教養を自分の仕事と未来に生かす 億万長者の「読書力」

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成功者ほど読書好きは多い─。ではどんな本を読み、そしてどんな読み方をしているのだろうか? ビル・ゲイツマーク・ザッカーバーグ、新旧両雄の読書ライフとお気に入りの書籍をのぞいてみた。

立身出世した人たちの多くは、並々ならぬ努力を重ねてきた。だが、その仕事量と同じくらいに力を入れているのが「読書」だ。

成功者は”カネコネ学位”よりも本を読む習慣を大切にする。とはいえ、彼らは相当の仕事量をこなすハードワーカー。時間はないはず。ではどんな本を読み、そしてどんな読み方をしているのであろうか。

本の虫として知られるのはマイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツ(61)だ。幼少のころ、家にあった百科事典をたちまち読破したという。四六時中、貪るように本を読み続け、食事中もとまらなかったことから、親は困惑し、仕方がなく「ダイニングテーブルでは読書禁止」のルールを課したほど。

そんなゲイツは、成功してからも独特の読み方をしている。長期休暇を前にすると分厚い5〜6冊の本を買い込み、それを一気読みするのである。ふだんは時間がないだけに、まとまった時間をとってまずは1冊を通読し、読み終えるとしばし熟考する。そのやり方のほうが、”乱読”よりも知識が深まり、身になると考えているようだ。

ゲイツは自身のブログ「gatesnotes The blog of Bill Gates(ゲイツ・ノート)」で、読んだ本を定期的に掲載している。2016年の「お気に入り書籍リスト」を見ると、その内容は多岐にわたる。ゲノムからスポーツ、偉人伝まで圧倒的な視野の広さを感じさせる。

彼がそこで、真っ先に挙げた本は、デヴィッド・フォスター・ウォレスが書いた『String The ory: David Foster Wallace on Tennis』(未邦訳)。トマス・ピンチョン以降のポストモダン文学の旗手と呼ばれるウォレスが、テニスをテーマに書いたエッセイ集である。

ゲイツはマイクロソフト時代にテニスをやめたが、しばらくして再びプレーを始め、ついこの間も歴代最強プレーヤーと称されるロジャー・フェデラーと”親善試合”をするほど夢中なのだ。

「もしかすると、テニスの本でベストかもしれない」とゲイツは言う。

一方で彼は、医師でピューリッツァー賞受賞作家のシッダールタ・ムカジーが書いた『The Gene: An Intimate History』(邦訳は近日刊行予定)を推奨する。これは国際的な議論が起きている”ゲノム編集”が抱える問題に焦点を当てたノンフィクション。ムカジーと直接会って話を聞いているゲイツは、「最新のゲノム科学が引き起こす倫理的課題を浮き彫りにしている」と指摘する。

彼は2000年に妻のメリンダと立ち上げたビル&メリンダ・ゲイツ財団を通して、ポリオやマラリアなど途上国で蔓延する疾病に対して科学技術の進歩を活用した支援に取り組んでいる。読書や対談で得た専門知識を、そうしたライフワークに生かすフィードバックループができあがっているのだ。そしてそんなベテランの姿を、他の若い起業家たちは見ている。

─今年の目標は、読書を増やすこと! そんな純朴な気持ちを平気でウォール・ストリート・ジャーナルの記者に話してしまうのはフェイスブックの共同創業者、マーク・ザッカーバーグ(33)。通称”ザック”。

実はそう言ったのは、愛娘の誕生で忙しかった2015年1月のこと。それでも ”2週間に1冊は異なる内容の本を読む”という実現可能なラインに目標を設定するあたり、さすがはSNSの旗手。「いいね」をたくさん集めた。

フェイスブックのブック・クラブ「ア・イヤー・オブ・ブックス」にあるザッカーバーグのコーナーをのぞいてみると、「23冊の必読書」がずらり。内容も異文化から信念、歴史、技術と幅広いのだ。

彼がそこで推奨して話題になったのは、イスラエルのヘブライ大学の歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリが2015年に書いた『サピエンス全史 ─文明の構造と人類の幸福』(邦訳:河出書房新社刊)。これはゲイツもブログで薦めている。

「サバンナの負け犬だったわれわれホモサピエンスが、今の繁栄を築いたのは”妄想力”のおかげ」と、斬新な仮説でその進化を説くハラリ。私たち現生人類につながるホモサピエンスは20万年前、東アフリカに出現した。そのころにはすでに他の人類種もいたのだが、なぜか私たちの祖先だけが生き延びて文明を築いた。この謎を3つの革命、すなわち認知革命、農業革命、科学革命を軸に解き明かしている。

「同書は1300年代のイスラム知識人の観点から歴史を見た『歴史序説』の系列を継ぐものだ。『歴史序説』と同じ”疑問”の多くを現代の視点から探求している」とザッカーバーグは言う。

