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 山本一郎(やまもといちろう)です。今週、『週刊新潮』(新潮社)も『週刊文春』(文藝春秋)もネタを出すようで、またなぜか『日刊ゲンダイ』(日刊現代)まで便乗している加計学園問題ですが、かねてから安倍昭恵(54)事案の本丸と言われていただけに「ようやく出たか」という気持ちで一杯です。

 とはいえ、あくまで安倍晋三首相(62)が強く求めたレベルの話では犯罪ではなく、まあお友達に配慮したように見えてしまうという、微妙ネタで終わりかねないのは残念なところです。というのも、そもそも『朝日新聞』が一面で報じた内容は、そのネタ元である文部科学省・前事務次官の前川喜平さんが、NHKや日本テレビなど各テレビ局や、『毎日新聞』などにも持ち込んでどこも乗らなかったけど、『朝日新聞』だけが書いたという曰くつきの物件だったからであります。それを、『朝日新聞』が報じ、『週刊文春』が後を追う形になって「前事務次官が本物と認めた」と言っても、それはお前が持ち込んだネタだからだろうというマッチポンプ臭はどうしても出てしまいます。

 それにかぶせるような形で、ただでさえ私生活に問題があるという指摘があった前川さんの「豪遊話」が読売新聞に報じられると、本来加計学園と安倍晋三首相の間で取り交わされていた問題がどんどん矮小化されていってしまいます。安倍さん本人が加計学園の監事であった話は公然の事実であって、かつてそこでギャラをもらっていた利害関係者なのだといわれれば、やはり「まあそうなのかな。問題だな」とはなると思うんですよ。

 そもそも、『朝日新聞』が一面で報じたのは、ある意味で『朝日新聞』の「意地」であったろうし、逆に『朝日新聞』の安倍憎しが生み出した怨念じゃないかとさえ感じるんですよ。どうにかして、首を取ってやりたいという、根性のようなものと言えばご理解いただけるでしょうか。ほかのメディアは、当然クビになった前川さんの証言一本で紙面にするわけにもいかずスルーするところを、敢然と「世紀のスクープだ」と号砲をかけて大スキャンダルのようにもっていこうとする『朝日新聞』の背中を見送って涙するわけであります。

 残念ながら、文科省関係者からは「これ以上の資料が出てくることはまずない」との話でして、これはもうネットでは様々語られているところですけれども特区制度の申請から誘致を十年以上にわたって続けてきた今治市に対して、なにがしかの改革の前進を見せなければならない官邸サイドから「どうにかしてやれ」という意向が出ての忖度です。それが分かっているからこそ、森友学園よりは良いネタなんだろうけどさすがに限界があるんじゃないかと思うわけですね、元は民進党(当時は旧民主党)が手がけた話でもありますし。

■実は複雑な問題のはずが…

 少し前の資料ですが、獣医学教育改善に向けての外部評価の在り方という冊子にもある通り、日本の獣医学は実に遅れている部分があり(イケてる分野もあるようですが)、国際的な標準の防疫の仕組みからするとかなり脆弱であるとはかねてから指摘されてきた部分はあります。これは日本では獣医や歯科医といった資格が医師と分離されやや低い位置に見られているというだけでなく、日本が島国であって外来の感染(例えば口蹄疫や渡り鳥による悪性鳥インフルなど)に対応する獣医は比較的海に守られてきて助かっている部分もあるとされます。

 その点では、この問題を民進党の立場で批判をしてきた玉木雄一郎せんせ(香川選挙区・48)はど真ん中であり、彼自身も認めている通り父親も弟さんも獣医でありまして、その点では加計学園と安倍首相とは違った意味で利害関係者のど真ん中であります。その人がこのスキャンダルを背負って告発するというのは、「お前も利害関係者だろう」というよりは「玉木さんが家族のしがらみを乗り越えてまでこの問題に賭けてきた」風にも見えます。

 だからこそ、長年今治市の地域おこしだけでなく四国、ひいては日本全体の獣医学をみたときに獣医学をやる大学が存在しない四国に置く意味はあるだろうし、そこに安倍首相が忖度を求めるのは特区制度を考えるうえではそこまで邪推しなくても良かろうという意見も成立します。一方、本当に加計学園でいいのか、いままでの教育実績的にも加計学園ではないほかの学校法人を検討するべきじゃなかったのかと言われると、それはもう安倍首相の忖度があったのかなかったのか、そこをはっきりさせてよねという話になるのです。だからこそ、政争に巻き込まれる形で「天下り人事」の詰め腹を切らされた前川さんの復讐(官邸サイドから見たら逆恨み)って文脈もあるんじゃないのかなと感じるわけであります。

 ただ残念なことに、火の付き方がスキャンダルになってしまったので、本来この加計学園のネタというのは日本の検疫体制やら、獣医を含めた評価の低い学問分野にどう子供たちに魅力のあるものと思ってもらうのかやら、今治市はまだマシなほうで日本全体には若い人どころか暮らしていくにも不便という地域をどうするのかやら、各種深刻な問題が詰まった案件なんですよ。それが、監事だったから金をもらえる立場で利害関係者だったはずだとか、忖度したとか、何十年来の友人だとか、そういうカジュアルなスキャンダルの文脈で「のみ」語られるのはちょっとなあと感じたわけでございます、はい。

著者プロフィール


ブロガー/個人投資家

やまもといちろう

慶應義塾大学卒業。会社経営の傍ら、作家、ブロガーとしても活躍。著書に『ネット右翼の矛盾 憂国が招く「亡国」』(宝島社新書)など多数

公式サイト/やまもといちろうBLOG(ブログ)

やまもと氏がホストを務めるオンラインサロン/デイリーニュースオンライン presents 世の中のミカタ総研