エヌビディアの開発者向け年次総会で次世代AIの幕開けを強調したジェンスン・ファンCEO(筆者撮影、以下同)


「最近は、EV(電気自動車)の記事は人気がなくて・・・」

 自動車技術系メディアの関係者は、そう言って肩を落とした。

 彼によれば、EVに代わって自動車技術者の間でホットな話題と言えば自動運転であり、さらにはAI(人工知能)との連携についての関心がすこぶる高いという。

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各社が次々にAIに投資

 自動車技術系メディアの読者の関心がAIに向くのは、至極当然のことと思われる。

 トヨタ自動車は5年間で10億ドル(約1100億円)という予算を投じ、2016年からアメリカでAIに関する研究開発を行う「TRI」(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)の運営を始めた。

 ホンダはこの4月に東京・赤坂に数百人レベルのAI技術者を集め、次世代自動車技術の事業化につなげる原動力とする「R&DセンターX」を開設した。

 米フォードは、カーネギーメロン大学からスピンアウトしたAI関連ベンチャー、アルゴ社(カリフォルニア州・シリコンバレー)に10億ドル(約1100億円)を投資した。

 このように、大手自動車OEM各社が最近、AIを活用した技術開発に次々に投資し、積極的な姿勢を示している。

三河地方に衝撃が走った!

 極め付きは大手半導体メーカー、米NVIDIA(エヌビディア)の動向だ。

 2017年5月10日(現地時間)、同社はカリフォルニア州サンノゼ市で、人工知能を活用した自動運転用プラットフォーム「DRIVE PX」をトヨタに供給し、自動運転車に関する開発をトヨタと共同で行うと発表した。トヨタは共同開発した自動運転車を数年以内に量産する予定だという。

エヌビディアのGPUを組み込んだAI対応の自動運転用プラットフォーム「DRIVE PX2」


 同社の創業者でCEOのジェンスン・ファン氏が、エヌビディアの開発者向け年次総会「GTC」(GPU・テクノロジー・カンファレンス)で、このサプライズを発表した。

 愛知県の三河地方に群集するトヨタ系ティア1の間では、この発表は、人工知能を活用した自動車開発の近未来の業界図を一気に塗り替えかねない出来事として衝撃が走った。

独アウディはエヌビディアとAIを活用した自動運転車を共同開発している


 なお、この前の週には、米インテルがサンノゼ市内でメディア向けの自動運転ワークショップを開催した。また、さらに遡って4月には、自動車向けマイコン(マイクロプロセッサ―・マイクロコンピュータ)の最大手、日本のルネサスエレクトロニクスが東京で開発者会議を開き、人工知能を活用した「e-AI」構想を発表している。

 自動車産業界はまさにいま「AIブーム」の様相を呈しているのだ。

今回も「AIバブル」で終わってしまうのか?

 一方、日本の人工知能学会では自動車産業界がAIブームに沸く現状を「AIバブル」と捉え、自動車を含めた産業界全体の動きに対して慎重な姿勢を崩さない。

 そこには、過去の苦い経験が影響している。1990年頃、日本経済がバブルで盛り上がっていた時、AI開発の世界にもバブルマネーが流入し、大手電機メーカーを中心にAIの研究開発への投資が急激に増加した。だが、バブルが弾けると同時にAI開発資金は一斉に引き揚げられ、その後の十数年間、AIはほとんど日の当たらない地味な研究分野になってしまったというのだ。

 そのため、AI研究者たちは今回のAIブームを「AIバブルの再来」だとして、「バブルは必ず終わる。重要なことは、いかにブームをソフトランディングさせ、AI研究を未来へとしっかり継承していくことだ」と主張する。

 だが、筆者としては、AI研究者らのこれまでの苦い経験を理解した上で、あえて進言したい。今回は少し違うのでは?──、と。

 というのも、米IT産業界を中心とした最近のAIに関する動きは、彼らが製造するハードウエアやソフトウエア、またはクラウドサービスなど、すでに形のあるモノをできるだけ短期間のうちに販売しようという出口戦略が明確だからだ。

 90年代のAIブームは、研究が基礎段階から応用段階へと移行する中で、トレンドとしての勢いが衰えてしまった。だが、今回のAIブームは研究から量産化に向かう段階であり、いわゆる”死の谷”をすでに超えているように感じられる。

 日本の人工知能学会では、昨年ようやくAIの倫理に関する委員会を立ち上げるなど、AI研究者たちにとっては「AIはまだまだ赤ん坊の時期」という意識があるのかもしれない。

 だが、ビジネスの領域では、可能なモノから随時、量産をかけて、デファクトスタンダードを狙う動きがどんどん進んでいる。

 はたして、「AIバブル」が再び弾け、こうした一連の動きが一気に消滅する時がやって来るのだろうか? その動向を世界各地の現場でじっくりと見定めていきたい。

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筆者:桃田 健史