リアル「やすらぎの郷」で、感じよすぎるおばあちゃまに遭遇!
『ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー』【さぼうる☆シネマ】

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はじめまして。 カラダもほぐしたいけれど、ココロもじんわりほぐしたい。そんなときは映画館に足を運んでみてほしい、とスタートした「さぼうる☆シネマ」です。 「風味、味わい」のような意味を持つ"savuer"をちょっと和風に発音させていただいての、さぼうる。甘かったり、酸っぱかったり、辛かったり、ほろ苦かったり。映画を味わうことでココロがほぐれますように、という願いを込めて(サボる、ではございませんからw)。雑食系映画紹介人、松本典子がお届けします。
いきなり横道にそれちゃうのですが。ハリウッドにはリアル版「やすらぎの郷(※)」がある、ってご存知でしたか? あの昼ドラではテレビ業界に功績のある人だけが入れるという架空の施設ですが、彼の地には同趣旨の老人ホームが実在するそうなのですも、そこに暮らすことを許されたご夫婦(ハロルドは2007年に他界)。つまりはハリウッド映画界に貢献した製作のプロフェッショナルだったのですが、文字通り、知る人ぞ知る存在で。
その"知る人ぞ知る"っぷりーー彼らが関わった作品といえばヒッチコック、スピルバーグ、コッポラ、キューブリック、リンチと監督も錚々たるものーーで裏話も実に面白く、タイトルにあるように"ハリウッド(映画)の物語"とも言えるのですが、私が強くおすすめしたい理由はですね、同時に"愛の物語"でもあるってところなのであります。
この作品で何よりも惹きつけられるのは、リリアン・マイケルソンのチャーミングっぷり。キャリアを自慢したり、苦労をボヤいたりもせず、ふたりのライフ・ストーリーを語るその姿。老いを感じさせない一方で、若ぶってもいない。もうね、「こんなおばあちゃまになりた〜い! 明るく元気に生きていこう!」って必ずや思えるはず。
チャーミングな我らがリリアン。スピルバーグやコッポラら年下の監督にも慕われて。
キャリア&人柄、どっちも! スピルバーグやコッポラに慕われて
リリアンは、映画のリサーチャーとして大活躍した人です。フィクションである映画にリアリティを持たせるための情報を収集するのが彼女の仕事。"1890年代のユダヤ人女性の下着(『屋根の上のバイオリン弾き』)"の時代考証から、"南米の麻薬取引(『スカーフェイス』)"などという裏社会事情まで幅広く、誰も教えてくれなさそうな写真資料も無さそうなテーマが目白押し。後者では、引退した元麻薬王と現役の麻薬捜査官がお互いと知らずに彼女のライブラリーではからずも鉢合わせしたこともあったとか。生きた情報をとことん追い求めていたリリアンの仕事ぶりには脱帽ですし、巨匠たちが頼りにしたのも納得が行くというものです。
夫ハロルドもまたハリウッドで絵コンテ作家として大活躍した人物。どんなシーンをどんなアングルで撮るかを示す絵コンテは、いわばビジュアル版の台本。監督の名アイデアだと思っていたこのカット割り、あのアングルが少なからずハロルドによるアイデアだったこと、絵コンテと完成シーンを並べながらていねいに見せてくれるので、旧作なんて観たことないという方でも驚きながら楽しめます(にもかかわらず彼らの名前はクレジットされないこと少なくなかったなんて! 監督さんたち、ちょっとズルくない?とか思いながら)。

ハロルドが描いた、ヒッチコック『鳥』の絵コンテ。

『スタートレック』のプロダクションデザイナーとして、ハロルドはアカデミー賞候補にも。
リリアンとハロルド、ずっと一緒にいられた秘訣とは?

ハリウッドの巨匠たちを支え続けたおしどり夫婦、カッコいい!
......とまた少し脱線。ええ、ハロルドも素晴らしいのですが、今回、私がご注目いただきたいのはリリアンですから。孤児として育ち、ハロルドの親族にはとことん反対されながらもハリウッドで結婚。キャリアをスタートさせたばかりの夫は言わずもがな薄給で、彼女も仕事を持ったものの妊娠を理由にクビ......なんていう苦労もあったようですが、とにかく明るい。誰かのせいになんてしないけれど、「もう死んじゃったから少しバラすわね」的に悔しかったことも打ち明けてくれる。負けん気の強さってユーモアで包んでしまうとチャーミング度がますますアップするのね、とか思わずメモしたくなります。