「フェイクニュースのツケは、だまされた人もそうでない人も、選挙結果という形で平等に支払うことになる」と語るモーリー氏

写真拡大

『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが最近、リベラル陣営にも侵食してきたという“フェイクニュース”について語る。

* * *

昨年の米大統領選では、トランプ(当時は候補)に都合のいい右寄りの“フェイクニュース”が大量にバラまかれ、多くの人の投票行動に影響を与えたことが問題視されました。ところが、最近はそれと逆の“リベラル・フェイクニュース”―つまり、左派の人々が飛びつくようなニセ情報が目立ってきています。

その“ガセ度合い”はさまざまで、「ゴルフ中のトランプが腹を下して脱糞し、ズボンに染みをつくった」「メラニア夫人がホワイトハウスのサイトでジュエリーの通販をしている」といったバカバカしいものもある。しかし、なかにはもっと際どい、多くの人が本気でだまされそうなものもあります。例えば…。

「オバマ政権時代に一度は中止が決まったものの、トランプ政権が建設を再開した石油パイプラインに抗議する先住民らのティピー(円錐形テント)を警察が燃やした」

この話、パイプライン建設が再開されたことや、先住民が抗議行動をしていることはれっきとした事実です。ところが、「ティピーが燃えている画像」付きで報じられ、フェイスブックで27万回もシェアされたこのニュース、実は肝心の画像がまったく関係ない映像作品から切り取られたものでした。つまり、「権力側の横暴」という核心部分だけがフェイクだったのです。

なお、このフェイクニュースの発信元は『オルタナティブ・メディア・シンジケート』。「ヒトラー最後の秘密が明かされた!」といった記事をデカデカと掲載しているような、露骨な陰謀論系サイトでした。

昨年の大統領選では右派系フェイクニュースを厳しく批判したリベラル陣営の人々が、なぜこんなデマにだまされてしまうのか。

もちろん、最近のアメリカで実際に民族・人種差別的な事件が多発しているという事情もあるでしょうが、それ以上に、多くの人々が「大統領になってしまったトランプ」に不安や恐怖を感じており、「その感情を肯定してくれるネタ」を無意識に欲しているのだと思います。

ハーバード大学のある研究者によれば、トランプに負けた悔しさを持ち続け、アンチ・トランプ的なニュースを日々漁(あさ)り続けている人も少なくないそうです。

彼らは常に、自分が正しい側にいると信じている。それゆえに「思ったとおりのニュース」を目にしたとき、とりわけそれが信頼する知人や言論人がシェアしたものなら、脊髄(せきずい)反射的に拡散に参加してしまう。

ところが、フェイクニュースの発信元のほとんどは報道機関と呼べるようなものではなく、単純な利益目的の業者です。政治的な信念など持たず、“右仕様”と“左仕様”のフェイクニュースを次々と粗製乱造し、両陣営の客からPV(ページビュー)を稼ぐーー実においしいビジネスです。

ちなみに、ある調査によれば、右にしろ左にしろ、フェイクニュースを信じやすい人ほど投票率が高いとの結果が出ています。つまり、業者が金儲けのために流したウソが、やはり選挙結果に直結しているということです。

フェイクニュースを信じる人を嘲笑するのは簡単なことですが、そのツケは結局、だまされた人もそうでない人も、選挙結果という形で平等に支払うことになる―そう考えると、特効薬はないにしても、誰もが無視できない問題なのです。

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)

1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム〜あなたの時間〜』(月〜金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中!! ほかにレギュラーは『NEWSザップ!』(BSスカパー!)、『モーリー・ロバートソン チャンネル』(ニコ生)、『MorleyRobertson Show』(block.fm)など