近年、ユニバーサルデザインへの関心が高まってきている。「できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」と定義されているが、体格や能力、年齢、性別の違い、障害の有無にかかわらず、誰もが利用できる製品や環境の創造を目指している。

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近年、ユニバーサルデザイン(UD)への関心が高まってきている。UDは、提唱者である米ノースカロライナ州立大学の故ロナルドーメイス氏によって「できるだけ多くの人が利用可能であるように製品、建物、空間をデザインすること」と定義されているが、体格や能力、年齢、性別の違い、障害の有無にかかわらず、誰もが利用できる製品や環境の創造を目指している。身体障害者や高齢者にとっての障壁。(バリアー)を取り除くといった、いわゆるバリアフリーの発想とは異なった概念だ。

UDは企業にとっても顧客満足につながる考え方として、事業や商品への取り組みが増えてきており、経済産業省によるとその市場規模は25年には少なくとも16兆円規模と見込まれている。

企業のほか多くの地方自治体においても、UDの取り組みが進められている。例えば、熊本県。私は熊本ユニバーサルデザインシンポジウムに講師としてお招きいただいたことがあるが、「すべての人のためのまちづくり」をテーマに、インターネットでUDのアイデアを募集したり、小学校の授業にUDを取り入れたり、文字通り県を挙げての取り組みが印象的であった。

さらに、大学においても千葉大学をはじめUDを授業や研究テーマに取り入れるところが増えてきている。2004年に開学した静岡文化芸術大学は、開学の精神にUDを掲げた国内初の大学で、静岡県、浜松市、地元産業界が協力して運営に当たっており、デザイン学部の共通科目としてUDの授業が組み込まれているとのことだ。

このようにUDの考え方が広まってきた背景には、高齢化や身体障害者の増加が大きな要因であるのは間違いないが、さらにグローバル化や技術革新、ライフスタイルや価値観の多様化といったこと背景にある。様々な価値観を持った多様な人々がともに快適に暮らすことができる社会を実現するための、いわば人間視点の発想としてUDが生まれてきたと言える。

UD研究の第一人者である英国王立芸術大学のロジャー・コールマン教授によると、様々な歴史や文化、言語、宗教を持つ欧州では、障害者や高齢者に限らず多様な人々のインクルーション(包括)が大きな課題であり、UDもそういった意味を込めてインクルーシブデザインとかデザインーフォー・オールと呼んでいるとのことである。

これからの社会では、物質的な豊かさから精神的な豊かさを求める社会的ニーズが高まってくる。UDが単にモノやサービスのデザインにとどまらず、その根底に流れる。人間性尊重の思想として、ますます社会に広まっていくことが、日本経済に活力を与え、社会全体の幸福につながるものと考えている。

■立石信雄(たていし・のぶお)
1936年大阪府生まれ。1959年同志社大学卒業後、立石電機販売に入社。1962年米国コロンビア大学大学院に留学。1965年立石電機(現オムロン)取締役。1995年代表取締役会長。2003年相談役。日本経団連・国際労働委員会委員長、海外事業活動関連協議会(CBCC)会長など歴任。「マネジメントのノーベル賞」といわれるSAM(Society for Advancement of Management)「The Taylor Key Award」受賞。同志社大学名誉文化博士。中国・南開大学、中山大学、復旦大学、上海交通大学各顧問教授、北京大学日本研究センター、華南大学日本研究所各顧問。中国の20以上の国家重点大学で講演している。