「デキる人は、もともとバリバリ頑張れる人で、頭がいいからずっと先を読めて計画的に行動できるんだ。私には無理かも」そんなふうに悩んだり力んだりしなくても、ゆるやかに好きなことを続ける道もあるはず。

「会社員に向いていないと思っていたものの、やりたいことも特になくて。その中でこれならできそうだということを続けていたら今の形になりました」と話すのは、会社員から、専業主婦生活を経て、フリーランスでテーブルコーディネーター・フードスタイリストとして活躍する菅野有希子(すがの・ゆきこ)さん。

マネしたくなるテーブルコーディネートや食器、ホームパーティーで取り入れたいアイデアなど、食卓を演出するヒントを発信するメディア「TABLE MANIA」を立ち上げ、現在は大手メーカーのビジュアルスタイリングを担当するなど、華々しく活動されています。

そんな菅野さんも、会社員時代には多くのモヤモヤを抱えていたんだそう。インタビュー前編では、未経験からの独立準備や、「好きなこと・得意なことしかやらない!」と達観できるようになったきっかけを聞いてみました。

苦手な仕事をしていたモヤモヤが原動力に

--会社員から専業主婦を経て、現在はフリーランスとして活動されていますが、会社員時代からテーブルコーディネートの仕事に興味があったんですか?

菅野有希子さん(以下、菅野):いえ。会社員時代はこうして活動しているなんて思いもしませんでした。新卒で入ったシンクタンクではコンサルタントをしていました。ハードな環境だったので、「これは体力的にも厳しいぞ」と考えて、20代中盤で会社員を辞めました。

その後いくつかの転職を経るのですが、どの仕事もどうもしっくりこない。結婚をして、これからどんなふうにライフプランを考えようかと自分と向き合った時、仕事が苦手というより“会社員”があっていないんだなって。「仕事を長く続けていくには、フリーランスの方が向いているんじゃないか」と思うようになったんです。でも、いきなりフリーランスになる勇気もない。しばらく専業主婦をしていました。

--そこから今の仕事を始めるようになったきっかけは?

菅野: 元々「テーブルスタイリストになりたい」「メディアを立ち上げたい」と思っていたわけではなくて、「主婦が始めるなら、ネイリストがいいのかな?」とか、他のことも考えていたんです。あれこれ手を出してみたけど、続かなかった。適正がなかったのもあるけれど、向いてないなって。

いろいろ考えても、これといったものは見つからないまま。そんな中で楽しかったのが食卓を飾ることだったんです。結婚して初めて自分でキッチンに立つようになったので、料理をするのが新鮮で(笑)。やるならかわいくしたいと思い、iPhoneで撮影した写真をSNSにアップしていました。

そうしているうちに、友達から「素敵だね」と言ってもらえるようになって。それが原点ですね。テーブルスタイリングだと、ホームパーティーという必要とされる場があるし、ネットで発信したことはどんどん感想をもらえる。それが嬉しかったです。

iPhoneで撮影してSNSにアップしていた頃/画像提供:菅野さん

形から入るよりアウトプットが先

--ではそこからスタイリストになる勉強を?

菅野:はじめは誰かについて習うというようなことはしませんでした。準備を万全にしたというより、活動していく中で足りない部分を後から補っていったんです。アウトプットが一番大事だと思ったから、とにかく作品をウェブに公開しました。ある程度お仕事をいただくようになってから、一般社団法人テーブルウェアスタイリスト連合会の講座に通って、資格を取得しました。勉強をするためというよりも、資格を持っていた方が、周囲にもどんな人かわかりやすいと思ったんです。

--何かを始めるなら形からって思いがちですよね。運動するならウェアを買わなきゃみたいな。でも、菅野さんの場合は、それよりもやってしまえばいい、と。

菅野:そうですね。機材も最初から意気込んで揃えたわけではありません。「TABLE MANIA」の初期の写真は、iPhoneで撮影したもの。すぐに一眼レフを買ったけれど、レンズは付属のものを使っていました。まずはとにかく手持ちのものでやってみて、物足りなくなったら投資していくのがいいと思います。必要じゃないものって、勉強したことも、機材も、結局使わないじゃないですか(笑)。

現在のテーブルコーディネートの一例/画像提供:菅野さん

--フリーランスとして働く上で、人脈も大事な気がします。営業活動などは積極的にしましたか?

菅野:得意じゃないので、できるだけやらないようにしています。売り上げも、自分のキャパもあるので、体力・時間・気力のバランスをみて考えています。というのも、もともと、会社員時代は頑張りすぎてしまうタイプだったんです。

理想が高くて、それが達成できないと極端に落ち込んでしまう。「何か果たさなければ」という気持ちがいっぱいで、「情熱大陸病」だと言われたくらいです(笑)。長く働き続けたいからこそ、無理はしないようにセーブすることが大事だなって。時々「もっと成功したい」という欲が出そうになりますが、ボロボロになるより、プライベートや健康を保ちたいし、その中に仕事があるという状態を保っていきたいです。

「他の人が褒めてくれるもの」を仕事にするのがベスト

--頑張りすぎてボロボロにならないことが一番大事ですね。

菅野:そうですね。頑張りすぎてしまう人は、理想にとらわれて、自分の良さが出しにくい部分があるんじゃないかな。お金とか、責任感で動くよりも、自分が楽しんでやれることを選ぶ方がうまくいくと思います。

私の場合は、世の中のフォーマットから選んで「これを勉強しよう」と意気込んで始めると、うまくいかなかった。最初から「テーブルコーディネーターになろう!」と思っていたら、なれなかったかもしれません。自分が好きなことをゆるやかに続ける。「まずやってみよう」というのがきっかけでも、続ければ可能性の種は成長していきますよ。

(撮影:池田真理)

小沢あや