前出のブック・クラブでも推奨している『歴史序説』(邦訳:岩波書店刊)は、イスラムの歴史学者イブン=ハルドゥーンが1377年に書いた大書『歴史』のうち、歴史に関する理論的な思想体系を述べた序論部分。ハルドゥーンはそこで、既存の歴史的文献のなかにある”偏見” を取り払い、人類の進歩における普遍的な要素を見つけ出そうと試みた。

ザッカーバーグの視点はこうだ。

歴史は、外面的には報告以上のものではないが、内面的には思索であり、心理の追求であるからして、それは”哲学”に根ざしているのではないか。さらに歴史家は、現在の状態と過去の状態との類似点を比較し、その原因を知らねばならない、と問題提起しているのである。

「700年あまりを経た現在では、当時信じられていたことの多くは”誤り”だと証明されている。が、それでも総合的に考えれば、当時の理解や全体的な世界観を知るのは、とても面白い」と、ザッカーバーグは語る。

それは暗に、現在あるビジネスへの批判や迷いに振り回されずに、未来を考えて投資や開発をするべきだと、読者や批判者、投資家、そして自身に言い聞かせているよう思える。

ビル・ゲイツ

『遺伝子一個人的な生い立ちについて』シッダールタ・ムカジー著(未邦訳)
医師でピューリッツァー賞受賞作家のシッダールタ・ムカジーの著書。最新のゲノム科学が抱える問題を明らかにしたノンフィクション。ゲノムの倫理的課題を浮き彫りにする。

『Shoe Dog』フィル・ナイト著(未邦訳)
ナイキの創業者、フィル・ナイトの回顧録。2016年6月の会長退任を控え、ナイキの成功への道のりを描き、さまざまな過ちが引き起こした混乱を描く。

『String Theory』デヴィッド・フォスター・ウォレス著(未邦訳)
ウィリアム・T・ヴォルマンと並んでトマス・ピンチョン以降のポストモダン文学の旗手と呼ばれるウォレスが、テニスをテーマに書いたエッセイ集。

『The Myth of the Strong Leader』アーチー・ブラウン著(未邦訳)
イギリスの政治学者が過去の偉大なリーダーたちをフォーカスした人物評。人間的な脆さなどパブリック・イメージとのギャップに焦点を当てる。

『The Grid』グレッチェン・バケー著(未邦訳)
文化人類学者のバケーが、アメリカのエネルギー問題に言及。スマートグリッドがいかに未来の電力供給を劇的に高めてくれるかを説明する。

マーク・ザッカーバーグ

『サピエンス全史 ─文明の構造と人類の幸福』ユヴァル・ノア・ハラリ著(邦訳:河出書房新社刊)
イスラエルのヘブライ大学の歴史学者、ハラリのベストセラー。狩猟採集生活を経て、自ら力を得た”神”のような存在へと至るホモサピエンスの進化をたどる。

『ゲーム・プレイヤー』イアン・M・バンクス著(邦訳:角川書店刊)
バンクスのSF作品。人間の欲求をかなえるための技術が極度に進化し、人間の能力を超えてしまった文明の姿を描く。イーロン・マスクもお気に入り。

『国家はなぜ衰退するのか』ダロン・アセモグル、ジェイムズ・A・ロビンソン著(邦訳:早川書房刊)
MITの学者らの研究。収奪的な政府が一部の限られた人の権力を強化するのに対し、包括的な政府は市民の自由な消費や投資を可能にするという。

『繁栄─明日を切り開くための人類10万年史』マット・リドレー著(邦訳:早川書房刊)
サイエンス・ライター、マット・リドレーの名著。経済市場こそが人類発展の源だとし、市場をできるだけ自由に保てば、その発展はさらに加速すると訴える。

『国際秩序』ヘンリー・キッシンジャー著(邦訳:日本経済新聞出版社刊)
キッシンジャー米元国務長官が考える世界平和への道筋。世界で帝国と政治力という概念がどのように理解されているかを明らかにする。

ビル・ゲイツ◎マイクロソフトの共同創業者。1955年、アメリカ・ワシントン州生まれ。高校生時代からコンピュータに興味を示し、PCメーカーのDECでのアルバイトを経て、ポール・アレンとともにソフトウェア会社を創業。その後、ハーバード大学に入学するも休学し、マイクロソフトを設立。同社を世界的企業へと成長させた。

マーク・ザッカーバーグ◎フェイスブックの共同創業者。1984年、アメリカ・ニューヨーク州生まれ。高校時代に音楽再生ソフトを製作。ハーバード大学に進学後、同大学生を対象とした格付けサイトを構築。だが大学側にサービスを停止させられ4時間で閉鎖。その後フェイスブックを立ち上げ、ユーザー数10億人を超えるSNSに育て上げた。