今年1月1日、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験の準備が「最終段階にきている」と表明した。その後の度重なるミサイル発射試験は、いかに北朝鮮がミサイル開発に拍車をかけているかを示している。

 北朝鮮は、国際社会の制裁と米国の軍事的圧力が強まるなか、5月14日、5月21日と立て続けに弾道ミサイルの発射試験を行った。また、威力のより大きい核実験も命令があり次第可能であるとしている。

 北朝鮮の核・ミサイル能力は日増しに向上し、いかなる核大国にも「耐え難い損害」を与えられる水準の「最小限核抑止」水準に近づいている。他方、米国にとっては、今が、北朝鮮の米本土に到達するICBM保有を阻止する、最後の機会であろう。

 米国はいま、北朝鮮との戦争を覚悟するか、ICBMの保有を黙認するかの瀬戸際に立たされている。米国が軍事的選択肢をとれば、日韓が大なり小なり戦場になることは避けられず、日韓両国も当事者として直接的な危機に直面していると言える。

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1 「最小限核抑止」態勢に向け驀進する北朝鮮

 ある国が信頼のおける核抑止力を保有する段階には、いくつかの越えねばならないハードルがある。特に重大なハードルは、いずれの核大国に対しても「耐え難い損害」を与えられる「最小限抑止」段階の核戦力の水準を保有する直前の段階である。

 この段階は核拡散を阻止する側からみれば、核疑惑国の核保有を軍事的に阻止できる最後の機会である。逆に北朝鮮にとっては、米国など核大国による核施設への先制破壊の危機が最も高まる時期でもある。

 米露は相互確証破壊水準の核戦力を保有しており、中国もこれに近づいている。その他の最小限抑止水準の核戦力を保有している国は、英、仏、イスラエル、パキスタン、インドである。

 今の時点では北朝鮮はまだ最小限抑止の水準に達してはいない。軍事技術的には、以下の3つの点が挙げられる。

(1)数百キロトン以上の出力を持つ水爆の核実験に成功していない。
(2)大気圏内に再突入した後も衝撃や熱などに耐えて機能する再突入弾頭技術が実証されていない。
(3)核弾頭の搭載可能な十分な搭載量を持つ米本土に届く射程1万キロ以上の大陸間弾道ミサイルの発射試験にまだ成功していない。

 今後、これらの技術的課題を克服することができれば、後は量産し配備を進めることで、数年以内に最小限抑止に近い段階に到達することも不可能ではないであろう。

 地下化され分散された秘密の核、ミサイル関連生産工場や発射基地などを、先制空爆などにより一挙に破壊することは困難である。

 そのため、一度上記の技術的問題点を克服することができれば、北朝鮮の独裁体制が続く限り、最小限核抑止段階に達するのは時間の問題となる。その段階では、軍事力による核戦力の破壊は、確実な核報復を招くため、事実上不可能になる。

 北朝鮮指導部、特に金正恩委員長は、もし最小限抑止水準の核戦力の保有に成功すれば、米中露いずれの核大国の干渉も排除し、独立自尊の自立国家となれると確信しているのであろう。

 そうなれば、核恫喝を加えつつ北主導で平和裏に韓国を併合し、朝鮮半島を統一することも夢ではなくなる。

 その夢が実現する目前まで来ているこの段階で北朝鮮が、今さら自ら核・ミサイルの開発を放棄することは、ほぼあり得ないとみるべきであろう。

 金日成主席以来、何のために、数百万人の餓死者を出し、国際的な孤立、経済制裁と大国の干渉に苦しみながら、何度も瀬戸際政策の危機を乗り越えて、ここまで開発を進めてきたのか。

 それを考えれば3代目の金正恩委員長としては、核・ミサイル開発放棄はあり得ない決断であろう。

 むしろ、完成目前でいつ先制攻撃を受けて潰されるか分からない、これまででも最も危険な段階を、一刻も早く無事にやり過ごすことが、今や北朝鮮にとり至上命題になっている。

 そのために、休む間もなく核実験や各種のミサイルの発射試験を繰り返しているとみるべきであろう。もちろん、国内の記念日や国際的な外交交渉に合わせて試験を行い、その外交的効果を得ようとするかもしれないが、今ではそれらは副次的要因に過ぎない。

