Bリーグ2016-2017 クライマックス(5)
チャンピオンシップ・ファイナルレビュー

 個人技と戦術、冷静と情熱、気持ちと気持ちがぶつかり合い、逆転に次ぐ逆転。Bリーグ・チャンピオンシップ(CS)ファイナル「栃木ブレックスvs.川崎ブレイブサンダース」の一戦は、バスケットボールの魅力が高濃度で凝縮された40分間だった――。


試合終了のブザーが鳴った瞬間、喜びを爆発せた田臥勇太 よき勝者には、よき敗者が必要だ。

 初代Bリーグ王者となった栃木ブレックスにはもちろん、敗れはしたものの、栃木とともにバスケットボールの魅力を余すことなく披露した川崎ブレイブサンダースにも、万雷の喝采を送りたい。

 目測で7対3、ないしは8対2。

 ファイナル前日の事前練習で、田臥勇太(PG)は「ブレックスのファンが会場を黄色に染めてくれるのが楽しみ」と語った。実際にファイナル当日、黄色いTシャツを着た栃木ファンの数が、赤いTシャツの川崎ファンを大きく上回っていた。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 Bリーグ初代王者を決める一戦の勝敗の行方は、リーグ最高の栃木のディフェンスとリーグ最高の川崎のオフェンス、どちらが上回るかが分水嶺とささやかれていた。

 ゲーム序盤、まずは栃木がその守備力を発揮する。

 川崎のスターターの両ガードは、CSに入って絶好調の篠山竜青(PG)、シューターの辻直人(SG)と得点能力が高い。栃木は守備力の高い遠藤祐亮(PG/SG)を篠山に、同じく守備力が高く190cmと上背がある古川孝敏(SG/SF)を辻にマッチアップさせた。

 この2組のマッチアップで川崎のよさの一端は消せたものの、必然的に173cmの田臥が190cmの長谷川技(SG/SF)とマッチアップすることになる。当然、ベンチの北卓也ヘッドコーチ(HC)から「もっと田臥を攻めろ」と長谷川に指示が飛ぶ。しかし、長谷川がミスマッチを利用してインサイドにポジションを取ろうと試みるも、田臥が身体を張ったディフェンスで思うようにプレーをさせない。

 さらに栃木は、「散漫」ではなく「徹底」を選んだ。得点王である川崎のニック・ファジーカス(C)に対し、カバーリングもダブルチームもせず、ライアン・ロシター(PF/C)が1on1で守る。ダブルチームでファジーカスを抑えようとすれば、結果的にどこかにノーマークを作ることになる。ファジーカスにある程度得点を獲られてもいいが、その他の選手には点を獲らせないという、栃木の断固たる決意が試合開始直後から垣間見えた。ロシターの気迫、さらにファイナルという重圧もあったか、レギュラーシーズン平均27.1得点のファジーカスは前半8得点に終わった。

 前半は43-37と、ほぼ互角。しかし、1試合平均84.3得点の川崎を37点に抑えた栃木ペースだったと言っていいだろう。

 だが、栃木の奇策がハマったのではない。強固なディフェンスは一朝一夕では構築できないし、PGの田臥をSFにマッチアップさせることも、レギュラーシーズンから実践していた栃木のスタイルのひとつだということも記しておきたい。

 後半開始直後、今度は川崎の得点力が火を吹く。

 ハーフタイム、北HCがファジーカスに「熱くなっている。1on1なんだから冷静に攻めればいい」と指示。落ち着きを取り戻したファジーカスが息を吹き返し、第3クォーターのスタートから得点を重ねた。さらに、一瞬インサイドに意識が向いた栃木ディフェンスの隙をつき、キャプテンの篠山がこのクォーターだけで7得点を挙げ、残り5分26秒で52-51と逆転に成功する。

 川崎は自慢の得点力を誇示し、第3クォーターだけで26得点の大量得点。この後、リードする川崎に栃木が離されず食らいつくという、焦(じ)れるような展開がゲーム終盤まで続くこととなる。

