9年前の縁が生んだ抜擢

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 「絶対的な信頼感」

 阪神の中継ぎ投手陣のキーマン・桑原謙太朗に対する金本知憲監督の起用法を見ていると、毎試合、そう感じるものがある。

 5月24日の巨人戦。桑原の16試合連続無失点が途切れた。この試合では、好投を続けていた能見篤史の後を受け、8回表にマウンドへ。

 しかし、亀井善行に17試合ぶりとなるタイムリーを打たれ、坂本勇人へは制球を乱し四球。ピンチがふくらんだが、阿部慎之助を迎えた場面でも金本監督はベンチで微動だにせず、交代の気配さえ見せなかった。

 桑原はここまでマテオ、ドリスにつなぐ6回、7回を、時にはイニングまたぎもものともせずピンチを救ってきた。今季挙げた3つの勝ち星は、桑原の登板後に、チームが逆転したことを物語っている。

 昨季は1軍での登板が1度もなかった。オフには解雇の危機感さえ抱いていたはずだ。そんな桑原を1軍の中継ぎに抜擢したのは、何を隠そう金本監督自身だった。

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■金本監督の眼力で桑原を大抜擢

 桑原は2007年の大学生・社会人ドラフト3巡目で横浜に入団。入団1年目の2008年には30試合に登板。3勝6敗1ホールドと将来の飛躍を期待させた。

 しかし翌年以降、低迷が続く。2010年オフにオリックスに移籍し、2014年オフには阪神に移籍。2015年は6試合に登板するも6回1/3で被安打9、与四球6と課題の制球を克服できないでいた。

 ところが、金本監督は桑原の武器を見逃さなかった。

 桑原の得意とする球種は150キロ近いストレートが自然に曲がる「真っスラ」。大学時代に偶然の産物で生まれたものだ。

「この球はそう簡単には打てない!」

 金本監督はそう確信した。今季、経験も実績も乏しい桑原を中継ぎに抜擢した理由は、自らの「打者目線」での判断、いわゆる「眼力」以外の何ものでもなかった。

■昨季の原口文仁同様、桑原の起用が勝利へ導く

 実は、金本監督は現役時代に桑原の「真っスラ」を打席で体感している。

 資料を紐解いてみると、それは桑原がプロ初完封勝利を上げた2008年8月16日、阪神対横浜(京セラドーム)でのことだ。この試合で金本監督は4打数2安打のマルチヒットを記録。第3打席はセンターへ、第4打席はライトへと弾き返していたのだ。

 このときの桑原の「真っスラ」が、金本監督の記憶に残っていたのかどうかは定かでない。しかし、少しは記憶にとどめていた可能性はある。今シーズン、ブルペンでの投球を見たときに、その記憶がよみがえり、起用を決断したのではないだろうか。

 昨季も金本監督は、原口文仁を育成枠から支配下登録に引き上げたその日の巨人戦で、起用を即決した。原口は期待に応え、プロ初ヒット。ブレイクのきっかけをつかんだ。

 原口の打力を見抜いた金本監督の眼力で、今季は桑原を中継ぎ起用。チームを勝利に導いている。

■阪神球団や金本監督に通じる不思議な縁

 桑原が阪神からプロ初完封を挙げた2008年8月16日は、奇しくも金本監督が通算2000試合出場を達成した日でもあった。

 また、桑原が生まれた1985年10月29日は、阪神が西武を相手に戦った日本シリーズ第3戦にあたる。この年の日本シリーズで阪神は球団創設以来、初の日本一に輝いている。

 桑原には、阪神や金本監督との何かしらの縁を感じる。

 桑原は今季の日本シリーズ期間中に、32歳の誕生日を迎える。阪神も32年ぶりの日本一に輝くことができるか?

 阪神が日本シリーズに進み、桑原の活躍で日本一達成すれば言うことはない。

まろ麻呂企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。【関連記事】