大久保は自在のポジションを変えて起点になった。(C)J.LEAGUE PHOTOS

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 気温22度、湿度71パーセント、24814人の熱気。ナイトゲームとはいえ、夏本番を思わせる厳しいコンディションで行われた神戸とFC東京の一戦は1-1のドローに終わった。
 
 神戸は前節の鹿島戦で結果を残した4-3-3あるいは4-1-4-1とも言える布陣で挑んだ。アンカーに初の古巣対決に挑む高橋秀人を配し、ニウトンと松下佳貴がやや前にポジションを取る。
 
 狙いは、FC東京のパスの供給源である高萩洋次郎と田邊草民にニウトンと松下をぶつけ、高い位置でボールを奪ってカウンターを仕掛けること。良い意味で曖昧なポジションを取る大久保嘉人を高橋秀、岩波拓也、伊野波雅彦の3枚で捕まえること。鹿島戦で手応えをつかんだシステムだったが、大久保はこの戦術を見事に超えて見せた。
 
 FC東京の先制点の場面を振り返る。それまで高橋秀の両サイドあたりのスペースでパスを受けていた大久保が、突然、ボランチあたりまで下がってボールをキープした。ここまで下がられると神戸側としては高橋秀が行くのか、前の選手が寄せるのか判断が難しい。
 
 対処に少し時間がかかった隙を大久保は見逃さなかった。同時に前線では前田遼一が岩波のマークを外した。大久保はすかさず前田へ鋭いグラウンダーのパスを送る。そして前田が伊野波の背後のスペースへワンタッチパスを送ると、右サイドハーフの永井謙佑が後方から快速を飛ばしてGKと1対1に。最後は永井が見事なループシュートをゴール左隅へ沈めた。東のおとりの動きも含め、うまく連動したゴールだったが、全ては大久保の機転の効いた動きから始まっている。
 
 もちろん、同じことが1試合の中で何度も通用するほどJ1は甘くはない。後半の似たような場面では、下がった大久保に伊野波がしっかりとついて行って潰している。そういう細かい修正を繰り返したからこそ、FC東京に追加点が生まれなかったと言えるかもしれない。
 
 とはいえ、前半はFC東京がほぼゲームを支配していた。たまらず神戸は後半からフォメーションを4-4-2に変え、形的にはミラーゲームに挑むことになる。別の言い方をすると、各ポジションの1対1の優劣がよりウエィトを占める戦いになったということだ。
 この状態で最初にカードを切ったのは神戸だった。ドリブルとラストパスのアイデアに特長のあるウエスクレイを投入し、FC東京の守備を撹乱させにきた。采配が的中し、ウエスクレイのドリブルからのラストパスで渡邉千真が2試合連続のゴールを決めた。
 
 試合後にウエスクレイはアシストのシーンをこう振り返っている。
 
「エリア内ではファウルが怖いからDFよりも自分のほうが有利だからね。あのドリブルはそこをうまく判断できたプレーだった」
 
 確かにVTRを振り返ると、ボールを奪いにきた森重真人も田邊もファウルをしないようにアプローチしている。さらに中央で待っていた渡邉もあえて前に動かずに丸山祐市のマークを外してマイナスパスを引き出している。この場面では個の駆け引きで神戸が優った。特にウエスクレイが相手DFとの心理戦に勝ったことが同点弾へとつながった。
 
 その後はFC東京が中島翔哉とピーター・ウタカで前線を活性化させつつ、徳永悠平を入れて守備を締めた。神戸はドリブラー小林成豪とストライカー田中順也を入れて逆転ゴールを狙った。
 
 だが、両チームにゴールは生まれず1-1のドロー。数字だけ見れば、なんでもないような一戦だが、そこには両指揮官が戦術という網を張り巡らせ、選手がその包囲網をどうくぐり抜けるかという見応えが詰まっていた。
 
取材・文:白井邦彦(フリーライター)