 北朝鮮は今では、一刻も早いICBMの完成にすべてをかけていると言えよう。この段階までくれば、北朝鮮が経済制裁や外交交渉で核・ミサイルの開発放棄を強いられる可能性は、ほぼゼロに等しいと言わねばならない。

2 より高度なICBMを目指した可能性の高い「火星12」の打上げ

 5月15日の『朝鮮中央通信』は、前日14日に新型の地対地中長距離弾道ミサイル「火星12」の発射実験が実施され、高度2111.5キロまで上昇し、飛距離787キロを飛んで目標とする水域に着水し、「成功した」と報じている。

 さらに、「大型の重要な核弾頭の装着が可能」であり、実験によって「過酷な再突入環境でも核弾頭爆発システムの動作性を確認した」としている。

 この14日のミサイル発射はロフテッド軌道で行われた。この軌道では、真上に近く打ち上げて飛距離を出さず高度を上げて、大気圏再突入時の速度を加速させることができる。そのことから、北朝鮮が主張するように、大気圏再突入時に核弾頭が衝撃、熱などに耐えて機能を発揮するかテストしたとの見方もできる。

 また最大射程についても、4500キロ以上に達し、ムスダンでは十分には届かなかったとみられる北朝鮮の発射基地から約3500キロあるグアムも、確実に射程下に入るとみられている。

 このミサイルの細部の性能については、『38ノース』(1917年5月20日付)が弾道解析やコンピューターシミュレーションの結果に基づく分析結果を発表している。

 それによれば、弾頭の再突入時の信頼性については、高度2000キロ程度では再突入速度が弾頭の再突入時の信頼性をテストするには不十分であり、ロフトテッド軌道をとった主な目的は周辺国への影響を回避するためであろうとしている。

 火星12ミサイルの形状から、4月15日の「太陽節」の軍事パレードに初めて登場した「KN-17」とみられる。同ミサイルは、3段式ICBM「KN-08」を2段式にして小型化し、スカッドに由来する機動型再突入弾頭を搭載し、ムスダンに使われていた車両を使用した移動式ミサイルに最も類似している。ただし、長さは15メートル足らずで、本格的なICBMというには小型すぎる。

 また4月16日と同月29日に連続して発射試験に失敗しているが、ムスダンの移動用車両から発射されたためムスダンと誤認されたものであり、新型の火星12の発射試験であった可能性もある。それならば連続の失敗もあり得る。

 米メディアの一部には、空母を狙った対艦弾道ミサイルとの見方もあるが、再突入弾頭の信頼性も十分に実証できていない北朝鮮が、移動中の空母を攻撃できる弾道ミサイルを保有しているとは考えにくい。

 しかし、KN-17の弾頭部には4枚の誘導翼が装着されているといった兆候、核弾頭の威力半径を考慮すれば、将来、信頼できる誘導可能な核弾頭を搭載したKN-17改良型の地対艦弾道ミサイルが登場する可能性はある。

 注目されるロケット・エンジンについては、『38ノース』(同年5月19日付)は、KN-08の1段目に使用されたツィンエンジンではなく、ノドンの原型となった、ソ連製潜水艦発射弾道ミサイル「R-27(NATOコードSS-N-6)」のエンジンを4本束ねたものの改良型の域を出ておらず、酸化剤や推進薬も変わっていないと分析している。

 ただし、この分析結果については、後述する5月24日付の分析では、エンジンも推進薬も改良された可能性があるとみている。

 いずれの分析結果でも明確に言えるのは、火星12のエンジンではICBMにするには出力が不足していると指摘している点である。

 5月19日の分析では、火星12は飛距離を出すため、ロケット本体の構造体については無理に軽量化を図っている。その結果、移動式にすると燃料満タン状態では強度不足で変形するため、車輌移動式には使用できないとみている。

 問題は、火星12が創られた目的である。単にムスダンの射程を延伸しグアムを確実に攻撃するための新型IRBM(中距離弾道ミサイル)なのか、KN-08を2段式にし、そのエンジンや部品の性能を確認するための試験なのかにより、意義は大きく異なる。

 もしもKN-08系列の新型ICBM開発のステップとしての試験なら、今回の成功によりICBM完成に必要な技術が蓄積されていることになる。

 『38ノース』(5月20日付)は総合的には、技術的に見て今回の火星12の成功は、ICBMに近づいてはいるものの、重大な進展とは言えないと評価している。

 ICBMの完成時期については、「米国の都市が明日にも、あるいは今年中にも危機にさらされることはありそうにもない。なぜなら、(ICBMとして)フルスケールの実験を行わねばならないからだ。今回の縮小したシステムによる発射試験は、その出発点に過ぎない」と結論づけている。

