【福田正博 フォーメーション進化論】

 佳境を迎えるロシアW杯アジア最終予選で、グループB首位の日本代表は6月13日にイラクと対戦する。この試合は本来アウェーゲームになるが、イラクが政情不安定で自国開催ができないため、隣国イランのテヘランにあるPASスタジアムで行なわれることになった。


今季、Jリーグで存在感を増す鹿島の昌子源 そのイラク戦に先立ち、6月8日にはグループ2位のサウジアラビアと同3位のオーストラリアの直接対決がある。W杯出場権を争うライバル2カ国が星の潰し合いをする間に、日本代表は確実に勝ち点3を上積みしなければならない。

 大事な一戦を前に、日本代表は6月7日に東京スタジアム(味の素スタジアム)でシリアとのテストマッチに臨むが、この試合でハリルホジッチ監督が新しい選手を起用する可能性は低いだろう。現時点で代表監督としてのプライオリティで最上位にあるのは「W杯出場権の獲得」にあるため、アジア最終予選が終わるまでは既存の戦力のコンディション確認が優先されるのは仕方がない。

 ただ、そうした状況を考慮しても、あえてシリア戦で起用してもらいたい選手がいる。その筆頭がCBの昌子源(鹿島)だ。昨年末のクラブワールドカップでクリスティアーノ・ロナウドを止めるなど、1対1の強さは折り紙つき。さらに今季は安定感が増し、失点を阻止するための執念には目を見張るものがある。アタッカーにとって「本当に厄介なDF」に成長したと感じる。

 昌子はこれまでも代表に招集されながら出場機会に恵まれてこなかったが、CBは日本代表にとって手薄なポジションなだけに、今後を見据えて経験を積む機会を与えてもらいたい。シリア戦で起用されるとしたら、守備の中核を担うキャプテンの吉田麻也ではなく、森重真人のポジションに入ることになるだろう。勢いのある昌子がそのままレギュラーの座を奪うことも十分に考えられるが、当然、森重も指をくわえてポジションを明け渡すような選手ではない。そこで生まれる競争が、「守備陣の層の厚さ」につながるはずだ。

 また、ボランチで起用してもらいたい若手筆頭が井手口陽介(G大阪)だ。昨年11月のサウジアラビア戦で代表に初招集されたものの、3月ラウンドでは足に故障を抱えていたこともあって招集が見送られた。しかし、Jリーグで戦線に復帰してからは、G大阪の攻守の要として抜群の存在感を発揮。12節終了時で首位に立つチームの原動力になっている。

 井手口の最大の魅力は、攻守におけるアグレッシブさにある。ボールホルダーとの間合いを果敢に詰めてボールを絡め取り、パスをはたくと同時に相手ゴール前に走り込んでチャンスメイクやシュートを狙う。こうしたプレーは、同じG大阪の今野泰幸が3月のUAE戦で見せたが、日本人のボランチで「高いボール奪取能力」と「ゴール前への飛び出し」の両方を兼ね備えた選手は数少ない。これから、代表において中盤のファーストチョイスになる可能性を十分に秘めた井手口の起用を楽しみにしている。

 ボランチではもうひとり、今年で31歳になる高萩洋次郎(FC東京)も試してもらいたい選手。チームの新陳代謝を促そうとする時には若い選手にばかり目がいきがちだが、サッカーは経験豊富なベテランの力も必要なもの。若い頃に攻撃的なポジションでプレーしていた高萩は、キャリアを積む中で守備力を高め、ボランチとして活路を見出した選手だ。

 外国人選手に当たり負けしない体の強さ、経験に裏打ちされた戦術眼、広い視野に加え、攻撃のリズムを作ることもできる。スキを見つけてゴール前に危険なパスを通す技術とセンスは、ボランチからの展開力に課題のある日本代表にとって欠けている部分なだけに、高萩を入れた形をぜひとも見てみたい。

 W杯予選の真っ只中でなければ、代表での出場経験がなくても試合に出してもらいたい選手は数多くいる。その一番手が柏のGK中村航輔だ。身長は184cmとGKとしては決して大きくはないものの、彼のシュートに対する反応はずば抜けており、全盛期の川口能活を彷彿させる。

 彼の特長は「貪欲さ」にある。柏ユース育ちで常に年代別日本代表に名を連ね、昨年は五輪代表としてリオ五輪でも2試合に出場した。しかし、中村は決して順風満帆なキャリアを歩んできたわけではない。トップチーム昇格後に右腕を骨折するなどケガの影響で出番が得られず、2015年シーズンにアビスパ福岡に期限付き移籍。そこでJ2での経験を積み、再び柏に戻って正GKの座を勝ち取った。

 ユース出身の選手は、子どもの頃から慣れ親しんだ環境を離れることを躊躇するケースが多いが、彼は自らの成長のためにチャンスを外の環境に求めた。中村のような姿勢の選手を招集することは、マンネリ感のある代表GK陣の競争意識を高め、それぞれのレベルアップにつながるため、すぐにでも呼んでもらいと思っている。

 ここまでに挙げた選手の他にも、守備陣には植田直通(鹿島)、山中亮輔(横浜FM)、奈良竜樹(川崎F)、岩波拓也(神戸)といった有望な選手が揃い、攻撃陣にも杉本健勇や柿谷曜一朗(共にC大阪)、南野拓実(ザルツブルク)、小林祐希(ヘーレンフェーン)といった才能溢れるタレントはまだまだいる。

 彼らが日本代表でのプレー機会を手にするために何よりも必要なのは、サッカーへの執着心だ。自分の得意なパターンでは目を見張るプレーをするが、そこから外れると存在感が消える傾向がある選手では、プレーが淡泊に映ってしまうもの。これは少し前の原口元気にも言えたことだが、彼は日本代表での成功を真に欲し、所属クラブで結果を残し続けたことで代表での定位置を手に入れた。

 残念ながら、原口のような覚悟を持ってガムシャラにプレーする若手は多くはいない。日本代表での成功や、ロシアW杯のメンバー入りを手にできる才能を持っている選手はたくさんいるだけに、誰もがもっと貪欲に代表の座を狙うことに期待したい。そうなることで、日本代表チームのレベルはさらに高くなっていくはずだ。イラク戦に向けて、ハリルホジッチ監督がどんなメンバーを招集するのか注目したい。

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