 追いかける栃木が再逆転したのが、第4クォーター残り7分9秒。ここから、リードが入れ変わること9度の目まぐるしい展開に突入する。誰の目にも、チーム力の差は皆無、どちらのチームが勝ってもおかしくないと映ったはずだ。

 勝敗を分けたワンプレーがあるとしたら、82-79での残り59秒、栃木3点リードで迎えた川崎のプレーだ。ハイピックからファジーカスと辻にディフェンスの意識が向く瞬間、ゴール下に走り込むライアン・スパングラー(PF)にアリウープパスを出し、フィニッシュするようデザインされたセットオフェンス。これはレギュラーシーズン中、川崎が何度も決めてきたプレーだ。しかし、ノーマークになったスパングラーに篠山が送ったパスは大きく上方に外れ、栃木ファンが埋める客席に吸い込まれる。

 直後の栃木のオフェンス。残り38秒、田臥がプレッシャーをかける篠山を抜き去る。この試合、シュートタッチがよく自らシュートを選択することもできたが、田臥は冷静にファジーカスを釣りだしてから、ゴール下のジェフ・ギブス(PF/C)にパスを送った。ギブスが一瞬遅れたファジーカスのブロックを冷静にかわし、レイアップを沈めて84-79の5点差に。ここで、勝負あった。

 試合後、篠山が「田臥さんに『まだまだだよ』と言われているようだった」と語ったのは、この勝負どころ一連のプレーを指すはずだ。

 CSで好調を維持し、この試合も13得点、ターンオーバーもふたつしか記録していないキャプテンの痛恨のミスだったが、北HCは「敗戦は私の責任」とかばった。

「ファイナルの会場は中立地の代々木第一体育館。しかし、さすが人気チームの栃木さんでした。会場は栃木のホームのような雰囲気。緊張感が高まる試合終盤の大切な場面ということもありますが、篠山はああいったミスをする選手ではない。栃木ブースターの大声援が与えた心理的影響が大きかったのではないでしょうか」

 この日、会場を埋めた観客は1万144人。そのうち多数が栃木ファン。勝敗を分けた瞬間、ファンの声援が6人目のディフェンスとなり、篠山のミスを誘発したと記すのは美しすぎるだろうか?

 ただ、個人的なハイライトを述べさせてもらうなら、その後の2プレーを挙げさせてもらいたい。

 試合残り16秒、85-79で栃木のリード。ほぼ勝利を手中にしながら、コート外に飛んだルーズボールを追いかけ、田臥が客席にダイブした。一歩間違えれば負傷しかねないシーン。凡庸な感覚からすれば、得点差と残り時間を鑑(かんが)みて、無理する必要はない状況にも思える。しかし、マイボールにできる可能性がほとんどないにもかかわらず、田臥は一瞬もためらわず飛んだ。

 さらに残り8秒、今度はギブスがルーズボールを追いかけ、コート外にダイブする。その結果、ジェフは左足を負傷。優勝の瞬間をコート上で迎えることができなかった。しかし、きっと田臥でなくても、ギブスではなくても、栃木の選手ならば誰もが目前で同じ状況が起こったのなら、臆することなくルーズボールに飛び込んでいたと思えてならない。

 栃木と川崎、戦力差は微塵もなかった。ただし、栃木の勝ちたい気持ちが、川崎のそれをわずかに上回っていた。

 Bリーグが発足した今季、多くの観客が会場に足を運び、バスケットボールを取り巻く環境は急変した。近い将来、Bリーグ元年は、日本バスケットボール元年だったと言える日が来るのではないだろうか。試合後の会見で田臥は言った。

「これだけの観客を前にプレーできることほど、プレーヤーにとって嬉しいことはない。Bリーグはさらなる発展の可能性を秘めているし、これからも選手自身が発展のために尽力していかなければいけない」

 これから毎年、Bリーグ王者は生まれる。しかし、歴史に1チームしか刻まれることのないBリーグ初代王者には、誰よりもバスケットボールを愛す選手を擁し、誰よりも勝ちたいと願ったチーム”栃木ブレックス”の名が刻まれた――。


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