 他方、最新の『38ノース』(5月24日付)では、より詳細な分析結果が示されている。

 エンジンについては、4基のバーニア(姿勢制御用補助エンジン)付きの単一ノズルのメインエンジンからなるとみられる。しかし、ムスダン系列のソ連製「R-27」の発展型でも、KN-08系列のR-27のツィンエンジンでもなく、新型の可能性もあるとしている。今年3月燃焼試験を行った新型エンジンを使用したのかもしれない。

 また、推進薬についても、抑制赤煙硝酸を酸化剤とし非対称ジメチルヒドラジン(UDMH)を組み合わせている可能性が高いが、ムスダン系列は酸化剤として四酸化窒素(NTO)を使用している。

 今回は、エンジンの火焔が画像処理され変色しているため、これまでと異なるより効率的なUDMH/NTOの組み合わせによる推進薬を使用しているか否かは判別できない。

 火星12は一般に2段式とみられているが、外見上、分離機構が確認できず1段式かもしれない。しかし、新しい内蔵型の分離機構が使用されているかもしれず、入手できた画像からは判別できない。

 もしも1段式とすれば、射距離が4500キロに達したことは驚くべきことである。1段式でこの射距離を持ったミサイルはソ連のR-17(SS-5)しかなく、R-17は80トンもあったが、火星12は20トン程度に過ぎない。この重量でこれだけ飛ばすには、新型のエンジンと大幅な構造物の軽量化に成功していなければならない。

 しかし例えそうであったとしても、火星12が公表された2111キロの最高点に達するには、再突入弾頭もからのまま飛ばさねばならなかったであろう。

 したがって、西側のレーダ追尾により確認された加速性能からみて、重い弾頭を搭載した、新しい分離機構を持つ2段式ミサイルとみるのが妥当であろうとしている。

 またこれらの新しいエンジン、構造体、分離機構などが搭載されたミサイルをグアム攻撃のみのために開発したとは考えにくい。新しいICBM開発計画の途上にある試験とみるべきである。

 新型エンジンの開発に成功すれば、北朝鮮は、R-27のツィンエンジンに替わり、より効率的で信頼性のあるエンジンが得られ、限られたソ連からの余剰供与品に頼らずに自力生産できるようになる。

 分離機構が改善されるだけでなく、ミサイルの構造そのものが改良されていれば、不整地でもミサイルの運搬が容易になるであろう。

 これらの利点は、新型のより強力で能力の高いICBMの出現をもたらすであろう。しかし、逆に新型完成にはミサイル全体の再設計が必要なことも意味しており、火星12の試験が完了しなければ新型のICBMの最終的な設計は完成しないことになる。

 その意味では、新型ICBMが来年中にも実戦配備される可能性は低い。今回の火星12の成功により1年程度は早まったかもしれないが、それでも2020年よりも前に新型ICBMが作戦可能になることは、ありそうにもない。

 以上が5月24日付の分析の要旨である。北朝鮮の現段階でのICBM保有時期に関する妥当な見通しと言え、5月20日付の分析結果と一致している。

 以上の評価は、科学的かつ客観的なデータ分析に基づくものであり、信頼がおけるであろう。火星12の射程について、5月22日の『朝鮮中央通信』はハワイやアラスカも射程に収められると主張しているが、エンジン出力からみてもまだグアム程度までしか有効に攻撃できないレベルではないかとみられる。

 またその攻撃目的は、ムスダンの射程を延伸し確実にグアムを攻撃できるIRBMとすることなのか、3段式ICBMの一部をテストしたのかは、現段階では明確に判断できる直接的根拠はない。しかし、5月24日付の分析結果からみれば、後者の可能性が高いとみられる。

 いずれにしても北朝鮮は、今後もICBMの技術的な完成を目指し、各種のミサイル発射試験を繰り返すであろう。特に、新たな大型ロケット・エンジンが搭載されたミサイルの発射試験に成功した時がICBM完成の大きなステップとなるであろう。

