KDDIとドコモ、それぞれの5G。自由視点映像を5G受信、スカイツリーで8Kライブ配信:週刊モバイル通信 石野純也
2020年に商用化が始まる5G。サービス開始を約3年後に控え、実証実験がいよいよ本格化してきました。2020年までに、ユーザーが5Gの実力の一端を目にする機会も増えてくるかもしれません。

5月18日に、報道陣向けの体験デモンストレーションを行ったのが、KDDIです。KDDIは、新宿にあるKDDIビルに5Gの試験環境を設置。理想的な環境であるラボではなく、実際に人や車が行き来する街中で、どのように通信できるかを実験しています。この成果の一端を披露したのが、今回のデモになります。


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KDDIが5Gのデモを報道陣に公開

実験環境のスペックは、次のとおり。

無線部分は、5Gでの利用が確実視されている28GHz帯という高い周波数を使っています。700MHz帯〜3.5GHz帯を使う現状のLTEと比べると、これは非常に高い周波数帯です。電波は高ければ高いほど、直進性が強くなり、ビルなどに回り込みづらくなります。つまり、それだけカバーできる範囲が狭くなります。700MHz帯〜800MHz帯が「プラチナバンド」と呼ばれるのは、特性がこの逆で、少ない基地局で広い範囲をカバーできるからです。

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5Gの主な特徴とそれを解説するKDDIの松永氏

そのため、実験ではビームフォーミングと呼ばれる技術を使い、電波を基地局から端末に向け、集中して照射しています。また、アンテナの多素子化も行っており、基地局には「Massive MIMO」と呼ばれる技術も採用されています。

こうした環境の下、一般道を走るバスで、どこまで5Gが有効なのかを示すことが、KDDIのデモの目的になります。デモは3つに分かれており、どれも、5Gの特徴の1つである、高速通信や低遅延を活かした形になっています。

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デモに使われたバスとその走行ルート

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バスの上には5Gのアンテナが設置されており、KDDIビル敷地内の基地局と通信

1つ目のデモが、自由視点映像を5Gで受信するというもの。自由視点映像とは、KDDI総合研究所が開発した技術で、8Kの映像を合成して、元の映像にはない角度からもコンテンツを楽しめるものになります。デモで使われた映像は、サッカースタジアムで撮った4つの映像をベースにしており、元々は平面の映像にも関わらず、3Dグラフィックスを使ったゲームのように、グリグリと動かすことができました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA         OLYMPUS DIGITAL CAMERA         複数の映像を合成して、実際には撮影していない角度からも見られるようにする「自由視点映像」

KDDIビルの周辺をバスで走り出しても、映像は途切れることなくスムーズに再生できました。一般道のため、速度はそれほど速くありませんが、映像が途中で乱れることもありません。映像の配信は基地局に直結したサーバーから、合成はバス内で行っていましたが、移動しながらでも自由に角度を変え、サッカースタジアムの様子を確認できました。

ただし、元々の映像にない角度では、少々CGっぽさが目立ちました。これは、合成に使った8Kの映像が4本と少ないため。デモを行ったKDDI関係者によると、より映像の精度を上げるためには、元々のデータを増やしていく必要があるそうです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA         角度によっては、CGっぽくなってしまうことも

KDDIのモバイル技術本部 シニアディレクター 松永彰氏によると「8Kの映像4本分で、ビットレートは600Mbpsほど」だといいます。一方、試験環境では、最大で13Gbps程度、アベレージでも3.5Gbpsほど出ているため、帯域にはまだ余裕があります。つまり、より映像の精度を高められるということ。これだけのデータ容量になるとLTEでは配信できませんが、5Gであれば、十分実現の可能性があるというわけです。

2つ目がVRで、これは5Gの低遅延を活かしたデモになります。デモでは、KDDIが支援する月面探査レースチームのHAKUTOの映像を使い、車の動きに合わせて、あたかも月面を走っているかのような映像が流れるような体験ができました。遅延が大きいと、車の動きと端末側の映像がピッタリ合わないため、違和感を覚えてしまうところです。1ms以下の低遅延を要求仕様にする5Gであれば、こうしたコンテンツもスムーズに再生でき、没入感が高まります。

