古代ギリシャでは「叔父と姪の結婚」は推奨されたこともある。何親等までの性交が近親相姦にあたるのかも、実は人類共通の基準はなく、時代や社会によってさまざまなのだ

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近親相姦はダメ――これは社会常識化した概念だが、実は刑法上の罰則はなく、人類学的に見れば、「近親相姦はむしろ普遍的」と言うこともできる。タブーであるが故に誰も積極的に語りたがらない近親相姦にはどんな歴史があるのだろうか?(フリーライター 光浦晋三)

「近親相姦で子どもに障害」は作り話説も
人類学的に見たタブーの歴史

 古来、インセスト=近親相姦は人間の根源的な禁忌行為だった。しかし、起源にはさまざまな説があり、実ははっきりと分かっていない。

 これほど近親相姦が禁忌だと一般常識化されているにもかかわらず、実は日本の刑法上、近親相姦は罪に問われることはない。定期的に報道される成人男性と未成年女子との性交やわいせつ行為は法的に罰せられるのに対し、近親相姦は「やってはいけない行為」としてタブー視されているにすぎない。

 しかしなぜタブーなのか、倫理や感情以外の要素で説明するのは意外と難しい。世界的に見ても、国や民族ごとに近親相姦に対する考えや法律は異なっている。さまざまな点から考察できる問題だが、今回は人類学の観点から、人類学者の川田順造・神奈川大学特別招聘教授に話を聞いた。

 川田氏は「父と娘、母と息子、兄と妹といった近親者間の性交は、実際には行われているにもかかわらず、タブーとされている社会が多いです。しかも、単なる禁止ではなく、何かしら忌まわしい、不吉なものとして意識されています」と語る。

 生物学的理由としては、血が濃くなって遺伝子の多様性を獲得できず、ウイルスや病気に勝てない病弱な子どもができたり、障害のある子どもができたりする可能性が高まるといわれている。このような「近交弱勢」を避ける遺伝的・文化的傾向を持った個体の方が、より多くの子孫を残してきたことが、近親相姦タブー視の起源と進化ではないかという説は根強い。

 しかし、川田氏は「鳥類や哺乳類一般において、ある頻度での近親性交は、自然で正常な行為です。人間社会では、母子、父子で子どもを作ると障害がある子が生まれるという噂がまことしやかに定説になっているが、実際にはデータが少なすぎるし、そのような子が生まれても、公にされることじゃないから実際はどうなのか分かっていない。少なくとも島崎藤村が兄の娘とセックスして生まれた子は非常に優秀だった。だから、障害のある子が生まれるという噂自体が、近親性交のタブーを広げて定着させるために作られた話なのではないかとも考えられるのです」と指摘する。

 人間の場合には、不吉感、不浄感を伴うタブーという形で、母子・父子間はもちろん、いとこ間など、国や社会によって異なる範囲の近親間での性交が禁じられることが多い。実際、島崎藤村は同居していた姪に子を生ませ、そのことに対する罪の意識を描いた小説「新生」で、亡妻の位牌のある仏壇に触れた姪の手のひらに、訳の分からない血がべっとりと付くという、凄惨な叙述をしている。

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