シリコンバレーの流行語「モート」に学ぶ、効果的な比喩の使い方

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シリコンバレーでは今、「モート(堀)」という言葉が流行しており、ビジネスシーンでもこれをよく聞くようになってきた。一見奇妙に思えるかもしれないが、実はそこまでおかしなトレンドではない。

ブルームバーグによれば、テクノロジー各社によるここ1年の決算発表や財務報告では、重役たちが計89回も「モート」を使用していた。

事の発端は、ウォーレン・バフェットが株の銘柄選びを説明した際に口にした例え話だったようだ。バフェットは、競合他社に対して「経済の城のごとく」強い防御力を誇る企業を自分は探している、と発言した。

この中世的な比喩は、米ケーブルテレビ局HBOが制作したドキュメンタリー特番「Becoming Warren Buffet(ウォーレン・バフェットになる)」を機に再び使われるようになった。番組内でバフェットは、有能なCEOを城の防御者に例えてもいる。

「資本主義において、人々はあなたの城を奪おうとする。これに対抗するため、あなたは城の周りに堀を作り、襲撃者の攻撃をうまく回避できる騎士を城に配備する」

比喩はさまざまな形で日常的に使用されており、説明しようとする概念が抽象的であればあるほどよく使われる。例えば、先週末のウォールストリート・ジャーナル紙では以下のような比喩表現が使われていた。

──経済学者の故アラン・メルツァーは連邦準備銀行の「災いの長(おさ)」と呼ばれており、一方でヘンリー・テーマーはバイオ技術の「パイオニア」として記憶されている。

──今週の株価市場は活発だった。株価は「揺さぶられ」、「ぐらつき」、「ガタついた」。

──ピュリツァー賞受賞作家でレーガン大統領の元スピーチライターのペギー・ヌーナンはこう書いている。「世界は再び、米国の政治システムをサーカスとして見ている。町にやって来たサーカスは全てを消費し、全エネルギーを吸い取る」

ジャーナリストやビジネスリーダーたちは、時間や場所が限られる中で抽象的かつ複雑な話をしなければならないため、比喩をこぞって使う。

言語学や認知科学の世界では、人間の脳は「類推」(2つの事柄の間に類似点を見つけ、両者は同じだと推理すること)を行うよう作られているとされる。類推を使って考え、世界を類推で処理し、類推でのコミュニケーションを好むのだ。類推に基づいた言語表現である比喩は、アイデアを共有するための最高のツールだ。

ビジネスの説明で比喩を活用し楽しむこともできる。以前私はインテルの経営陣から、同社初の「デュアルコア」コンピューターチップ発表について相談を受けた。難しかったのは、1つのチップに2つのプロセッサーコアがある、ということをどう説明すれば一般消費者に分かってもらえるかということだ。

われわれは次のような例え話で説明した。マイクロプロセッサーはコンピューターにとって脳のようなもので、デュアルコアチップはまるでノートパソコンに脳が2つあるようなもの。一方である機能を処理する間に、もう一方で別の処理ができる。これは「〜のような」「まるで〜」といった言葉を使う直喩表現だ。

われわれはデュアルコアがどれだけパソコンを速くするか、一般ユーザーにとって何を意味するかを説明した。メディアやブロガーはしばしば、全く同じ比喩表現を使って商品について伝えた。例えばロイターの記事では、私たちの説明そのままに「デュアルコアプロセッサーには脳が1つでなく2つある」と書いている。

このインテルでの経験から、科学や数学、エンジニアリング業界の用語を一般消費者に理解してもらうためには、シンプルな言葉や比喩を使う必要があることが分かった。

比喩で難しいのは、的確な表現を思いつくまでブレインストーミングをする必要がある点だ。そしていったん良い比喩が見つかると、その表現は繰り返し使用され、すぐに使い古されて陳腐な表現となり、効力を失ってしまう。「モート」という言葉はすぐに投資家に飽きられ、それに替わる新たな比喩表現が出てくるはずだ。

複雑で抽象的な話を説明する際に比喩を使うことは、リーダー、教育者、科学者、そしていかなる分野でのコミュニケーターにとっても大切だ。重要なのは、聞き手があっと驚き、そのトピックについて違った側面から考えるように仕向けられるユニークな比喩を見つけることだ。