マンチェスター・ユナイテッドのズラタン・イブラヒモビッチ【写真:Getty Images】

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U-20日本代表FW小川も大怪我…中村俊輔専属トレーナーに聞く発症のメカニズム

 U-20日本代表FW小川航基(ジュビロ磐田)が、韓国で行われているU-20ワールドカップ1次リーグのウルグアイ戦で左膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の大怪我を負った。最近では、世界でもマンチェスター・ユナイテッドFWズラタン・イブラヒモビッチが右膝前十字靭帯を損傷しているが、キャリアを左右するような重大な怪我を回避することはできるのだろうか。ジュビロ磐田の元日本代表MF中村俊輔の専属トレーナーを務める新浦安しんもり整骨院入船院の新盛淳司院長に発症のメカニズムなどについて聞いてみた。

「膝の前十字靱帯は、ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ靱帯で、すねの骨の前方への移動や膝のひねりを制限する役割があります。前十字靱帯損傷は、サッカー、バスケットボール、ラグビー、スキー選手に多く起こるもので、実は女性に多いのも特徴的な怪我です」

 新盛氏がこう説明した。女性にも起こるケースが多い大怪我というが、大きく2タイプに分類されるという。

「競技中にぶつかって起きる接触型と、そうではない非接触型があります。今回の小川選手の場合は非接触型に分類されます。スポーツの種目にもよりますが、非接触型の方が多く見られる傾向があります。“cutting”と呼ばれる方向転換の動作、“landing”と呼ばれる着地動作、“stopping”と呼ばれる減速動作をする際に受傷するケースが大半です。小川選手もイブラヒモビッチ選手も着地動作の際に受傷しています」

 靱帯損傷の多くは非接触型という、いわゆる“自爆”というパターンが占める。方向転換、着地、減速の瞬間にある条件が重なると負傷が起こる傾向があるという。

動作時の足首、膝の角度、重心も要因に…手術なら復帰まで6か月〜12か月

「先ほど説明した3つの動作の際に、膝が軽く曲がり(軽度屈曲)、足首が膝より外側に反る(外反)、すねの骨がねじれている(下腿回旋)、重心がやや後方にかかっている、という4つの状況の場合に損傷することが多いと言われています」

 動作時の足首、膝の角度、重心も故障を生みやすくする要因となるという。スポーツ選手の場合には競技生活を続けるために手術を選択することになる。

 新盛氏は「復帰時期は6か月〜12か月が一般的。半月板や軟骨の合併損傷度合いによりリハビリのスピードも変わってくる。合併損傷の度合いは、復帰後のパフォーマンスにも影響を与えます。小川選手の場合は半月板などの損傷具合も気にかかります」と語った。

 アスリートのキャリアを脅かす故障だが、予防策はないのだろうか。

「前十字靱帯損傷の予防は様々なプログラムが考案されています。そして、その効果も報告されているものもあります。私はサッカー選手を指導する機会が多いので、気をつけていることがあります」と新盛氏は解説した。

 第一は常日頃のウェイトトレーニングでの肉体強化だという。

お尻の筋肉強化で故障の予防に…固有需受容器トレーニングも効果を発揮?

「着地の衝撃や方向転換には、臀部の筋肉が必要になります。いわゆるお尻の筋肉です。プロのサッカー選手でもお尻の筋肉を効果的に使えてない選手は少なくありません。そして、女子選手の故障者で多く見受けられるのは太ももの裏、ハムストリングよりも、太ももの前を使う傾向にあることです。太ももの前の筋肉を使うと前十字靱帯にストレスがかかりやすくなります。太ももの前と裏のバランスが重要になります。ウェイトトレーニングで、スクワットなどをお尻やハムストリングを意識したフォームで行うことで、筋力と同時に、お尻の使い方も習得できます」

 臀部の筋肉の強化、そして、女性の場合は太ももの前の部分と裏の部分のバランスをいかに保つか。それが故障の予防につながるという。

「もう一つは聞きなれないかもしれませんが、固有受容器トレーニングというものです。自分の体で筋肉がどう伸びているのか、関節はどのような状況になっているのか、把握するためのトレーニングです。前十字靱帯断裂の場合、着地してから、約0.04秒で靱帯断裂しているとも言われています。つまり、着地する前の動作が重要になるのです。固有受容器とは、自分の体の姿勢や、運動がどのように行われているかを、脳に伝達するセンサーの役割を果たすものです。

 センサーが十分に働いていれば、着地前の姿勢を認知することができます。着地前から筋肉の収縮を行うなど事前準備がスムーズになり、故障のリスク回避が期待できます。靱帯が伸びた状態でセンサーは働きを高めるという報告もあります。ウォーミングアップに膝や股関節の関節を深く曲げ、靱帯などを最大限伸ばす動作も私の指導では組み込んでいます。筋肉を伸ばしている選手は多いが、靱帯まで意識して行っている人はあまりいません」

 こう解説した新盛氏は目を瞑った状態での着地などのトレーニングを事前運動に取り入れ、センサーを敏感にさせる狙いがあるという。

蓄積疲労も影響大「疲労のコントロールは取り組む必要がある」

 故障には蓄積疲労も大きな影響を与えるという。

「断裂に関しては、着地などの動作の直前姿勢が重要になります。相手の動きを予測し、事前準備ができれば、バランスを崩さず、プレーできるようになります。疲労がたまると、判断力が鈍り、反応が遅れます。また、ミスを補おうと無理なプレーした時に怪我のリスクは高まります。週に2試合など行う場合などは、プレー時間などを考慮することも怪我を減らせる大きな要因になります。チームマネジメントして、疲労のコントロールは取り組む必要があります」

 ウェイトトレーニングによる臀部と太ももの筋力強化、固有受容器トレーニング、そして、疲労のコントロールの3点が予防策として効果が期待される。

「小川選手には再発に注意しながら、さらに強くなって復帰してもらいたいです」

 新盛氏は次代のサッカー界を背負う、若き才能の完全復活を心から祈っていた。

◇新盛淳司(しんもり・じゅんじ)

 新浦安しんもり整骨院入船院、入船しんもり鍼灸(しんきゅう)整骨院、新浦安しんもり整骨院今川院、今川しんもり整骨院、クローバー鍼灸整骨院代表。柔道整復師、鍼灸師の資格を持ち、関節ニュートラル整体普及協会会員。デフ(ろう者)フットサル女子日本代表トレーナー。サッカー元日本代表MF中村俊輔をセルティック時代から支える。今季JFL昇格を決めたブリオベッカ浦安のチーフトレーナーも務めている。