退職金を2回貰える人、貰えない人

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■このわずかな違いが天国と地獄の分かれ目

部長であっても定年後、1年更新の非正規社員として再雇用されるのが一般的だ。しかし実状は、子会社の役員に潜り込み、高給プラス役員退職金まで貰う人もいれば、かたや現役時代の半分の給与で一兵卒として働く。まさに天国と地獄である。

子会社の役員ポストは激戦区で、射止める人は、本社の実力役員の側近が少なくないと指摘するのは建設関連会社の人事部長だ。

「あの人は部下の行く末も考えてくれる、あの人に付いていれば老後も安泰だぞと言われる役員がいる。その役員は有力子会社に影響力を持ち、子飼いの社員を役員で送り込む仕組みをつくっている。子会社の役員ポストを狙うにはそういう役員に近づき、気に入られるのが近道です」

しかし、役員に尻尾を振ってもポストが転がり込んでくるほど甘くはない。ポストを奪うには現役時代から周到な仕掛けも必要だ。

ある食品会社の営業部長は、56歳のときに、子会社の加工食品会社と共同で、カット野菜の販売事業を立ち上げた。創設当初から、製造方法など子会社のやり方に口を出すようになったという。そのうち自分の部下を子会社の課長として出向させるなど、親密な関係をつくり上げた。そして、本人も部長職の役職定年の58歳になる直前、その子会社に常務として乗り込むことに成功したのである。

同社の人事部長は「本社の役員への芽がないとわかっての極めて巧妙な手口だ。表面的には本社事業部と共同事業と称して、自分のポスト狙いで画策する手口はたまにある。ここまで仕組まれては、人事も口出しできないのが現実」と語る。優良子会社の役員になれば、月給と賞与の合計で年収2000万円。10年勤めれば、役員退職金も約2000万円貰えるというから驚きだ。

■ポスト争いするライバルの評判を下げる秘策

子会社役員の争奪戦は半端ではない。ライバルを蹴落とすためにあらゆる策を弄する輩もいる。ときにはライバルに不利になる醜聞を流す。不動産会社で、子会社の役員人事を決める直前に担当取締役から「候補だったA部長がクライアント先の女性課長と親密な関係にあるとの噂があるらしい。調べてくれないか」という依頼が人事部にあった。人事部が女性の勤務先の親しい関係者に当たったところ、確証はないが付き合っていると情報を得た。その結果、A部長は役員候補を外され、代わってB部長が子会社の役員に就任したという。同社の人事部長はその理由をこう語る。

「社内不倫など女性関係を理由に処分したり、候補から外すことは一般的にはしない。なぜなら経営陣もそれなりに後ろめたい関係があるので、それを処分したら逆に刺されかねないので寛容になりがち。ただし、相手がクライアント先の女性となると話が違う。ビジネスにも影響を与える恐れがあるからだ。噂の出所はB部長だというのは最初から推測できたが不問に付した」

人事部長によると、女性関係で問題視されるのはクライアントの女性以外に、役員の情報を知る秘書と社員の妬みを買いやすい“社内きっての美女”だという。だが、女性問題をネタに追い落とすのは、自分の身にはね返ってくるリスクも大きい。

■役員になるために仲良くなるべき部署とは

追い落とすための正攻法はライバルの所属部門の業績不振の情報を社内に流すことだという。「業績の詳しい情報を握っているのはトップ層と経営企画と人事。ただ、この三者は口が堅い。じつは情報を早く掴んでいるのは事業管理部門。この部門の社員と日頃から仲良くして情報を仕入れ、社内問題化すれば追い落とす正当な理由にできる」(建設関連会社人事部長)。

子会社の役員ポストが棚からぼた餅で舞い込んでくることはない。多少のリスクを覚悟して、したたかに準備しなければ奪い取ることができないのだ。

(ジャーナリスト 溝上 憲文)