わずかなサイズのコードでCGアニメーションをリアルタイムに表示するプログラムは「デモ」と呼ばれ、1MB以内にファイルサイズを抑えたデモとして「メガデモ」、そしてファイルサイズにさらなる厳しい制限を課したデモ「64k intro」「4k intro」などが存在しています。intro作者のPekka Väänänen氏が一体どのようにしてこのintroが作られているのかを紐解いています。

How a 64k intro is made

http://www.lofibucket.com/articles/64k_intro.html

Väänänen氏が最初に例に出したのはYouTubeで公開されている「Guberniya」というムービー。

Guberniya by Macau Exports (Final) - YouTube

地球のように水の多い星に宇宙船がやってきた、という雰囲気の映像です。







映像の最後にスタッフ名が出ますが、左から3つ目の「cce」がVäänänen氏のこと。



YouTubeだとファイルサイズのことを気にする機会がないので気付きづらいですが、BGM入りのこの映像は「guberniya.exe」という実行ファイルに収められていて、そのファイルサイズは64KBを切っています。

Guberniya by Macau Exports :: pouët.net

http://www.pouet.net/prod.php?which=69652



Väänänen氏は、6人からなるチームでGuberniyaを2017年1月に作りはじめ、4月に完成させました。Väänänen氏は「Half-Life 2」のアートディレクターとして知られるビクター・アントノフが好きで、「最初のスケッチはHalf-Life 2を拝借したようなものです」とコメントしています。なお、クリックするとVäänänen氏が公開している1536×2048ピクセルのオリジナルスケッチ画像が開きます。



風景の面では、雰囲気はAntony Scime氏による作品「Eldion Passageway」を参考にしたとのこと。

Eldion Passageway by AnthonyScime on DeviantArt

また、アイスランドの映像やドキュメンタリー映画「コヤニスカッツィ/平衡を失った世界」から着想を得ていったそうです。

Flying over Iceland (Part. II) on Vimeo

Koyaanisqatsi (1982) - Trailer in HD (Fan Remaster) - YouTube

そして、映像をどういう流れで見せるのかというストーリーボードを作り上げます。こちらも、クリックするとVäänänen氏が公開している1280×1794ピクセルのストーリーボード全体が見られます。複数のシーンが書かれたストーリーボードですが、Väänänen氏は「もし作業をやり直すなら、想像力の余地を残すために映像の雰囲気を掴める2枚の画像だけにする」と語っています。



ストーリーボードができたら、登場する宇宙船のデザインなどが進められます。デザインはVäänänen氏ではなくnoby氏が担当しました。

アニメーションとディレクションではGNU Rocketを使用していて、作業途中はこんな感じだったとのこと。



実行ファイルを小さくするための鍵は「kkrunchy」です。デモを作成しているグループ「gorakubu」も「デモを作る側から見ると、コードよりデータの方がより圧縮効率へ関われる機会が多い事がアドバンテージに」なると書いており、最も有名な64k intro向けのパッカー(実行ファイル圧縮ツール)としてkkrunchyを挙げています。

やさしいデータ配列 〜64k introのためのデータ配置〜 « demoscene.jp

http://www.demoscene.jp/?p=1391

映像の中に出てくるワイヤーと鳥の群れは、それぞれ物理シミュレーションで描かれています。この部分を担当したのはvarko氏。ワイヤーは一連のばねと見なされて、ComputeShaderを利用してGPUでシミュレートされています。ただ、このシミュレーションは何らかの理由によってAMDのカードでは動作しないとのこと。一方、鳥の群れは512羽の鳥で構成されており、そのうち128羽が「リーダー」としてカールノイズ方式で動いており、残りはリーダーをフォローするように動いています。

音楽は、64k introではV2 Synthesizer SystemなどのVSTプラグインを利用するのが一般的。このV2 Synthesizer Systemは64k introの有名な制作者だったfarbrauschが使っているシステム。ブログ「Scene Research Station」のmtm氏は「基本スペック自体は普通のシンセかな、という気がする。ただ、この普通といえるレベルのシンセを当時の環境でリアルタイムにデモの裏で動かすという速度面の最適化をすると同時に、64kbの片隅に押し込めるサイズ面での最適化を行っていたというのが凄いのだ」と評しています。

farbrausch V2 synthesizerをちょっと読んでみた | Scene Research Station

http://cygx.mydns.jp/blog/?arti=422

「Guberniya」は2017年のイースターに合わせて開催されたデモのイベント「REVISION 2017」に出展されたもの。Guberniyaを含めた10作品を1本にまとめた映像がYouTubeで公開されていて、64k introの凄まじさを体感することができます。

Revision 2017 - Compo - PC 64k Intro - YouTube