(C)青野春秋・小学館/「100万円の女たち」製作委員会

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 書籍『PRODUCERS' THINKING』が発売されたことを受け、もとになったスペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによる連載「映画業界のキーマン直撃!!」が今回からリニューアル。新連載・高根順次の「PRODUCERS' THINKING」として、メディア環境が激変期を迎えている今、映画やドラマの仕掛け人たちが何を考えているのか、より深く掘り下げてインタビューを行う。

書籍の詳細はこちらの記事で→藤井健太郎 × BiSHアイナ・ジ・エンド × 高根順次が語る、「好きなことで生きていくホントの方法」

 新連載の第一回は、テレビ東京がNetflixとタッグを組んで製作し、RADWIMPSの野田洋次郎が主演を務めたドラマ『100万円の女たち』のプロデュースを手がけた五箇公貴プロデューサーを直撃。テレビ東京の超人気バラエティ番組を映画化した『キス我慢選手権 THE MOVIE』や、現在公開中の石井裕也監督『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』なども手がけている五箇プロデューサーは、テレビ東京のオリジナリティ溢れる深夜ドラマを生み出す上でのキーパーソンだ。Netflixとタッグを組んだ狙いや、テレビ東京の課題、今後のビジョンについてまで、じっくりと話を聞いた。(編集部)

■『100万円の女たち』について

ーー『100万円の女たち』は、青野春秋による漫画を原作としています。制作のきっかけを教えてください。

五箇:Netflixとテレビ東京がタッグを組んで、深夜に新しいドラマ枠「木ドラ25」を作ろうというところから企画がスタートしました。両社でお互いに原作を持ち寄ったところ、Netflix側が『100万円の女たち』を提案されました。4巻しかないけれど、骨と筋肉だけのような強度のある作品で、メッセージ性も非常に強かったので、これなら12話の連続ドラマ化に耐えるだろうと、今回の制作に踏み切りました。もともと僕はNetflixのオリジナルドラマが大好きで、『ストレンジャー・シングス』も『ハウス・オブ・カード 野望の階段』も見ているんですけれど、映像のスペックも高いし、次から次へと見たくなる中毒性も高い。テレビ東京の深夜ドラマ枠はすでに3つあったので、せっかくだから今回の枠は海外ドラマのエッセンスを取り入れようと、いわゆるクリフハンガー(クライマックス直前で次週へ引っ張る手法)もすごく重視した作りになっています。

ーー主人公役にRADWIMPSの野田洋次郎を起用したのはなぜですか?

五箇:『俺はまだ本気出してないだけ』もそうですが、青野先生の作品は、何かを表現して生きようとする人間を描いています。今作の主人公・道間慎も小説家のため、ミュージシャンやクリエイターなど、制作や表現に携わる方に演じてもらいたいという構想は最初からありました。そこで、野田洋次郎さんが『トイレのピエタ』で美術大学の学生を演じていたことに思い至り、その佇まいが道間慎のイメージにぴったりだったため、オファーしました。制作チームみんなで野田さんのところに行って、「この作品の主人公は野田さん以外に考えられないので、ぜひお願いします!」って、もう告白みたいな感じでした(笑)。実際に現場に入ったら、野田さんは制作スタッフに非常に協力的で、クリエイティブの面でのご自身の考え方なども共有していただき、まさに一緒に作っている感覚で制作を進めることができました。職業俳優ではないからこそのフレッシュさが、この作品にはすごく活かされていると思います。それに、野田さんってスターになる人に共通する姿勢があるんです。学ぶことにものすごく貪欲で、良い意味でガツガツしている。それが現場にとっても刺激になりました。どんなに高いハードルがあっても、凄まじい努力で乗り越えてくる方です。

ーー監督は『オー!ファーザー』の藤井道人さんたち、脚本は劇団・山田ジャパンの主宰である山田能龍さんたちです。この組み合わせはどう決まったのですか?