3 即応性、残存性が向上し全土から攻撃可能になった「北極星2」

 『朝鮮中央通信』は5月22日、中距離弾道ミサイル「北極星2」の実戦配備に向けた最終発射実験に「成功」したと報じた。21日夕に内陸部の北倉(プクチャン)から発射されたミサイルは約500キロ飛行し、日本海に落下した。実験に立ち会った金正恩委員長は、北極星2の実戦配備を承認し、量産化を指示した。

 朝鮮中央通信によると、北極星2は、キャタピラー式の移動発射台から空中に射出後にエンジンに点火する「コールドローンチ」方式を採用。固体燃料エンジンなどの信頼性に加え、弾頭部に搭載したカメラの映像で姿勢制御の正確さも実証されたと強調した。

 金正恩委員長は、「命中精度は極めて正確で、完全に成功した戦略兵器だ。百点満点だ」と北極星2を評価し、「核戦力の多様化と高度化をさらに進めるべきだ」と述べたという(『産経新聞』平成29年5月23日)。

 北極星2の発射成功については、『38ノース』(1917年4月25日付)も、朝鮮中央通信の報道内容を認め、以下のように高くその意義を評価している。

 北極星2はSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)の北極星1の技術を地上発射型に使用したものであり、固体燃料を使用していることから、発射までの準備時間が短縮され、先制攻撃や発見のリスクが大幅に下がり、より安全なところで準備できるため、残存性と即応性が向上した。また固体燃料は、取り扱いと維持整備が容易で、構造も単純である。飛距離も伸ばすことができる。

 さらに戦車のシャーシを改造したキャタピラー式の移動車輌に搭載されているため、装輪車に比べて路外の各種地形を踏破して展開できるようになった。

 今回の北倉も湖に近い土質の悪い内陸地である。北朝鮮は、ほぼ全土に移動し、そこから迅速に北極星2を発射できる能力を持つようになった。運用がより柔軟にできるようになり、山岳地など広域に分散配置でき、発見、制圧がより困難になったと言える。

 コールドローンチ方式であるため、圧縮ガス以外の発射薬などの量が減り、発射用キャニスターは小型になり、より狭いところから発射できるようになった。また起立式発射台を噴煙で破損するおそれが少なく、迅速な再装填と連続発射ができる。空中で点火するためミサイルが爆発事故を起こしても被害は少ない。

 ミサイルの軌道はロフテッド軌道であった。意図的に弾頭重量を1.6〜1.7トンに加重し、1000キロを超える高度まで打ち上げ、約550キロの近くに落下させている。弾頭重量がこれまでより増加したことは、搭載する核弾頭の出力が増大することを意味する。最大射程で発射すれば、射程は2300キロ〜2500キロに達すると見積もられる。

 ロフテッド軌道の場合、再突入速度が速くなり、ミサイル防衛システムによる迎撃はより困難になる。再突入弾頭の試験とともに、ミサイル防衛システム突破能力の誇示という狙いもあるのかもしれない。

 火星12と北極星2の発射試験成功は、北朝鮮がこれまで主流だった液体燃料方式以外に、固体燃料方式の北極星系列の弾道ミサイルの開発も並行して行っていることを示している。金委員長の言う「核戦力の多様化と高度化」を目指していると言えよう。

 この一連の2回の発射試験の成功は、金正恩独裁下で北朝鮮が国力を挙げて、「最小限核抑止」態勢を目指してきた成果を誇示したものとして、極めて注目される。

 4月の軍事パレードでは、2種類の北極星3・ICBMが登場した。『38ノース』は、トラック搭載型は、直径が1.9メートルあり、KN-14の諸元から、最大射距離は、重さ550キロの弾頭で1万2200キロ、重さ750キロの弾頭で1万300キロに達し、いずれも米本土に到達可能と推定している。

 今後、北朝鮮は液体燃料式をすべて固体燃料式に替えるかもしれない。その場合、まずスカッドとノドンが固体燃料式になるであろう。現在はどちらも従来からの液体燃料を使用し、配備数は計800基以上とみられる。

 これらが固体燃料式になった場合、特にノドンと改良型スカッドは日本を標的としており、即応性、残存性が向上し日本に対する脅威度はさらに増大する。なお、固体燃料式への換装は徐々に進むが、1対1方式ではないとみられている。

 さらに、ムスダンの固体燃料方式の北極星2への換装も進むかもしれない。ICBMについては、固体燃料式で発射試験に成功し、移動化され信頼性も確保できれば、将来固体燃料式になるかもしれない。

