Bリーグ2016-2017 クライマックス(4)
チャンピオンシップ・ファイナル展望

 ここまできたら、確率もデータも、戦術もジンクスも、さして意味を持たないだろう。泣いても笑ってもラスト1試合。勝利の女神は、どちらのチームに微笑んでもおかしくない。

 Bリーグ・ファイナル――川崎ブレイブサンダースvs.栃木ブレックス。川崎も、栃木も、初代王者となるべき資格も実力も物語も持っている。


「川崎vs栃木」のレギュラーシーズン対戦成績は1勝1敗の五分だ 今季レギュラーシーズンで49勝11敗と、リーグ最高成績を残した川崎。得点王に輝いたニック・ファジーカス(C)にスポットライトが当たりがちだが、これほど日本人選手が躍動するチームはリーグ広しといえども他にはない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 日本代表でも活躍した経歴を持つ北卓也ヘッドコーチ(HC)が率いるチームは、彼の現役時代を彷彿とさせるバイタリティあふれる「闘う集団」だ。

 ガード陣は粒ぞろい。キャプテンの篠山竜青(PG)は、まさに「闘将」と呼ぶにふさわしい。プレーだけでなく、勝利への執着心が深いチームの精神的支柱だ。さらに、日本屈指のシューターの辻直人(SG)。「打った瞬間に入ったとわかった」と言うシューターは稀にいるが、辻は好調時なら「ボールをもらった瞬間にシュートが入ることがわかる」と言う天才シューターだ。また、チーム加入3年目のバックアップガード藤井祐眞(PG)の今季の成長にも目を見張るものがある。

 一方、ガード陣ほど派手さはないものの、フォワード陣には192cmの栗原貴宏(SF)、190cmの長谷川技(SG/SF)、200cmの野本建吾(SF/PF)と、サイズと身体能力に優れる選手が揃っている。なにより、愚直にマークマンにプレッシャーを与え続けるディフェンス能力を持ち併せており、彼らは間違いなく「勝てるチーム」に不可欠な戦力だ。

 特にインサイドには、リーグナンバーワンプレーヤーと呼んでいいだろうファジーカスがオフェンスの柱として君臨する。もうひとりの外国籍選手のライアン・スパングラー(PF)も身体能力が高く、身体を張った献身的なプレーがウリだ。スパングラーは昨年のNCAAトーナメントでオクラホマ大をファイナル4に導いた実績を持ち、そのプレーぶりを知っていたファジーカスが太鼓判を押して獲得に推薦した好選手である。また、帰化選手である39歳のジュフ磨々道(ままどぅ/PF)もプレータイムはさほど長くないものの、随所でいぶし銀の輝きを放つ。

 レギュラーシーズンは中地区の首位をひた走った川崎だったが、今年1月にスパングラーが左ひざ関節骨挫傷で長期離脱することになった。しかし、このスパングラー不在の約3ヵ月の期間に野本などの日本人選手のプレータイムが急増したことが成長を促し、チーム力全体の底上げとなった。

 川崎の前身である東芝ブレイブサンダース神奈川は、NBL(ナショナル・バスケットボール・リーグ)の最終シーズンの覇者である。NBL出身チームがbjリーグ出身チームを圧倒したBリーグ元年、川崎こそが正統なる初代王者の筆頭候補と呼んでいいだろう。NBL最後の王者がBリーグ最初の王者に――。ふたつのリーグをまたぐ連覇は、物語としてドラマチックであり、王道だ。

 ただし、Bリーグのファイナルは一発勝負。勝利を渇望し、極限まで集中力を研ぎ澄ました2チームがぶつかれば、大接戦となる可能性は高い。一方でチームの気合いが空転し、思いがけないワンサイドゲームとなる可能性も十分にある。

 もしも、栃木が川崎を追う展開になったのなら、ゲーム途中で何点差がつこうとも、席を立ったり、チャンネルを変えたりするのはやめたほうがいい。

 何点差がつこうと、栃木はあきらめない。絶対に――。

 千葉ジェッツとのチャンピオンシップ(CS)クォーターファイナル第2戦。栃木は第1クォーター終了時に20点、最大で22点差をつけられるも、そこから大逆転勝ちを演じている。キャプテンの田臥勇太(PG)は大量のビハインドを背負ったタイミングの心境とチームメイトの雰囲気を、試合後にこう語った。