五箇:Netflixのオリジナル作品には事細かなレギュレーションがあって、機材ひとつとっても明確な基準があり、それが数々のオリジナル作品に共通したトーンと高いクオリティを生み出しています。しかし、当然ながらそのレギュレーションはテレビ東京とは異なる。今回の制作チームは、Netflix側からの提案で、藤井道人さんらはこれまで『野武士のグルメ』などの一話完結ドラマをNetflixで制作しています。藤井さんの映画作品も全部拝見した上で、新しい世代の才能だと感じました、彼らとなら今までにない冒険ができそうだと思いましたし、Netflixのレギュレーションも理解しているので、スムーズに制作もできると踏みました。一方で、12話の連続ドラマを手がけるのは初めてとのことだったので、そこは僕からこれまでの経験やセオリーを共有しました。彼らはまだ若手ということもあり、編集作業も非常にスピーディーで、テレビドラマでは概ね1〜2回のやり取りでラッシュ(制作チーム内での試写)まで持っていくところを、3〜4回やり取りすることでブラッシュアップできました。結果的に、良い化学反応が生まれて、フレッシュな作品に仕上がったと思います。お互いに、今までに作ったものをないものを生み出そうとしていたのが、良かったのかもしれません。

ーー実際に観ていて、『100万円の女たち』はスピード感もあるし、次の話への引っ張り方も絶妙で、ハイクオリティーな作品だと感じています。制作がスタートしたのはいつぐらいからですか?

五箇:本気で始めたのは12月ぐらいからなので、かなりのスピード勝負でした。なんとか息切れせずに最終話まで行けそうです(笑)。

■テレビドラマの現在

ーーそもそも、テレビ東京とNetflixが組むことになったきっかけは?

五箇:弊社の深夜ドラマは、DVDの売り上げも重要な収益源だったのですが、近年開始したストリーミングサービスは、新たな収益源として見逃せないものでした。一方で、配信各社にとってもテレビ局発信のコンテンツは魅力があり、独占配信権が欲しいわけです。タッグを組むことでウィンウィンの収益構造が作れるため、今後も配信各社との共作は増えていくと思います。Netflixは特に、先述したようにオリジナル作品のクオリティー管理がものすごく細かい決まりにより徹底しているので、その辺りもテレビ東京にとって大きな経験になるとは思いました。

ーーNetflixの品質管理の厳しさは、よく耳にしています。一方で、作風にはネット配信ならではの自由さがありますよね。その辺りも、テレビ東京とも相性が良いのでは?

五箇:たしかにNetflixにはテレビ東京ではできなかった自由な作品を生み出せる可能性を感じました。今後、表現の幅を広げる意味でも、協力していろいろとやっていきたいです。今回の『100万円の女たち』も、もしかしたらテレビ東京単体では実現が難しかったかもしれません。というのも、テレビ東京の深夜ドラマって、基本的に一話完結なんですよ。『孤独なグルメ』然り、『勇者ヨシヒコ』シリーズ然り。コンセプトの強さで勝負みたいな(笑)。たしかに一話完結にすることで視聴率は上がったし、それがブランド化にもつながりました。しかし、海外ドラマみたいに連続で引っ張っていく作品も作りたかったのはたしかで、今回は久々に挑戦できるチャンスでした。配信サービスが充実してきたことは、テレビの作り手にとっても刺激的なことです。

ーー最近のテレビドラマの潮流はどう見ていますか? 前期では『カルテット』などが、視聴率はそれほどでもなかったものの、高い評価を得ていましたが。

五箇:『カルテット』は面白かったですね。視聴率とは別の部分の価値は絶対にあるはずで、『カルテット』はそもそも15%を目指して作ってはいなかったんじゃないかなと思います。目の肥えたドラマファンにしっかり響く作品を作ろうとして、その結果として相応の層が評価している。TBSの土井裕泰監督とか、那須田淳プロデューサーとか、長年、テレビドラマを作ってきた人間の自負がありながら、新しいことに挑戦しようという貪欲さが感じられて、すごく刺激を受けますね。

■プロデューサーとしての考え方

ーーそもそも五箇さんは、なぜテレ東のプロデューサーになったのですか?

五箇:もともとドラマとか舞台とか大好きで、大学も演劇学科でしたので、自然とテレビ局を目指すようになりました。でも、最初はドラマ部ではなく事業部というところに配属されて、舞台やイベントをやっていましたね。ようやく番組に関わるようになっても、ゴールデンのバラエティのADで、自分の好きなことにはなかなかたどり着かなかったです。2003年に弊社の伊藤隆行と佐久間宣行が『大人のコンソメ』という深夜のお笑い番組をやり始めて、そこで伊藤に拾われてから、だんだんと風向きが変わりました。テレビ東京もそこから、『ゴッドタン』や『やりすぎコージー』などのヒット番組を出すようになっていって。僕自身もその後、大根仁監督に企画書を持って行って、2004年に『30minutes』というドラマを手がけてから、深夜ドラマの世界に入ることができました。もし伊藤に拾われなかったら、会社を辞めていたかもしれません。

ーーゴールデンの番組は肌にあわなかった?