 北朝鮮は以上から、北極星系列の固体燃料方式を、液体燃料方式と併行してここ10年来開発しており、液体燃料方式にもスカッド、ノドン、テポドン系列と、ムスダン、KN-08/14ICBM系列の2系列がある。「多様化」は金正日時代から組織的計画的に進められてきたとみるべきであり、その成果がこの段階で集約的に現れ、加速していると言える。

 各技術局にそれぞれの成果を競わせ、開発進度を上げるとともに、多様化を進めリスク分散を図っているともいえる。膨大なコストを要するが、最短の時間でICBMを完成するためには、最善の開発方式かもしれない。

4 米国の核抑止態勢の綻びを突く北朝鮮のICBM開発

 北朝鮮が米本土に届くICBM開発を急ぐ理由は、米国にとり今が最後の北のICBM保有阻止の機会であるということにある。

 米国が2010年に公表した『ミサイル防衛システム態勢報告』では、米国のミサイル防衛システムは北朝鮮やイランなどの局地的な脅威に対処するためのものであり、100発以上のミサイルを発射できるロシアや中国のミサイルに対処するためのものではなく、戦略的安定性を損なうものではないと述べている。

 このように、100発前後の飽和攻撃には米国のミサイル防衛システムは対応できないことを、自ら明確にしている。

 また、現在のイージス艦のミサイル防衛システムのスタンダード・ミサイル「Block1」は直径が13インチしかなく、音速の約20倍で大気圏に再突入してくるICBM弾頭を迎撃することができない。ミサイルの出力不足で迎撃高度が低く、対処の時間を得られないためである。

 この欠点を克服するため日米共同で開発が進められているのが、直径21インチで出力が増大し、より高速で高い迎撃高度が得られる「Block2A」である。

 Block2Aの改良型の「Block2B」が配備されればICBMは撃墜できるとみられているが、配備予定の2021年頃までは、ICBMを米国と日韓などの同盟国が展開中のミサイル防衛システムでは撃墜できない。

 なおロシアも同様のミサイル防衛システムを開発配備しているが、最先端の「S-400シリーズ」でも最大音速の14〜15倍の再突入弾頭までしかまだ迎撃できないとみられている。最新型のS-500はICBMの撃墜を目指しているとされるが、まだ開発途上とみられる。

 これまでのミサイルでミサイルを撃墜する防衛システムに替わる次世代のミサイル防衛システムとして期待されているのが、レールガン、マイクロウェーブ兵器、高出力レーザー兵器などの指向性エネルギー兵器である。

 ただし、ICBMを撃墜できるまでに達するには、レールガンで5年から10年、マイクロウェーブ兵器で5年はかかるとみられている。高出力レーザーは大気中で減衰するため、より低速の弾道ミサイル迎撃用などに限られICBM撃墜は今後も困難とみられている。

 このため、北朝鮮が米本土に届くICBMを2021年よりも前に開発配備すれば、Block2Bが配備されるまでの間は、北のICBM攻撃に対し米本土の対ミサイル防衛は困難になる。

 もちろん、北朝鮮が万一核兵器を使用すれば、7000発以上の核弾頭で1億人の損害を与えることのできる米国の核戦力により、そのうちの1000発でも使用して報復すれば、北朝鮮の国家体制を破壊することは可能である。

 しかし、その場合の中露の対応を考慮すれば、米大統領として簡単に核報復を決心できる状況ではない。

 戦略核兵器の米中露間のバランスについても、大きな問題がある。米国は1992年以降核実験を自粛しており、核関連インフラの劣化が進み深刻な問題になっている。

 核弾頭は年々劣化が進み、20年程度で信頼性に問題が生じてくる。しかし米国の現用弾頭は既に29年を経過するなど、深刻な劣化が進行している。また、核兵器関連の生産・実験施設も老朽化し人材も枯渇している。

 この問題はジョージ・W・ブッシュ政権時代から深刻化していたが、抜本策はまだ出されていない。現用の核弾頭を代替でき信頼できる新型核弾頭はまだ確定していない。

 さらに、戦略核兵器の運搬システムについても、3本柱をなす「B-52H戦略爆撃機」、「ミニットマン3型ICBM」、「オハイオ級SSBN」とも、冷戦期のものが主であり老朽化が進んでいる。

