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■どんなクルマ?

シャープなボディはあの銘車譲り(?)

アウディの新型S5クーペに試乗することができた。これはアウディA5/S5シリーズがフル・モデルチェンジを受けたことによるもので、クーペは9年、4ドア・モデルのスポーツバックは7年、そしてカブリオレは8年ぶりの刷新となる。

2007年にデビューしたA5シリーズは元々A4セダンのアーキテクチャーを使用し、エレガントなクーペ仕立てのボディと組み合わせたことから始まっている。

最初は偶数=4ドア、奇数=2ドアというモデル・ネームの解釈が成立したが、2009年に4ドア・クーペともいうべきA5スポーツバックがデビューすると不文律は崩れ去っている。

 

とはいえ今回のA5/S5シリーズもボディの核となるアーキテクチャーはA4のそれに準じている。

流麗な2ドア・ボディに強心臓とフルタイム4WD、クワトロ・システムを搭載したハイ・パフォーマンス・クーペという、アウディ現行5シリーズ中で最も華やかな立ち位置を持ったS5クーペは、エッジの効いたスタイリングと内に秘めた高性能によって、WRCに革命をもたらした初代アウディ・クワトロを彷彿とさせるのである。

角っこはまさにナイフエッジ

初代からS5クーペの最大のトピックは優雅なスタイリングにあったが、今回はピンッと張り詰めたようなエッジを多用することによってさらに緊張感が高められている。

特にボンネット・サイドのラインをそのままテールエンドまで導いたショルダーのキャラクター・ラインは自動車世界では見慣れないナイフエッジのようなシャープさを誇り、アウディの工作精度に惚れ込んでいるファンを熱狂させるような仕上がりになっている。

 

またフロントとリアのフェンダーにバランスよくボリュームを持たせたためか、ドアが巨大すぎるということもない。

クーペ・モデルのオーナーはスタイリングと同じように駐車場での乗り降りもエレガントにこなしたいと思っているに違いないが、現実にはそうもいかない場合が多い。だが新型S5クーペのドアを開け閉めする限り、ある程度狭い駐車場でもうまく乗り降りができそうだと確信した。

リア・シートも、一旦座ってしまえば快適に過ごせるだけの空間はしっかりと確保されていた。

差別化は明確に

専用グリルやアルミ色のサイド・ミラー、19インチの専用ホイールなどSとAの違いは数多あるが、中でもパワー・ユニットの違いは決定的といえる部分だ。

A5が直列4気筒ターボの2.0 TFSIユニットであるのに対し、S5はV6ターボの3.0 TFSIユニットが搭載されている。

最高出力はA5の252psに対し、S5は354psとこちらも明確な差別化がされている。ちなみに欧州では今年の夏からデリバリーが開始されるとアナウンスされているシリーズ最強モデルのRS5は、2.9ℓのV6から450ps以上を絞り出してくると言われており、こちらの差別化も圧倒的と言える。

 

またクワトロ・システムのトランスファーが仕込まれたギアボックスはA5では7速のSトロニックが組み合わされるが、S5では8速ティプトロニックとなっている。

このあたりのチョイスからも、S5はRSモデルのように過激さを求めるのではなく、エレガントなパフォーマンスを追求したモデルと言えるだろう。

 

S5クーペの室内に目を移すと、水平基調のスタイリッシュなダッシュ・パネルが目に飛び込んでくる。いかにも高級パーソナルクーペ用のデザインに思えるのだが、これはA5/S5のみならず、A4シリーズにも共通する意匠となっている。

またオプション設定となっているグレーのファイン・ナッパ・レザーにクロス・ステッチが施されたSスポーツシートも存在感があり、S5クーペの秘めたる高性能を上手にアピールしている。

 

新型S5クーペの内外装からは商品性の高さが十二分に窺えたのである。

■どんな感じ?

速さより優秀さが先に立つ

大いに期待をしつつエンジン・スタートのボタンを押し込むと、最初の第一声からして想像していたよりも控えめで、すぐに静かなアイドリングに落ち着いた。

 

「静かさ」というのは新型S5クーペの特徴的な部分で、パワートレインは存在感を隠してスピードを乗せていくのが上手く、タイヤのパターン・ノイズもボディ自体の遮音性が高いためほとんど気にならない。高速道路に入り流れに合わせて走っている限り、風切り音も非常に少ない。

先代のS5クーペ・クワトロは、V8エンジンの存在感を前面に押し出したような性格付けがされていて、フロント・ヘビーな分だけステアリングの手応えも強く、ゆっくりと走っている時でも速いモデルに乗っている雰囲気がヒシヒシと感じられたのだが、新型にはそれがない。