五箇:できないんですよ、本当に。だから深夜番組をコツコツやっているんです。会社から見たら「あいつは良い歳して、好きなことばかりやって」って思われているはず。でも、こないだ松田龍平君とも話したんですけれど、好きなことをやり続けるにもちゃんと方法論を確立しなければいけないんですよね。コンテンツ収入で、視聴率じゃないところで価値を生み出したからこそ、僕らも深夜番組でいろんなチャレンジをすることができた。メインストリームとは別のところで、自分たちで予算の管理もしながら好きなことをひとつのプロジェクトとしてやれるようになったんです。そこに今度は配信ビジネスがきているので、まだ深夜ドラマには可能性が残されている。もちろん、テレビ局の収益構造はゴールデンあっての僕らではあるので、そこにはいつも感謝しております(笑)。

ーー地上波であっても、DVDであれ配信であれ、放送以外でも収益を出していくのが大切になってきていると。僕が所属するスペースシャワーTVも同じですね。個人的なキャリアを考えても、ただ毎週番組を作って、こなしていくだけでは生き残れないのではないかと不安になります。それで他社と協力して映画を作ったりしているのですが。

五箇:僕らはもう40過ぎなので、ただ番組を作るだけじゃなく、新しい収益方法を考えて実践していかなくてはいけないですよね。だから今度は、海外に発信できるコンテンツを作っていこうと考えていて。テレビ東京で作れて、海外でも需要がありそうな作品というと、これはもうJホラーしかないかなと。コワさは言語を超えるといいますか。海外のドラマファンにも受けるように『Xファイル』に近いイメージで、オムニバス形式でありながら、横軸で一本、連続するストーリーもあるような。でも、怖さとストーリー性って、うまく繋げるのが大変なんですよね。連続ドラマの横軸って、結局のところ登場人物の心理の変化に寄り添うようなものだから、新奇性が必要なホラーと相性が悪いんですよ。どうしても“慣れ”の問題が出てくる。その調整に試行錯誤しています。あと、あっと驚く方がゲスト監督で参加してますので、そちらもお楽しみに。この人がドラマ撮るの!?って誰もが思うはずです。

ーーものすごく面白そうですが、企画を通すのが大変だったのでは?

五箇:テレ東もおかげさまで、本当に良い俳優やスタッフが集まるようになったので、逆にハードルが上がっているところがあって、簡単に企画が通るわけではないです。でも、番組に付加価値を付けるということに関して、テレ東は意識的ですし、配信ビジネスが主流になっていく中で海外向けのコンテンツを制作するというのは、先を見据えた上で理に適っているので、通すことができました。

ーー五箇さんの発想は、まさにプロデューサーならではのものですよね。

五箇:学生時代は演出サイドに憧れたこともあったけれど、結局自分はプロデューサーが一番向いているじゃないかと思います。当時、蜷川幸雄さんの制作会社でバイトをしたことがあって、そのときのプロデューサーが蜷川さんをアングラからメジャーに引き抜いた人で。そこでプロデューサーという職業を知ったんですけれど、自分で演出をするよりも、好きな人やものを集めて作品にして、プロデューサーとして世に送り出していったほうがずっと効率が良いし、いろいろな作品に携われるなと思えたんです。今は自分の企画が通って、それが始動するときの快感は代え難いものがあります(笑)。第一話が仕上がったくらいのタイミングが快感のマックスですね。考え方によっては、プロデューサーは監督よりも好きなようにモノ作りができる。ビジネスモデルも含めて、一番最初にビジョンを描くわけですから。一方で、プロデューサーはトラブル処理も大きな仕事ですが、その点に関しても向いていると思います。変な言い方ですが、あまりにも怒られ慣れちゃうと、ふと気を失っているみたいな時があるんです(笑)。そういう鈍感なところも、ある意味ではプロデューサー気質といえるのかもしれません。(取材=高根順次/構成=松田広宣)