 他方で、中露は精力的に戦略核兵器の更新近代化を進めており、米国との格差は縮まっている。ロシアは2000〜5000発保有している戦術核弾頭の効率化、小型化を進め、「ボレイ級SSBN」に「スラバ級SLBM」を搭載配備し、「SS-29Mod2」という10〜6発の150KTの核弾頭を搭載できる移動式固体燃料ICBMを開発している。その射程は1万8000キロに達しロシア全域から米本土を攻撃できる。

 中国も、移動式重ICBMの開発、複数弾頭個別誘導式核弾頭を搭載した新型ICBMの配備、核・非核両用の中距離弾道ミサイルの開発配備、ロシアからのS-400の導入などを進めている。

 米国のドナルド・トランプ政権は、核戦力劣化の危機を克服するため、核兵器関連予算を増額し、戦略核弾頭と運搬システムの改良に取り組むことを核政策の方針としている。

 しかし、新型の戦略核戦力システムが実戦配備されるのは2020年代の後半になると予想されている。それまでの間は、中露の追い上げが強まり、米国の戦略核抑止態勢は現在よりもより信頼性が低下するであろう。

 このような全般状況下で、北朝鮮のICBMの配備が迫っている。北朝鮮は、少なくとも2020年代前半までは続く、米本土の核抑止力と同盟国に対する米国の拡大核抑止力低下のすきをついて、対米最小限核抑止態勢の確立を急いでいるとみられる。

 最終的には、ICBMの完成、対米最小限核抑止態勢確立を背景に、北朝鮮に融和的な文在寅(ムンジェイン)政権の間に、韓国に核恫喝をかけ、在韓米軍の撤退と平和裏の韓国併合をのませることを目論んでいるのではなかろうか。

 北朝鮮のICBM保有は、単に米国本土にとり直接的脅威となるだけではなく、米国の北東アジアにおける覇権の喪失、世界的な威信と拡大抑止に対する信頼性の低下にもつながりかねない。

 バラク・オバマ大統領からトランプ大統領への申し送り事項の中で、当面の最大の脅威が北朝鮮であることが伝えられたと報じられている。「戦略的忍耐」を対北朝鮮政策の基本方針としていたオバマ政権も、その末期には北朝鮮を最大の脅威とみていた。

 5月13日に、コーツ米国家情報長官は、北朝鮮は「非常に重大な脅威で、潜在的に米国の存続を脅かしている」と指摘し、北朝鮮の公的見解からみて、「今年中に初のICBMの発射実験を実施する態勢ができている」との分析を明らかにしている。

 目下のところ、空母カールビンソンに加え空母ドナルドレーガンも加わり、北朝鮮に対する米国の軍事的圧力は強まっている。さらなる経済制裁強化、外交的対策をとる余地はまだ残されているが、中露両国の確実な協力が得らない限り実効性に乏しいであろう。

 トランプ政権は軍事的選択肢も含めあらゆる手段を動員し、北朝鮮がICBMを完成させる前に、核・ミサイル開発を阻止しなければならない瀬戸際に立たされている。

 ジェームズ・マティス米国防長官は、5月19日の記者会見で北朝鮮の核・ミサイル開発問題の軍事的な解決は「信じられないほど大規模な惨劇をもたらす」とし、外交的な解決を目指すべきだとしている。

 しかし、トランプ政権が最終的には、巨大なリスクを取ってでも、何らかの軍事的選択肢を実行せざるをえない方向に、全般情勢は向かっている。

5 米国以上に深刻な脅威に直面している日本

 ICBMは米大陸の直接的脅威になるが、北極星1・2は日本にとりさらに重大な脅威となる。その射程は日本全土をカバーしている。核・化学・生物兵器や分離子弾を充填した通常弾頭など、破壊力のある弾頭を装備するであろう。

 問題は今後の配備の時期と速度である。北極星系列のミサイルは、ロシアから密かに供与された可能性が高い。ロシアは近年、北朝鮮に対する軍事支援を積極的に展開しており、その兆候がいくつかある。

(1)GPSの使用はミサイルの精度を高めるため死活的に重要だが、ロシアのGPSグロノスを北朝鮮が使用しているとみられる。

(2)SLBM北極星1の発射試験で使用したバージ(平底船)は、2014年に新浦南造船所で初めて確認され、その後4回〜6回、北極星1の発射試験に使用された。このバージの大きさと外見はロシアのPSK-4・SLBM発射試験用標準型バージと同一である。また、このバージは、北朝鮮で建設されていた証拠はなく、突然出現しており、ロシアから輸入した可能性が高い(『38ノース』2017年5月1日)。