 

ステアリングも軽めだし、車体全体の動きもはるかに軽快に感じられる。とはいえフロントにも絶えずけっこうなトルクが配分されている様子がわかるのは、クワトロの伝統的な感触と言える。

現行のA4/A5には新たなMLB Evoという最新のアーキテクチャーが採用されているのだが、A4以上の大型モデルで採用が進められていくこの車体基盤の仕上がりがかなり優秀であることが良くわかる。

懐の深まった走り

ワインディングでペースを上げていった場合のS5はしかし、性格が一気に豹変してしまうわけではなかった。

しっとりと上質な雰囲気を保ったまま、レヴ・カウンターの針だけが6500rpm付近のリミット付近に積極的に留まって仕事をこなす感じなのである。

「アウディ・ドライブ・セレクト」でコンフォートからダイナミック・モードへと切り替えても、急にアシがカタくなるということもない。

シャシー本来のしなやかさはそのままに、微かにロール剛性だけが上げり、4輪で踏ん張るクワトロのフィーリングだけを生々しく伝えてくれる。

 

コーナーへの進入で減速を終えた後、かなり早くからスロットルを開けていけるのはアウディのスポーツ・モデルの特徴で、少々アンダーステアに感じていてもスロットル一定で待つことで電制のセンター・デフがオンザレールに復帰させてくれる。

試乗車にはオプションのリア・スポーツ・ディファレンシャルが組み込まれていたのだが、このギミックも違和感のほとんどないベクタリング効果によって旋回を助けてくれていた。

 

新型S5クーペの速さは相当なものだが、しかし本当に凄いのは高性能をひけらかさない懐の深さにある。先代は速そうな雰囲気に満ち溢れていたが、実際に峠を走るとわりと早くにフロントタイヤが音をあげ、下りはクーリングに徹するといった感じだった。

その点恐ろしく前後長の短い3.0ℓV6を搭載した新型S5クーペはハンドリングにも軽快感が漲っており、しばらくワインディングを飛ばしていても安定感は揺るがなかった。

安全に対する配慮も抜かりなし

アウディS5クーペはスタイリングの面でも走りの面でも大きく進歩していることが確認できたが、さらに標準で装備されるアシスタンスやセーフティ機能の充実ぶりにも目を見張るものがある。

周囲のクルマや歩行者を検知して衝突を回避する「アウディ・プレセンス・シティ」や「アダプティブ・クルーズ・コントロール」と「アクティブ・レーン・アシスト」の連携によって半自動運転に近いクルージング走行も体験することができる。

 

試乗車に装備されていた「バーチャル・コクピット」によってドライバー正面のメーターナセル内にナビ画面を映し出せる機能もとても便利だった。

新型S5クーペはハイパフォーマンスな走行性能とは別にアウディとしての快適さの追求にも余念がないのである。

■「買い」か?

「能ある鷹は」

高速道路ではもちろんのこと、ワインディングでも大抵のスポーツカーに比肩するだけのパフォーマンスを持っていながら、それをアウディ一流のインテリジェンスによって、対外的にも車内のパッセンジャーにもひた隠しにできる。アウディの新型S5クーペはそんな稀有な性格の持ち主である。

アウディS5クーペと同じような高性能を誇るライバルたちを見回すと、速さを必要以上にアピールしようとして派手なエアロを付けていたり、コーナリング姿勢にだけ焦点を当てたような硬いアシが乗り心地を台無しにしていたりするパターンが多い。

ところがS5クーペは特に何かを犠牲にしているようには感じられない。普段通りインテリなままでル・マンに勝ってしまう、そんなアウディのイメージをそのまま体現しているのである。

精緻な見た目と充実した性能、圧倒的なスピードの共存を求めるならば、アウディの新型S5クーペこそ最適な選択肢だと言い切れる。

アウディS5クーペ

■価格 9,130,000円 
■全長×全幅×全高 4705×1845×1365mm 
■ホイールベース 2765mm 
■乾燥重量 1680kg(パノラマサンルーフ付きは+20kg、リアディファレンシャル付きは+20kg) 
■エンジン V型6気筒2994ccターボ 
■最高出力 354ps/5400-6400rpm 
■最大トルク 51.0kg-m/1370-4500rpm 
■ギアボックス 8速ティプトロニック 
■サスペンション ウィッシュボーン / ウィッシュボーン 
■ブレーキ ディスク / ディスク 
■ホイール+タイヤ 255/35R19 
■燃費(JC08モード) 12.7km/ℓ