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Base Ball Bearの小出祐介が部長となり、ミュージシャン仲間と映画を観てひたすら語り合うプライベート課外活動連載。今回は、原作が濃いSFファンから支持されてきた『メッセージ』。ネタバレを含みますが、小出部長の真摯な解説を読んでからでもより映画を楽しむことができるのではないでしょうか。


活動第35回[前編]「メッセージ」

参加部員:小出祐介(Base Ball Bear)、福岡晃子(チャットモンチー)、オカモトレイジ(OKAMOTO’S)



 


僕ら人類が感じている時間と、ヘプタポッドの時間感覚は真逆のもの


──「みんなの映画部」第35回。今回はSF映画『メッセージ』です。日本では、宇宙からやって来た巨大飛行体の形がお菓子の「ばかうけ」に似ているということで、栗山製菓公認のコラボポスターが話題ですが、内容はめちゃめちゃ“ドSF”(笑)。そのギャップがすごい一本です。


小出 ドSFでしたね〜。


──監督は『ブレードランナー 2049』も控える注目の俊英、ドゥニ・ヴィルヌーヴ。まずは恒例、小出部長からのひと言をお願いします。


小出 いやあ、なんていうか、どう評価するのか、ちょっと難しいなあ。


レイジ 思ったより地味というか、結構さらっとしてたかな。緊張感はありましたけど。

福岡 私は面白かった。ずっとドキドキしてた。


小出 僕は正直、原作を読んだときに掻き立てられたイマジネーションのほうが、自分のなかでは楽しめたかな。


──原作はSFファンの間で傑作と名高いテッド・チャンの小説『あなたの人生の物語』。中編に近い長さの短編ですが、部長はこれをしっかり読み込んでいたらしいですね。


小出 何年か前に初めて読んで、昨日も読み直してきたんです。この原作はたしかに傑作なんですけど、とても濃いSF小説であるがゆえに映像化のハードルも高い作品だと思うんですよ。だからどう映像化されるのか楽しみにしていたんですが、全体的な感想としてまず、「また中国がキーになったか」と(笑)。


──原作にはない、映画独自のアレンジの部分ですね。


小出 宇宙人との和平に向けて、大国同士の協力が必要な展開になる。それで最後、中国の判断が物語を左右してたじゃないですか。


レイジ それって何か理由があるんですか?


小出 中国の映画市場がめちゃめちゃ大きくなっていて、ハリウッド映画に出資することが多くなってるのよ。


──最近はSF大作とかだと、必ずと言っていいほど中国資本が入ってますからね。『オデッセイ』もそうだし。


小出 前回取り上げた『キングコング:髑髏島の巨神』もそう。あれはロケーションも水墨画になりそうな雰囲気だったし、みんな泥だらけになって島から脱出しようとしてるのに、1人だけ妙にきれいなまま生還する中国人の人がいたりね(笑)。


レイジ 中国アピール、入れとかないといけない感じですね。


小出 ちなみに原作は、数学や物理学を土台に、言語学や宗教学や哲学などを絡ませながら複合的に組み上げられていて、宇宙人の設定や謎解き部分も本当にワクワクするのよ。宇宙人が来たら本当にこういう感じで交流するのかなぁとか想像したりしちゃう。


っていうのを踏まえると、映画版は大前提の部分をはしょってるんだよね。今回の映画のいちばんメインの仕掛けって「時間」じゃないですか。なんで主人公の女の人、言語学者のルイーズ(エイミー・アダムス)が自分の娘のビジョンを見てたか、そこわかった?


レイジ 要はルイーズが見ていたのは未来だってことですよね。最初は「えっ、この人、娘がいるわけ?」と思いましたけど。


福岡 私も途中で「あっ、これ未来か」って思った。


──通常の映画の文法だと「回想シーン」に見えるパートが、実は未来の光景だったと。そこに絡めてミスリードっぽい台詞も細かく仕掛けられています。


レイジ で、ルイーズはヘプタポッドっていう宇宙人の言葉に触れて、解読できるようになる過程で未来が見えるようになっちゃった、ということですよね?