(3)北極星2の戦車から転用したキャタピラー付垂直起立式の移動発射台のシャーシは、北朝鮮により設計、製造されたものとみられるが、その原型はソ連製のSS-14システムと類似している(同上)。

 以上の兆候は、ロシアが、ウクライナで反政府暴動が激化し親露派のビクトル・ヤヌコービッチ大統領が国外に逃亡するという騒乱が起こった2014年頃から、北朝鮮に対し本格的な軍事援助に乗り出した可能性を示唆している。

 現在の対北制裁についても、ロシアは国連での北朝鮮に対する経済制裁強化の決議にもかかわらず、5月17日には万景峰号のウラジオストクとの定期航路を開き、ロシア人旅行者の北朝鮮旅行を認め、羅先地区と極東ロシアの間で経済共同開発を進めるなど、北朝鮮を意図的に支援する政策をとっている。

 また世界で約30万件の被害を出した大規模サイバー攻撃について、米ソフトウェア会社のシマンテックは、5月22日、北朝鮮が関与している可能性が高いとする報告書を発表している。

 ロシアも米国やフランスの大統領選挙にサイバー攻撃をかけたとの疑いがもたれているが、サイバー攻撃についても、確証はないが、朝露両国が何らかの連携をしている可能性は否定できない。

 このようにロシアが北朝鮮を支援する理由として、ウクライナ情勢で高まった米軍の軍事的圧力を、北朝鮮をたきつけることで北東アジアに拘束しようとする意図があるとみられる。

 また北の核ミサイルは欧州ロシアにとり脅威にはならず、経済制裁に苦しむロシアにとり、北朝鮮の資源と労働力を極東開発に活用できるメリットの方が大きいであろう。

 対北貿易の9割を独占している中国にとっても、北朝鮮の核化阻止よりも米韓に対する緩衝国として北朝鮮を維持する戦略的利益が大きく、北の体制崩壊を招くような全面制裁は行わないとみられる。今後とも、中露の対北支援は続くとみるべきであろう。

 北極星1・2のミサイルだけではなく、製造プラント1式もともにロシアから供与されていれば、金正恩委員長が指示した量産化が予想よりも早く進むかもしれない。

 もし量産体制に入り、配備が進めば、日本に対する北朝鮮の核脅威は中露並みの水準になるおそれがある。

 ノドン、スカッド改良型に加え北極星1・2が大量に配備され、同時100発以上のミサイルで集中・連続攻撃できるようになれば、日米のミサイル防衛システムの対処能力を超えるおそれがある。

 SLBMの北極星1は、海中からいつでもどこからでも発射できる。そのため、日米のミサイル防衛システムの迎撃可能な範囲外から奇襲的に発射できるため、発射後のミサイル撃墜は困難であろう。対潜作戦がますます重要になるが、黄海側や北朝鮮の領海付近から撃たれた場合、発射前の発見、制圧は困難ではないかとみられる。

 北極星2も北朝鮮全土から迅速に射撃可能で、事前の発見、制圧は容易ではない。大気圏再突入速度もノドンよりも早く、それだけミサイル防衛システムによる迎撃確率は低下する。飽和攻撃があれば撃ち漏らしが出る可能性は高い。

 1発でも都市部に着弾すれば、核なら数十万人〜数百万人、化学生物兵器でも数万人規模の被害が出るとみられる。核爆発時の電磁パルスにより電子部品は機能麻痺し、各種のインフラが破壊されるであろう。サイバー攻撃や特殊部隊の攻撃も同時並行的に行われるとみられる。

 このような事態は早ければ数年以内に来るかもしれない。この時期には、米国の拡大核抑止力も低下している。中露が北朝鮮の後ろ盾になる可能性は高い。日本は北朝鮮の弾道ミサイルの飽和攻撃などに自ら対処しなければならなくなるであろう。

 日米韓の連携は引き続き重要である。しかし、他国依存ではすまされない危機に日本は直面している。

 日本は、独自の核抑止力を保有するとともに、新型ミサイル防衛システム、特にBlock2Bと指向性エネルギー兵器の開発配備を急がねばならない。また国民自らが自らを守るための民間防衛の態勢を、対核・化学・生物兵器用シェルターを含め、早急に整備しなければならない。

筆者:矢野 義昭