1元=約16円)と前年比43.5%の高い成長を遂げた。この4月単月でも取扱量は30億件近い。

 ここ数年の宅配業界の成長を牽引したのは、やはりネット通販である。利用者が4億5000万人を超える中国のネット通販業界は、さらなる需要を掘り起こそうと躍起になっている。先頭を走るアリババ集団はビッグデータや人工知能(AI)を活用するなど、サービスの高度化もとどまるところを知らない。

 だが、通販サービスが進化しても、配達員が受取人に直接荷物を届けるという宅配の仕組みは変わらない。中国では宅配業者の9割以上を民営企業が占め、取扱平均単価は1件あたり12.38元(約200円)である。利益確保のしわ寄せは配達員に向かうという構図だ。

 前述した“肋骨9本を折られた宅配業者”は地元メディアの取材に対し、「100個配っても50元(約800円)程度、1つの配達では5毛(約8円)しかもらえない」と訴えた。都市部ではもう少しもらえるだろうが、それにしても5毛はあまりに安い。宅配業は構造的に利益が薄く、大手と言われる事業者でもいつ倒産してもおかしくないところがある。

宅配業者を見下す風潮も

 ピンポーンと鳴る呼び鈴に、家の主は「ノンサニーン?」と訝しそうに応える。「あんた誰?」を意味する上海語だ。

 扉の向こうにいる来訪者が宅配の配達員だと分かると、無愛想にドアを開ける。「謝謝(ありがとう)」の「シェ」もない。無言で荷物を受け取ると、配達員の目の前でドアをバタンと閉めてしまう――。

 筆者は上海で、さんざんそういう光景を見てきた。配達員の圧倒的多数を占めるのは外省出身者であり、上海人は明らかに彼らを見下していた。

 また、上海人に限らず、世の中全体が配達員に冷たかった。日焼けした顔にヨレヨレのシャツ、風貌や体臭から「泥棒」呼ばわりする者もいた。実際に、マンションの敷地の入り口でガードマンによって立入りを拒否される配達員も少なくない。

 先日、ネット上で、ある宅配員の手記を見つけた。その配達員は、賃金の低さに加えて仕事上の不満をこう綴っていた。

「人に接触する機会が多い仕事なのに、人はこの仕事に理解を示さない。当然、これは私の働く意欲に大きく影響する」

 言葉こそ丁寧だが、行間からは「やってられるか」という憤りが伝わってきた。

 日本では、宅配業界の人手不足を社会の問題として捉え、解決を目指そうという動きがある。一方、中国では配達員の境遇を問題視し、同情する声はほとんど聞かれない。

 取扱量が年々急増する中国の宅配業界において配達員はいつまでしわ寄せを受け続けるのだろうか。出稼ぎ労働者に依存した宅配業界の「低コストモデル」の崩壊は時間の問題になりつつある。

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筆者:姫田 小夏