論議を呼んだ5月20日のWBA世界ミドル級王座決定戦、アッサン・エンダム(フランス)vs村田諒太(帝拳)戦の判定問題はアメリカでも少なからずニュースになった。アメリカ東部時間の朝9時頃から行なわれたファイト。リアルタイムで観るには少々厳しい時間だが、後に試合映像をチェックしたメディアは少なくない。


優勢に試合を進めながら、判定で敗れた村田(右) エンダムvs村田戦と同日、ニューヨークではテレンス・クロフォード(アメリカ)vsフェリックス・ディアス(ドミニカ共和国)のWBC、WBO世界スーパーライト級タイトル戦が行なわれ、多くのボクシング関係者が集まった。その現場となったマディソン・スクウェア・ガーデンで、筆者は独自の取材を行なった。結論から先に言うと、筆者が聞いた限り、エンダムが勝ったと見た在米メディアはひとりもいなかった。

「際どいラウンドはすべてエンダムに与えるくらいのつもりで採点したが、それでも118-109で村田の勝ちだった。最初の2ラウンド以外、エンダムはすべて取られたと思う。加えて、村田はノックダウンをあと2度記録しているべきだった。ロープがなければダウンしていたとされる場合、ルール上はノックダウンとなるはずで、そういうシーンが2度はあったからだ。いずれにしても、エンダムは不安定な戦いぶりで、後半はサバイバルモードに入ったように見えた。村田はエンダムを追いかけ続け、主導権をコントロールした。村田の方がパンチも重く、一方のエンダムは叩くような打ち方で、ガードの上を打つばかりだった」(ショーン・ナム:UNC.com)

「10ポイント差で村田が勝ったと思った。エンダムの勝ちはない。特に村田の地元である日本でこういった採点が出たことには驚かされた」(ラウル・サエンツ:NotiFight)

「エンダムにポイントを振れるとしても、最初の2〜3ラウンドと最後の2ラウンドだけ。そのすべてを与えても、7-5で村田の勝ちになる。加えて村田はダウンまで与えている。そう考えていくと、この試合でエンダムの勝ちはあり得ない」(ゲイブ・オッペンハイム:ニューヨーク拠点のフリーライター/今戦のために来日し、現場取材)

 ボクシングでは1ラウンドごとにポイント集計されて優劣を決めるため、試合全体の印象と採点にずれが生じることがある。例えば、A選手が5ラウンドを一方的に奪い、B選手が7ラウンドを僅差で制した場合、全体の印象はおそらく「A選手のほうが優勢だった」ように感じられるはずだ。村田がダウンを記録しながら敗れたエンダム戦にも、このからくりが当てはまると説明した人もいたようだ。

 ただ、コメントを読んでいただけば明白な通り、ここで挙げた記者たちはボクシングが1試合を通じてのダメージでなく、1ラウンドごとに優劣を決めるポイントの取り合いであることをもちろん理解している。その上で、村田が大半のラウンドを奪ったと指摘した。

 さらに参考までに、アメリカ国内で著名な3人の記者の意見も紹介しておきたい(注・筆者の取材ではなく、メディア上で述べられているもの)。

「酷い判定だ。どれだけ悪いかって? 試合翌日、WBA会長のヒルベルト・メンドサが村田本人、その陣営、日本のファンにその採点を謝罪し、即座のリマッチを指示したほど。それは極めて珍しいことだ。(試合は)村田が支配し、4ラウンド終盤にダウンを奪い、圧倒し続けていた」(ダン・レイフィール:ESPN.com)

「最初の3ラウンドはほぼイーブンだったが、村田が第4ラウンドにダウンを奪ってペースをつかんだ。以降はより有効なパンチを打ち込んで、ほぼすべてのラウンドを制していった。村田はもっと手数を出すべきだったのかもしれないが、エンダムはオフェンスを重視することなくリングをサークルしているだけだった。村田は第7ラウンドにも右を打ち込み、エンダムはロープに助けられたが、レフェリーのルイス・パボンはこのノックダウンを見逃してしまった」(スティーブ・キム:UCN.com)

「頭がはっきりしている人間であれば、採点の難しいファイトではない。私は村田が計9ラウンドを奪い、ダウンもあったために117-110というスコアになった。個人的に望んでいたほどアクティブではなかったし、ジャブ、フック、アッパーに加え、ボディなどより多彩なパンチを打つ必要があった。ただ、村田はエンダムのパンチを80%は軽々とブロックしていた。よりクリーンでハードで効果的なパンチをヒットし、エンダムの顔を弾き飛ばし、33歳のベテランのバランスを崩させ、ロープに押しつけるか、クリンチかホールドに追い込んでいた」(ダグラス・フィッシャー:リングマガジン)

 一般的に、「村田の有効打とエンダムの手数のどちらを取るか」が争点になっているこの一戦。しかしここまで記してきた通り、筆者が見聞きした中で、エンダムの軽打を支持した在米メディアは皆無だった。日本では一部から「WBAの判定基準は有効打よりも手数優先」と伝えられているが、実際にはアメリカのリングでそのような認識はない。

 どの団体のタイトル戦だろうと、ノンタイトル戦だろうと、「ダメージを伴った有効な打撃」が最優先。それが最大限に考慮された上で、手数、ディフェンス、リングジェネラルシップといった要素も加味される。エンダムvs村田戦に関しては、肝心の有効打の数で村田が明らかに上回ったというのが在米記者たちの見方だった。

 もちろん「有効打」の判断は主観に委ねられるもので、誰かの採点が間違いであるとあからさまに言えるものではない。ただ、今戦に限っては、あらためて振り返っても、やはり村田が優勢と見たファン、関係者が大多数。筆者の見方もキム記者、フィッシャー記者のそれと、さほど変わらなかった。在米記者の採点を聞いても、そう見ることが日本人のひいきの引き倒しではないと気づくはずだ。

 実際にジャッジのひとりは適切と思えるスコアで村田勝利としているわけで、「WBAの判定基準うんぬん」は議論のすり替えに思える。WBAに対しては、タイトルを乱発(スーパー王者、正規王者、暫定王者)していることに批判が集まっているが、それよりも問題なのは、奇妙な判定を下した個々のジャッジの力量にあり、その点では統括団体(WBA)の管理が問われても仕方ない。

 ボクシング界では残念ながら「疑惑の判定」は後を絶たないが、いわゆる「ハウス・ファイター(興行主に近いとされる選手)」が不利を被ったという意味で、エンダムvs村田は珍しい判定結果が出たタイトル戦だった。背景的に、ティモシー・ブラッドリー(アメリカ)が人気絶頂だったマニー・パッキャオ(フィリピン) を微妙な判定で破った2012年6月のWBO世界ウェルター級タイトル戦と、最近では、今年3月18日に怪物ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)がシーサケット・ソー・ルンヴィサイ(タイ)にまさかの敗北を喫したWBC世界スーパーフライ級タイトル戦が思い出させられた。

 パッキャオvsブラッドリーは結局3度(パッキャオの2勝1敗)も戦うことになり、ゴンサレスとシーサケットも近日の再戦は確実。それと同じように、村田側が望みさえすれば、リマッチ実現の可能性は高いだろう。そして、再戦挙行となった場合には、ファンや関係者が試合を担当するジャッジの経歴にまで注目するという異例の展開になりそうだ。

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