大統領選挙期間中、エマニュエル・マクロン氏のイメージは、笑顔を絶やさない「理想的なお婿さん」だった。だが、大統領就任直後に取った行動は、そのイメージを打ち壊すものだった。マクロン氏が見せたのは、「三軍の長」であることを前面に押し出した“タカ派”とも言える強い大統領の顔だった。

 フランスの新大統領はエリゼ宮(大統領府)での就任式を終えると、儀仗隊に警護されながら、オープンカーに乗ってシャンゼリゼ大通りを凱旋門に向けて行進する。そして、「三軍の長」として、凱旋門の下にある「無名戦士」の墓に点火する習わしとなっている。

 第五共和制発足(1958年)以来、将軍でもあった初代のドゴール大統領を含め、歴代の大統領が乗るオープンカーは大統領専用の大型乗用車だった。ところが、8代目のマクロン新大統領が乗ったのは、迷彩色も鮮やかな軍用車だった。しかも、マクロン氏は軍用車の上に仁王立ちで全身を見せていた。狙撃の危険を顧みない“勇者”ぶりに多くの人が驚かされた。

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前線を訪問し兵士を激励

 マクロン氏は、次いで発表された組閣名簿でも、タカ派ぶりを見せつけた。歴代政府が使っていた「国防相」の名称を、通常は戦争中に使用される「軍事相」に改称したのだ。

 確かにフランスは現在「戦争中」である。

 まず、フランスは米英軍らとともにイラク、シリアの「イスラム国(IS)」の占領地区などへの空爆を実施している。また、2013年からは、旧植民地で軍事協定のあるマリ(西アフリカ)にも、同国政府からの要請を受けて対テロ作戦として派兵中だ。

 マクロン氏が就任10日目に、欧州以外の最初の外国訪問に選んだのが、このマリだった(最初に訪れた国はドイツ)。マリ北部のガオには1600人の仏軍が展開中だ。マクロン氏はその前線を訪問した(下の写真)。

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の写真をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/50118)

 実はマクロン氏は、最初の外国訪問でマリを訪れたかったのだという(エリゼ宮筋)。だが、治安面で懸念材料が多すぎるため、周囲が説得し、やっと10日後に実現したというわけだ。

 国家元首や大臣らが派遣部隊を訪問する際は、通常、極めて短時間で形式的な内容に終わることが多い。だが、マリを訪れたマクロン氏は、軍事相や外相 、参謀総長らを伴って7時間も前線に滞在した。仏軍を前にした演説は長時間で熱のこもったものだった。演説でマクロン氏は「サハラ砂漠でフランスのために命を捧げている」仏軍を称え、激励した。

前大統領が失敗したメディア対応

 マリ訪問では、メディアを選別するという強権ぶりも示した。反マクロンのリベラシオン紙など数社のメディアが同行取材を拒否されたのだ。この措置に対して、同行取材が許可されたメディアも含めて統領府所属の記者会などが、「大統領のメディア選別は民主主義のルールや表現の自由に抵触する」として「取材の機会均等」を求める強硬な申し入れをした。

 これに対しエリゼ宮は、同行記者用の空軍機の手配など「単なる技術的問題」であり、「新大統領が好き嫌いでメディアを選別したわけではない」と必死に弁解した。しかし、メディアの間には不信感がくすぶっている。

 オランド前大統領は、お気に入り記者とは夕食を交えて何度も会見するなど、メディアとの関係構築に気を使った。ところが、オフレコで喋ったつもりの会話が、『大統領、それを言ってはおしまいです』(ルモンド紙記者2人の共著)という書籍で暴露され、大統領選への出馬を断念する一因ともなった。

 マクロン氏は前任者の徹を踏まないためにも、メディアに対して厳しく一線を引く意向のようだ。

テロ対策でも“強い大統領”をアピール

 39歳と若いマクロン氏は、第五共和制下で兵役に従事していない最初の大統領でもある。フランスが1996年に徴兵制度を廃止したからだ。湾岸戦争(1991年)で職業軍人しか役に立たないことを痛感したシラク大統領(当時)の決断だった。

 マクロン氏は選挙戦中から、18歳の男女の「1カ月入隊」を義務付けることを公約として掲げている。若者の愛国心が薄れたり、国歌ラ・マルセイエーズを歌えない若者が増えている状況を嘆いてのことだ。ただ、徴兵制度復活には莫大な費用が要するため、実施されるかどうかは不明だ。

 テロ対策でも、マクロン氏は毅然とした姿勢を見せている。2015年1月の「シャルリ・エブド襲撃事件」以来実地されている「緊急事態宣言」を11月まで延長すると宣言。メルケル首相との会談でもテロ対策が主要議題だった。

 英国・ロンドンのコンサートホールで起きた自爆テロに関しても、英国と対テロ政策に関して「連帯」することを強調した。イタリア・シシリア島での主要国サミット(G7)でも、テロ対策についてフランスの主導権発揮を試みるなど、ドゴール大統領ばりの“強い大統領”をアピールしている。

 ただし、大統領の力を十分に発揮するためには、6月11、18日に実施される国民議会選挙(総選挙、小選挙区制577議席)で、マクロン氏率いる共和国前進党(大統領党)が過半数を獲得しなければならない。

 調査会社BVAが実施した世論調査(5月24日発表)によると、43%が同党が過半数を獲得することを願っているという結果が出た。今のところ、前途はかなり明るいと言えそうである。

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筆者:山口 昌子