人工知能(AI)技術の急激な発展によって、ロボットが人間の代わりに働いてくれるという期待が高まると共に、ロボットに仕事を奪われてしまうという不安の声も生まれてきています。世界的なベストセラー「Sapiens: A Brief History of Humankind(サピエンス全史)」の著者で知られる歴史学者ユヴェル・ノア・ハラリ氏が、仕事を失った未来の人間のあり方についてブラックユーモアを取り入れつつ鋭く考察しています。

The meaning of life in a world without work | Technology | The Guardian

https://www.theguardian.com/technology/2017/may/08/virtual-reality-religion-robots-sapiens-book

◆ロボットが人間の代わりに働く世界

人工知能技術の発展に伴って、多くの職業が失われるというレポートが多数出されて大きな反響を呼んでいます。

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タクシードライバーや保険代理店の営業など、近い将来、マシンに取って代わられて確実に淘汰されるとみられる分野では、大量の失業者が生み出されることになります。AI代替型失業時代の到来で、新規雇用の創出の必要性が叫ばれていますが、ハラリ氏は「重要なのは『人間がアルゴリズムよりも優れた能力を発揮できる』新規雇用の創出です」と述べ、単に新しい雇用を生み出したところでそれすら早晩、AIに取って代わられるリスクを考えれば、AIには不可能で人間にだけ可能な価値の創出こそが求められると考えています。

とはいえ、人間に取って代わって働いてくれるロボットの出現によって、「人間は労務から解放される」という側面があることも事実です。ロボットが人間の代わりに食料生産をしてくれれば、「食って寝る」だけの生活だとしても、人間は働くことなく生きていけるかもしれません。ただ、ロボットに代替されない独自の価値を持つ人は別として、そうではない大半の人は働く意味を失ってしまうので、それに変わる新たな「意味」を見つける必要がありそうです。

◆究極の暇つぶし

仮に働くことが生きるために必要条件ではなくなった場合、人間には「自由な時間」が降ってわいてきます。ハラリ氏は、人間は何もしないではいられず、無為に暮らすことを強いられれば狂ってしまうので、ロボットの登場とともに「暇な一日をどうやって過ごしていくのか?」という問題が発生すると考えています。



この暇な時間を埋め合わせるために、人間がとり得る行動をいくつかハラリ氏は検討しています。

・1:コンピューターゲーム

ハラリ氏は、人間が暇つぶしに選ぶのは「コンピューターゲーム」かもしれないと指摘しています。「暇つぶしにゲーム」というのは古い発想に思われそうですが、バーチャルリアリティ(VR)空間での非現実的な体験は、現実世界よりも刺激的であり魅力的なため、現時点でもVRゲームにのめり込む人がいるほどです。テクノロジーが進化したとしても、あるいは進化すればするほど、コンピューターゲームの世界は最高の「暇つぶし」になるかもしれません。

・2:宗教

時間に余裕のある人間が、多くの時間を費やすのにぴったりなものとして、ハラリ氏は「宗教活動」を挙げています。ハラリ氏によると、信仰心を持つ人たちは、VRゲームをしているようなものだとのこと。例えば、イスラム教徒は「豚肉を口にしない」という戒律(ルール)に従います。また、敬虔なクリスチャンは「同性とはセックスをしない」というルールに従います。これらのルールは、人間の想像力の中にのみ存在する「法」であり、Natural Law(自然法)が禁じているわけではない点で、バーチャルリアリティのゲームのような性格を持ち合わせているというわけです。

「毎日祈ることでポイントゲット」「祈り忘れるとポイント喪失」「十分なポイントを獲得したら、次のレベルの世界(天国)に移動」というように、まるでゲームをするかのように宗教活動をする人が現れるかもしれません。そして、これまで信仰心を高めるツールは聖書でしたが、将来的にはVR空間を体験できるスマートフォンが聖書代わりになるのかもしれません。

◆人間の内に存在する仮想現実

痛烈で風刺的かつユーモラスな表現で未来の世界を表現するハラリ氏ですが、仮想現実は、ロボット時代で働く意味をなくした人たちに新たな「意味」を与えることになる可能性が高いと考えています。そして、仮想現実はコンピューターの中で発生するかもしれないし、コンピューターの「外」で新しいイデオロギーや宗教などの形で発生するかもしれないし、あるいは、それらが融合した形になるかもしれないとのこと。コンピューターを利用するかしないかを問わず、人間の内なる創造性が新たな仮想現実の世界を生み出すというわけです。2050年までには訪れる未来の可能性は無限大であり、どのような世界が訪れるのかは誰にも分からないとハラル氏は述べています。