小出 ざっくり言うとそういうことだね。まず、原作で語られる根本的な前提の話としては、僕ら人類が感じている時間と、ヘプタポッドの時間感覚は真逆のものなのね。物理属性が全然違う、と。


例えば僕らは【A地点(現在)からB地点(未来)に到達する】っていうことを、Aの段階では知らないでしょ? 到達して初めてBだとわかる。さっきTOHOシネマを出た段階で、いま喫茶店にいるってことが確実にわかっていたわけではないじゃない? もしかしたら交通事故に遭って病院に運ばれていたかもしれない。


レイジ そうですね。


小出 だから「現在地点があって、その先に(今は不確定の)未来がある」っていう時間の図式が成立しているわけ。でもへプタポッドの場合は【AからBに到達する】のはあらかじめわかっている。A地点もB地点も把握している。っていうことは、ややこしい言い方になるけど、始まってすぐAがAだと認識したんじゃそれはもうAが過去っていうことになるでしょ? だから、【AがAであることも、Aが始まる前からわかっている】。


そんなふうに、彼らの時間は「流れ」ではなく、過去・現在・未来っていうのが全部フラットに並んでいる時間感覚なの。その代わり、【AからBに到達する過程】を感じるためには、彼らは複雑な計算が必要という。だからもう、人類とは圧倒的に異なる時間感覚で。


 


問題なのは、人類には「自由意志」があるということ


──本当に思考実験の域で、リアルに考えすぎると頭が痛くなる(笑)。すごく単純に言うと、我々地球人の認識だと、時間はタテに流れている。でもヘプタポッドの場合、すべての時間が横並びになって全部見えちゃうってことですね。


福岡 だから登場人物が「未来はこうなるんだ」って知っちゃったら、それを変えようとするのが今までの映画のパターンっていうかさ。「こんな未来はイヤだから、違う運命を選択したい」っていう気持ちが働くのが普通だったんだけど、でも今回の映画の場合、へプタポッドの認識が主人公のルイーズに移ったことで、「悲しい未来だけど、自分はそれを受け入れていく」っていう覚悟を決める、みたいなところが新鮮だった。


小出 そうね。だからここでもうひとつ問題になってくるのが、人類には「自由意志」があるってこと。


例えば、「何年何月何日にこういうことが起きます」って書いてある予言の書があって、この予言は絶対に当たりますって言われても、それがイヤな運命だったら、なんとか回避しようっていう選択肢が発生するでしょ?


──そうすると『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的な、タイムパラドックスの中でつじつまを合わせながら未来を変えようとする物語になる。


小出 そうそう。でも本当は、“自由意志も含めて”予言書が書かれていないとおかしいんですよね。予言が予言になっていないっていう矛盾が発生してる。つまり、人類に自由意志がある以上、予言は成立しないっていうこと。


だけど、【AからBに到達する】のをあらかじめわかっているヘプタポッドの時間感覚を人類的に捉えた場合、「予言が成立している」ことになる。でも、ヘプタポッドにとってこれは当たり前のことで、これも人類的に捉えると、ヘプタポッドはそういう「流れ」のなかにいるので、その結果を変えようという発想自体がない。


なんやかんやあってルイーズは人類にも関わらず、へプタポッド的な世界観が混ざっちゃうわけですよ。すると、どうなるか? 彼女の娘は、いずれ若くして死んでしまう。人間的な自由意志であれば、なんとかその悲劇を回避したいと思う。だけどへプタポッド的な時間感覚が混合したルイーズは、それを回避しようという発想を回避する。ただ事実を受け止めていこうっていう。


そこで面白いのは、逆にへプタポットであれば経験しがたい【AからBに到達する過程】を、より濃く感じようっていうふうに彼女は思うんだよね。つまり、例え悲劇的な未来であっても、そこに至るまでの「過程」をしっかり感じていこうって、人類的に思うっていうこと。


──それを踏まえて「いまの一瞬一瞬を幸せと感じよう」ってことですよね。ここまで来ると普遍的な人生論に達してしまう。


小出 「結果」じゃなくて「過程」っていうこと。それを濃く感じようっていうのが、へプタポッドにはない、人間ならではの幸福だっていうこと。


レイジ すごい! めっちゃ面白いですね。


福岡 今の説明ですごくわかった。でもこれ、コイちゃんじゃなかったら誰が説明してくれるんだろ?(笑)


小出 原作を踏まえてこういうことだと僕は解釈したけど、この映画だけ観てすぐに理屈を呑みこむのは難しいと思う。


──逆に言うと、むしろ映画は理屈の提示はなるだけシンプルにして、もっと「お話」的に再構成したんでしょうね。


福岡 ずっとどうなるんだろう、どうなるんだろうって思いながら観ていて、映画のストーリーを追っていくだけでも私はかなり乗れたんよ。でも今の説明を聞いて、もっと理屈っぽい映画だったんやなっていうのがわかって、より好きになった。


小出 土台の理屈がすごいからね。映画もそこは壊していない。例えば『インターステラー』とかも基本の理屈は詰めているけど、五次元空間の話になるから、ファンタジー色も強く感じるよね。


TEXT BY 森 直人(映画評論家・ライター)



劇場から喫茶店へ向かう道すがら。パンフレットのながら歩きはダメですよ。


『メッセージ』の世界観が音楽作りの話へと

発展しくいく[後編](5月30日配信予定)へつづく