これはもはや演技じゃない…よね…!『光をくれた人』より
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 映画『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』でライアン・ゴズリングとエヴァ・メンデスを引き合わせ(のちに2人は結婚!)、『光をくれた人』でマイケル・ファスベンダーとアリシア・ヴィキャンデルを結び付けたデレク・シアンフランス監督。共演者が実際に恋に落ちてしまう背景には、シアンフランス監督の映画づくりに対するあるスタンスが深くかかわっていることが、インタビューを通して浮き上がってきた。

 『光をくれた人』がワールドプレミアを迎えた昨年のベネチア映画祭でインタビューに応じたシアンフランス監督。同作は、灯台守の夫婦が、ボートで漂流してきた赤ん坊をわが子として育ててしまったことで、もつれていく運命を描き出したヒューマンドラマだ。「映画づくりでは自分自身をさらけ出す。秘密もないし、恥ずかしいことだらけだ。僕は役者にも同じことを求める。(『ブルーバレンタイン』の)ライアン(・ゴズリング)もミシェル(・ウィリアムズ)も、エヴァも、今回のマイケルもアリシアにも全てをさらけ出してもらった」。

 そう語るシアンフランス監督は、キャストに共同生活をさせることで有名だ。本作もその例外ではなかった。劇中での“孤島”シーンは、実際にはニュージーランドのクック海峡にあるキャンベル岬でキャスト&スタッフが泊まり込みで撮影を敢行した。しかしながら、あまりにも人里離れた地であったために、当初はスタジオも俳優陣も乗り気ではなかったという。スタジオ側をなんとか説き伏せたものの、「役者を説得するのは任せるよ。絶対に説得できないと思うけど」と言い渡されたんだとか。

 そしてまず、ファスベンダーに電話したという監督。「マイケルは『本当にその必要があるのか?』って聞いてきた。『マラソン・マン』で数日間寝ていないシーンの撮影のために実際に寝なかったというダスティン・ホフマンに、共演者のローレンス・オリヴィエは『なんてこった! 単純に演技してみたらどうだ?』と言い放ったそうだ。その逸話をマイケルに教えられたよ」と暗に共同生活を断られたことを明かす。それでも諦められない監督は、「マイケル、君は素晴らしい俳優だ。アリシアも素晴らしい女優だ。だから僕からは、演技について何も言うことはない。でも、僕が君にあげられるのは“経験”だ」と説得。すると、多忙なマイケルも「わかった。何日間かつくってみるから、試してみよう」と受け入れ、ついに共同生活が実現することになった。

 そこまで共同生活にこだわったのは一体なぜなのか。「僕は自分自身をドキュメンタリー監督だと思っている。僕はいつも、演技ではなくなって、それが現実になる瞬間を求めている」と熱弁する監督。数々のカップルを誕生させてきただけに説得力のある言葉だ。「僕の映画は、どんなことであれ、実際に起こったことを目撃している。撮影現場で起きた実際のことを。それに、映画監督はシェフではない。シェフは365日、ある料理に対して決められたレシピに従う。シェフには一貫性が必要だ。対して、映画監督に一貫性は必要ない。たった一つの瞬間を見つけるだけだ。一回限りの料理をつくればいいんだ。監督は、(役者が)二度と同じことができない瞬間をとらえることが大事なんだ」。劇中でのファスベンダーとアリシアの親密なやりとりをみれば、映画づくりに対するその姿勢が功を奏しているのは自明だ。

 「(共同生活は)最初は2晩だけの予定だったんだけど、最終的には5週間半になっていた」そうで、その事実からいかに充実していたかがうかがえる。もちろんそれは、役者同士の相性をはかるだけでなく、役づくりにも直接影響していたようだ。「携帯がなかったり、朝方3時に風で目が覚めたり、そういったことは、僕たちをクレイジーにさせたよ。おかげで、人間の心理というものをよく理解できた。そういう環境に住むと、むき出しの感情が湧き起こるということをね。なぜ、主人公の夫婦が他人の赤ん坊を育てようと決断をくだしたのか理解できるんだ」としみじみ振り返るシアンフランス監督だった。ちなみに、ファスベンダーとアリシアはキャンベル岬を「特別な思い出がある場所」と語り、いつか再び戻りたい場所としていた。シアンフランス監督作から、今度はどんなカップルが誕生するのかにも期待してしまう。(編集部・石神恵美子)

映画『光をくれた人』は5月26日より全国公開