J2リーグ第16節。名古屋グランパスは横浜FCの本拠地であるニッパツ三ツ沢球技場に乗り込み、1-2と逆転勝利を収めている。シモビッチがPK2発を沈め、しぶとく寄り切った。これによりアビスパ福岡を抜いて首位に躍り出た。


横浜FCに勝利した名古屋グランパスの先発イレブン 昨シーズン、名門・名古屋はクラブ史上初の降格の憂き目を見ている。1年での1部復帰は至上命題。川崎フロンターレを率いてボールゲームを謳歌し、J1優勝を争った風間八宏監督を招聘し、鳴り物入りでリスタートを切った。

 風間グランパスの完成度はどこまで上がってきたのか?

「去年とは、やっていることが違いすぎて比較はできないです。(風間監督就任後は)練習中からずっと、『つなぐ』というところは徹底していますね。まだまだ、(今日みたいに)”勝っちゃってる”というところは大きいですが。勝つことで変わっていくもんもあるので」

 昨シーズンから名古屋グランパスを牽引するMF田口泰士はそう言って、白い歯を見せた。

 横浜戦で、名古屋は立ち上がりに混乱を見せている。ビルドアップでのつなぎがノッキングを起こし、イニシアチブを握れない。結果、押し込まれることで何本かFKを与えてしまう。

 そして8分だった。横浜は直接FKをエースFWのイバが得意の左足で右上隅に叩き込む。その1本前に左ポストへ速い球質のボールを蹴っていたことで、右上がいくらか空いていた。

 先制点を奪われた名古屋は、自らゲームを難しくしてしまった。その後もイバのポストワークに手こずり、巧妙にラインを下げさせられる。そこでディフェンスのミスも出た。例えばロングスローに気を抜いたのか、ゾーンディフェンスを完全に破られ、危ういヘディングシュートを食らっている。

「前半は決して悪くはなかったですが、自分たちの技術的ミスで自分たちを苦しめてしまいました。例えば、”止める”と”運ぶ”がしっかり分かれていなかった。中途半端なところでボールを引っかけられ、チャンスがあるのに勢いを与えてしまった」(名古屋・風間監督)

 名古屋の選手たちが、風間監督が与えたプレーモデルを実行しようとしていたことは間違いない。問題は精度だろう。トップレベルでのプレー経験が浅い選手が半数以上だけに、メンタルの影響も出た。

「風間監督が話す言葉は、言い回しもあるんだと思いますが、どれも新鮮で勉強になります」

 そう語ったのは、風間グランパスで定位置をつかんでいる内田健太だ。昨季はJ2愛媛FCで活躍。風間監督から声がかかったとき、快哉を叫んだという。

「風間監督は(ボールを)『止める』というところをとにかく言いますね。『いいところにボールを止めれば、相手に取られない』と。それは基礎っていうか、誰でも分かっているはずなんだけど、実際はできていないんだと思います。だから、トラップの部分の反復練習はたくさんしていますね。『いい質は量からしか生まれない』って。自分も止める精度をもっと上げたら、自分の(左足の)キックも生きてくるはずで」

 風間監督の魅力は言葉のチョイスにもあるだろう。川崎時代、3年連続得点王に輝いた大久保嘉人が「人生で初めてメモを取ろうと思った」というほど、選手の心と頭に響くものがある。一朝一夕で変化が起きるわけではないが、着実にチームは変わっていくのだ。

「今シーズンはすでに(3バックの)左センターバック、左のワイドのMF、左サイドバック、それにボランチもやりました。このチームではポジションという概念はないですね。目安のひとつっていうか。ポジションに関係なく、どんどんつないで(スペースに)入っていく、というのが求められていますから」

 内田は熱っぽく語ったが、彼自身、新天地にサッカー人生を懸けているのだろう。川崎時代、風間監督の指導によって多くの選手が成長を遂げた。大久保は30歳で初の得点王に輝き、中村憲剛は36歳でMVPを獲得し、小林悠、大島僚太、谷口彰悟ら無名だった若手は日本代表に選ばれるまでになった。

<自分たちもそのひとりになれる!>

 その気運が、名古屋の土俵際の強さにつながっているのかもしれない。
 
 後半に入って、55分だった。和泉竜司がドリブルで1人を置き去りにした後、ペナルティエリアに入ってから打ったシュートが相手のハンドの判定に。このPKで同点に追いつく。77分には田口が強引にペナルティエリア内に割って入り、2人に倒されて再びPKを得る。これで逆転に成功した。

「まだパスのズレなどはありますが、徐々に結びついてきたなと感じますし、その中で生まれたPK2本でした」

 風間監督は得点シーンをポジティブに捉えた。

 しかしそれは、和泉、田口という名古屋の中で突出した「個」が決めたゲームだった、とも言える。その点、風間グランパスのチーム完成度が高かったとは思えない。ポジションもメンバーも毎試合のように変化し、「ボールをどう止めて、どう運び出すのか」を突き詰めている途上だ。

 一方、風間監督のチームの特長は、選手という「個」が存在感を放つことにある。「壮大なパズル」を与える中、ひとつひとつのピースがはまっていく。例えば田口はこの試合、プレーの渦を作り出す縦パスを何度か入れ、ゴールへのスピードを上げている。逆転弾は象徴的だった。彼がパスをいい位置に止め、絶好のタイミングで前に運び、複数の選手が絡む中、それを追い越してリターンを受け、PKを勝ち取った。

「3人目の動きで前に入れたら、と思っていました。自分の感覚で」

 田口は言ったが、止め、運ぶ動きは秀抜だった。田口はすでに、パズルにはめ込まれた大きなピースとなっている。彼を手がかかりに、風間グランパスは完成に近づくのかもしれない。

 名門・名古屋のJ1昇格は至上命題である。しかし、シーズンが終わったときにどんな選手が台頭しているか――。それによって、風間グランパスの値打ちは決まるはずだ。

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