「逆転に向けて、どう試合を展開していくか、ひたすら考えていました。誰ひとりあきらめていなかった」

 続くシーホース三河とのセミファイナル第2戦も、栃木はあきらめなかった。第3クォーターを終えて38-57と19点のビハインド。残り10分間での逆転は、もはや絶望的とも思えた。ところが、最後は2点差で敗れたものの、残り2分で栃木は同点に追いつく。そして続けて行なわれた第3戦も、栃木は三河を終始追いかける展開から、残り2秒の逆転劇でファイナルへの勝ち名乗りを上げている。

 試合終了のブザーが鳴るまで、栃木は絶対に勝利をあきらめない。

 栃木のストロングポイントのひとつが、ジェフ・ギブス(PF/C)、渡邉裕規(PG/SG)、熊谷尚也(SF/PF)、須田侑太郎(SG/SF)といったベンチスタートのメンバーが嫌な流れを断ち切るエネルギーを持っていることだろう。なかでも、田臥が「今季の成長が著しく、頼もしい」と名前を挙げるのが熊谷と須田の2選手だ。

 Bリーグのレギュラーシーズンは60試合。かつて国内にあったどのリーグよりも試合数が多い。もちろん選手の疲労も過去最大と言えるが、国内最高レベルの試合を数多く経験することで、これまでならば埋もれたままだった選手のポテンシャルを覚醒させる効果は間違いなくあった。Bリーグ誕生は、選手個々のレベルアップにも確実に貢献している。

 そしてやはり栃木を語るとき、欠かせないのが田臥勇太の存在だ。栃木ファンなら知っているだろう。ノールックパスなどの派手なプレーに注目が集まりがちだが、ゲーム中、誰よりも貪欲にルーズボールに飛び込んでいるのは、他の誰でもない田臥だ。「ナンバーワンPGは誰か?」という問いには、田臥を含む何人かの選手の名前が挙がる。しかし、「バスケを一番好きなのは誰か?」という問いならば、きっと正解は田臥勇太で決まりだ。

 その田臥の想いがチームメイトを鼓舞するのだろう。遠藤祐亮(PG/SG)や古川孝敏(SG/SF)といったチームのスター選手も、ゲーム中にルーズボールへの執着心が薄らぐことは一瞬たりともない。

 現在36歳の田臥は、能代工業時代から数えれば20年以上もの間、日本バスケットボール界の顔で居続けていることになる。Bリーグ初代王者としてその名が刻まれるのに、これほどふさわしいプレーヤー、チームはないだろう。

 繰り返すがどちらのチームも、Bリーグ初代王者となるべき資格も実力も物語も持っている。ここで小話をひとつ――。

 1994年、NBAファイナル。パトリック・ユーイング率いるニューヨーク・ニックスは、アキーム・オラジュワン擁するヒューストン・ロケッツと対戦して敗れる。プレーオフに入り絶好調でチームの危機を幾度も救ったジョン・スタークスだったが、ファイナルではまるで別人のように絶不調に陥り、敗戦の槍玉に挙げられた。

 だが、「なぜスタークスを使い続けたのか?」というメディアの問いに、当時ニックスを指揮した名将パット・ライリーは、こう即答している。

「ダンスはパーティーに連れてきてくれた者と踊るものだ」

 川崎ブレイブサンダースと栃木ブレックス。ファイナル用に秘策や奇策は用意できても、新たな選手が加わるわけではない。シーズン開幕前からトレーニングを積み、長きレギュラーシーズンを通して少しずつチームケミストリーを向上させ、CSの激戦を勝ち抜き、辿り着いたファイナルだ。今日までやってきたこと以上のことは発揮できない。もはや、積み重ねてきた日々を、ダンスパーティーに連れてきてくれた仲間を、スタッフを信じるのみ――。

 5月27日、国立代々木競技場・第一体育館。15時10分、ティップオフ。泣いても笑っても、その2時間後にはBリーグ初代王者が歓喜の雄叫びを上げている。

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