1万人を追跡調査するアルファベット社の新プロジェクトでウェアラブル新時代到来か

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著:Bennett Allan Landman(ヴァンダービルト大学 Associate Professor of Electrical Engineering, Computer Science, Biomedical Engineering, Radiology, Image Science, and Psychiatry and Behavioral Sciences)

 Googleの親会社「アルファベット(Alphabet)」の傘下にあるライフサイエンス研究企業「ベリリー(Verily)」が、1万人を対象にした健康状態の追跡調査を計画しているという。

 2017年4月19日、同グループはアメリカのデューク大学およびスタンフォード大学と連携した「ベースラインプロジェクト」の被験者を募集すると発表した。ベースラインプロジェクトではまず、被験者の遺伝子情報や血液の健康状態などを解析し、その後4年間、心拍数や活動レベルと言った生体計測データの追跡調査を行っていく。そして本プロジェクトに使われるのが、フィットビット(Fitbit)の強化版ともいえるスタディウォッチ(Study Watch)だ。

 この研究の最も興味深い点は、彼らが何千もの医学関連画像を収集しようとしているところだろう。私も同僚とともに、小児脳発達のビッグデータ分析に携わっている。

 ベースラインプロジェクトのような思い切った事業によって、ヘルスケアの分野に新たな好機が生まれることになる。ビッグデータを扱う研究者にはもちろん、より洗練された方法で自分の健康を追跡していきたいと考える消費者にとっても同様だ。

 ここから、多くの疑問が湧いてくる。「リアルタイムのインタラクションを基に習慣改善していく方法とは?特定の疾患リスクを避けるために誰でもできる、比較的負担の少ない対応策はあるのか?現在推奨されているものよりも簡単に、そして効果的に健康な社会を作る方法はあるのか?」

◆ベースラインプロジェクトの内容について
 1万人は大人数だ。わかりやすく言うなら、ベースラインプロジェクトの被験者だけで、ナッシュビルにできたマイナーリーグの野球場「ファースト・テネシー・パーク」がいっぱいになる。

 アメリカでは発症率が1万人に5人程度の病気を希少疾患と定義している。そのため、ベースラインプロジェクトで珍しい疾患に遭遇する可能性も大いにある。心臓疾患や糖尿病など、より一般的な疾患であれば、研究対象期間の4年間に数百人単位の被験者が発症することも考えられる。

 医学の分野でビッグデータを扱うのはこれが初めてではない。ベースラインプロジェクトと比較されるのが、1948年から5209人の被験者に対して追跡調査を行った「フラミンガム心臓研究」だ。ちょうど今年(2017年)、スタンフォード大学の研究者チームが、皮ガンを検出する臨床画像12万9450枚を分析した論文をネイチャー誌に発表した。

 一方、イギリスのUKバイオバンクでも50万人の成人を対象に、健康追跡調査を行っている最中だ。ベースラインプロジェクトが公表された翌日に発表された内容によると、UKバイオバンクのデータを用いた研究で、自転車通勤が心臓病のリスクを46%低下させることがわかったという。

 私のチームは、1万人の小児を対象に脳のスキャンを行い、疾患の状態や年齢、表現型、遺伝などの特徴と脳との相関関係について研究を行っている。神経科学者や精神科医は、患者に対して、聞きにくい質問をしなければならないことがある。また、これは聞いてもよいことなのか、聞くべきことなのか、迷うこともある。私は生物医学のエンジニアとして、それをサポートするツールの構築に注力している。我々は各々の相違点を図式化し、それを理解し始めているところだ。ベリリーも同じような経緯をたどることになるだろう。

 研究者が多くの考えを試行し、不明瞭な相関関係を明らかにするためには、膨大なデータが必要だ。アイデアがまとまっていないときほど、遺伝や環境、健康の相互関係をよりよく理解するために必要なデータ量は大きくなる。

◆新しいアプリケーション
 ベースラインプロジェクトが画期的なのは、医学的な追跡調査にウェアラブルデバイスを利用する点だ。

 ベースラインプロジェクトは2014年に200名の健常者を対象に行われたある試験研究を引き継ぐことになる。同研究には包括的な健康評価とウェアラブルデバイスで集めたデータが使われている。

 このかつてない研究により、Googleのウェアラブルデバイスは、米国食品医薬品局(FDA)の規制対象外である「一般健康機器」から、FDAにより安全性と効果が認められた、特定の情報を収集する「医療機器」に格上げされる可能性がある。

 これは非常に面白い。誰からも愛されるフィットビットでも、それを使うことでどんな病気が予防できているのか、我々にはわからなかったのだから。ウォルグリーンズ(編注:米ドラッグストアチェーン)に設置されている、自動で血圧などを測定するヘルスチェック端末を利用するよう推奨する医師もいるが、フィットビットや同様のデバイスも同じような使い方をされている。適切な食事をとり、適切に運動し、きちんと薬を飲む。そしてデバイスはその結果を確認するために使われているのだ。

 さらに、アルファベット社や傘下のGoogleには、ユーザーが手軽にデータベースへとアクセスできる環境を提供してきた実績がある(Google Mapがいい例だ)。ベースラインプロジェクトも同様に、個人向け健康管理デバイスの関連ビジネスを構築しようとする中小企業に大きなビジネスチャンスを提供することになるかもしれない。また、地方や希少疾患の研究者にも良質な医療情報を提供できる可能性がある。

 ベースラインプロジェクトは参加者の医療画像も収集するため、放射線医学にも関連性がある。画像を見るのが嫌だ、という人はあまりいない。しかし、画像にはさまざまな情報が含まれるため、それを自動的に抽出してもらえるなら、そのほうが良い。ビッグデータを使えば個々の健康デバイスが進化するだけでなく、画像からわずかな病気の兆候を見つける能力も飛躍的に向上する。

◆ビッグデータを正しく扱う
 私のチームは、データを提供してくれた患者のプライバシー保護のため、すべてのデータを匿名管理している。たとえば、患者の名前を削除するだけでなく、訪問日や患者固有の情報も保護するように注意している。

 ベリリーの最新プロジェクトは、我々のような研究グループにとっては面白い意味を持つものになりそうだ。同社は要件を満たした研究者に匿名のデータを提供すると約束している。そうなると、ベリリーはデータの匿名性を遵守し、信頼を構築しなければならない。

 患者は、病院での指導や研究のために自分の情報を公開することはあまり嫌がらない。自分の診療内容から、医師が学んでいくことを知っているからだ。しかし、保険代理店や同僚に治療内容を知られることは断固として嫌がる。ベースラインプロジェクトが収集するリアルタイムの健康データにも同じことが言える。私たちがやっているように、ベリリーも決してデータから個人情報がたどれることがないよう、安全性を確保しなければならない。

 さらに、これだけの深いレベルで医療記録をとることで、コンピュータ指導型の医療の可能性が無限に広がる可能性がある。しかし、そのような場合でも、その結論をまた自分で確認できるようにしておかなければならない。たとえば、特定の脳領域が別の脳領域よりも発達が早いと疑われる場合、そのモデルをあるデータセットに当てはめたら、次に別の下位集団でも同様に確認してみる。そうすることで初めて、研究対象となった集団において、自分たちの発見が真実であると言えるのだ。ベースラインプロジェクトによって豊富なデータが集められ、そこで新たな仮説が生まれ、また他の研究の結果を再確認することができるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by isshi via Conyac
photo Maridav/shutterstock.com