今大会が日本初戦だったサニブラウン・アブデル・ハキーム 晴天に恵まれながらも、あいにくの強い向かい風という条件になった5月21日のゴールデングランプリ川崎・男子100m。昨年のリオデジャネイロ五輪銀メダリストのジャスティン・ガトリン(アメリカ)も出場し、今季日本初戦となるケンブリッジ飛鳥が、銀メダリストに肉薄するレース展開となった。

「スタートは少し出遅れたかもしれない」というケンブリッジは、20m過ぎから加速したガトリンに少し離されたものの、中盤からは追い上げる走りを見せた。結果は10秒28で優勝したガトリンに対して、0秒03差の10秒31で2位。

「終盤で並んだ時にちょっといけるかなと欲が出たので。それで最後は少し力が入ってしまいました。ガトリンもすごく調子がいいわけではないだろうけれど、銀メダリストとああいう走りができたのは、多少自信になるかなと思います」

 4月のアメリカ遠征はすべて追い風参考のレースだった。4月15日の初レースでは追い風5.1mで9秒98を出したが、終盤は上体が立っていて肩の周りの硬さが見えた。そこはケンブリッジ自身も「硬くなっているというか、スムーズさがないなと思っている」と言い、今大会は意識して修正に努めていた。

 それでも本人は、「そんなに心配はしていないですね。アメリカの3戦に比べると今回や上海(5月13日・ダイヤモンドリーグ、10秒19で4位)では、だいぶ体のキレも戻ってきたのかなと感じているので。それに次の布施スプリントまでは2週間あって入念に準備ができるし、これまでは1本だけのレースでしたが次は2本あるので、それでだいぶ状態も変わってくると思う」と、仕上がりの順調さを口にする。

 そんなケンブリッジ以上にマイペースを意識していたのが、同じく今季の日本初戦となったサニブラウン・アブデル・ハキームだ。今年秋からのフロリダ大学入学を前に、現在はオランダを拠点にして練習している。4月14日にはアメリカで100mを10秒18、200mを20秒41のタイムで走り、5月13日のダイヤモンドリーグ上海では中盤までトップ争いに加わって10秒22で5位になっている。

「スタートでしっかり前に出て、そこで出たスピードをキープしてから上げていく予定でしたが、今回はブロックの中で(ブロックに足をつけたままで)スタートの音を聞いてしまったので、それがよくなかったのかなと思います」

 こう言うように、川崎でのリアクションタイムは8選手中6番目。後半も持ち味である伸びやかな走りができず、10秒42で4位だった。だが「今季は世界選手権の参加標準記録(10秒12)を切るくらいのタイムを出せればと思っていますが、あんまり数字にはこだわって走っていないので」と表情は穏やか。

 アメリカの大学のルールで入学までは指導をしてもらえないため、都合が合うコーチを探したところ、たまたまオランダが拠点になったという。今年はウエイトトレーニングもするようになり、新しいコーチのもとでは足の動きからフォームまで変えている最中だと話してくれた。

 男子100mで9秒97の記録を持つアダム・ジェミリ(イギリス)や、女子200mリオ五輪銀メダリストのダフネ・シパーズ(オランダ)などと一緒に練習をし、毎日が勉強になる充実した日々だという。その中で重点を置いていたのは、「いつも出遅れるので、3歩目まではしっかり前に出るようにしたい」というスタートの練習だ。

 そのスタートのほか、今季実際に走ってみて改善点が見つかったところがある。

「初戦の最後は顔が上がってしまったり、上海は60mくらいまではいい走りができていたんですが、後半はちょっとバタバタしてしまった。これまではスタート練習しかしていなかったですが、これからスピード練習をしていって後半をどのくらい上げてこられるかだと思います」

 しかし、彼に焦りはなく6月下旬の日本選手権に向けても、「走った感じは200mの方がいいと思う。ただ参加標準(20秒44)は破っているんですが、まだ1本しか走っていないので……」と、100mと200mのどちらを狙うかもまだ決めていない。

「今ここで焦って記録を出そうとするよりも、今はしっかり練習を積んで体を作り上げて、その先へ向けて結果を出せるようにするのが一番だと思っています。だから今年の世界選手権も『行くぞ!』というより『出られたらいいかな』という感じでやっています。昨シーズンはケガをしたので、ケガなくシーズンを終えられれば、今年の目標は達成かなと思う。練習をしっかりして、今後のレースもしっかり走っていければいい」

 昨年のリオ五輪で結果を出したケンブリッジたちが、さらなる進化を目指して世界と戦おうとしているのに対し、サニブラウンは2020年東京五輪に向かって着実に進化できればいいと考えているのだ。

 どこかで前を進む先輩たちと歩調が合った時、日本男子短距離の層はさらに厚くなるだろう。今後、そんな彼の歩みがどこまで進むのか、リオ五輪4×100mリレーの銀メダルメンバーの戦いとともに注目したい。

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