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車の動きと、VRの映像が連動する

実際、車の動きに合わせて月面をローバーが進む様子は、かなりの迫力がありました。リアルな交差点に合わせてローバーがクレーターに落ちそうになるような演出もあり、ヒヤっとしたほどです。モバイルネットワークでここまでピッタリ車の動きに合わせられるのは、低遅延の5Gだからこそです。

ちなみにVRのデモには、サムスンのGalaxy S7 edgeとGear VRを使っていました。その解像度に引きずられていることもあり、ドットが見えてしまってやや"作り物感"はありましたが、今後のデバイス次第では、もっと迫力が増す可能性はあります。

また、Galaxy S7 edgeは商用モデルのため、当然、5Gの電波を直接受けることができません。そのため、デモではバスが受けた5GをWiFiに変換して、端末をつなげていました。これも将来的には、直接端末で受信できるようになるはずです。

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迫力に引き込まれる筆者。デバイス側には改善の余地がありそう

3つ目として体験したのが、シンプルに高速通信している様子を見るというデモになります。ダウンロードしたのは、9本で500MBほどの動画ファイル。LTEでダウンロードしている途中に接続先を5Gに切り替え、どの程度の違いが出るのかということが示されました。文字で表現するのが難しいのですが、LTEではノロノロと進んでいたプログレスバーが、5Gだとほぼ一瞬で完了まで伸びました。その様子は、まさに一瞬と表現するのにふさわしいものです。

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LTEでのダウンロードはプログレスバーが徐々に進んでいった

実際、平均で3.5Gbpsほど出ているのであれば、理論上、毎秒、約400MB強のデータをダウンロードできるわけで、これは、用意されていた500MBなら、1秒強で終わる速度。まさにあっという間で、写真を撮るので精一杯でした。

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5Gに切り替わると、すぐに1つ目の動画のダウンロードが終わった

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9つすべてのダウンロードが終わった。5Gへの切り替えからは1秒程度とまさに一瞬

もちろん、商用環境ではユーザーがさらに増えるはずで、ここまでの速度が保証されたわけではありません。また、今回はサーバーが基地局につながっており、いわゆるエッジ側ですべてが完結しています。遠くに置かれたファイルであれば、もう少し時間がかかることになるかもしれません。それでも、移動しながらでこの速度は、なかなか味わうことができません。5Gのスタートを期待させるデモだったと言えるでしょう。

報道陣に向けた移動環境でのデモを披露したKDDIに対し、ドコモは一般向けに「5Gトライアルサイト」をオープンさせました。今回の取り組みは、東武鉄道と共同で実施しており、報道陣向けに、地上350mの展望デッキで8Kのライブ映像配信を実施しました。また、東武鉄道の新型特急「リバティ」内では、多端末接続のデモとして、タブレット8台に対し、4Kの動画を配信する様子を披露しています。

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ドコモは5Gトライアルサイトを東京スカイツリーにオープン。背後の映像は、5Gで配信した8Kのもの

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展望デッキでも、14Gbpsを記録

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リバティ内では、多端末同時接続のデモを実施

ドコモの取り組みが一歩進んでいると感じさせるのは、そのデモを一般向けに公開しているところにあります。東京スカイツリーの1階では、6つの4Kカメラを使った180度のライブ映像配信を5月28日まで行っており、それを一般公開しています。デモ環境にはノキアの設備を使い、利用している周波数帯は4.5GHz帯とのこと。本来であればスカイツリーに上らなければ見られない精細な映像を、1階で楽しめるのが売りです。

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東京スカイツリー1階でもデモを行っており、一般公開されている

ドコモの代表取締役社長、吉澤和弘氏は「メディアの方々だけでなく、一般の方に見ていただき、『これってどういうことなの』『こんなにキレイなの』ということを実感していただき、逆に『こんなこともできるのでは』というご意見、感想をいただくことに意味があると思っている」と語っていました。5Gといってもまだ先のことでイメージがつかみづらいかもしれませんが、現状でどういったことができるのかを体験してみる価値はあるかもしれません。

2020年に向け、5Gは、ラボや展示会でのテストから、徐々に実際の街を使った実証実験やデモへと、段階を進めている印象を受けました。もちろん、サービスインには標準化を待つ必要があり、その後、エリア設計や設備投資をどうするのかといった各種課題も残されています。一方で5Gは、キャリアだけでなく、他の産業界とのコラボレーションも視野に入れた規格なだけに、正式なサービス開始に先駆け、こうした事前のデモは、LTEのときよりさらに加速していくことになりそうです。