過去数回にわたって、日本の物流の現状について語ってきたが、今回は現在筆者が住んでいる米国ニューヨークの配達事情と比べながら、いかに日本の配達サービスの質が高いかを綴ってみたいと思う。

 今年に入ってからというもの、日本国内の運送業界が注目を集め続けている。その発端は、去年の暮に某大手運送企業の配達員が、荷物を地面に叩きつけたり蹴とばしたりしている動画が拡散したことにある。

 自分の所有物でもないものを叩きつけるというのは、運ぶことを生業としているプロとしての意識云々以前の問題で、あの後ろ姿は、荷物の受取人にだけでなく世間に対するある種の挑戦状だったともいえるだろう。たとえあの箱が空だったとしても、あの箱に「蹴とばし可」と書いてあったとしても、人として決して許される行為ではない。

 ただ、これを世間が一方的に「けしからん」と非難して終われるほど、彼ら運送業界が抱えている問題は浅くない。特に第一線で働く彼ら配達員は、ここ数年で大きな労働環境の変化に直面してきているのだ。

◆1日150個を届ける

 国土交通省が発表した「平成27年度の宅配便取扱実績」によると、同年の宅配便取扱個数は37億4493万個。

 そのうちトラック運送はその約98.9%にあたる37億447万個で、日本の経済はトラックによる物流が支えていると言って間違いないだろう。そんなトラックの配達員1人が担当する荷物の個数は、時期や時間帯にもよるが、多い時では1日で150個を超える。さらに日本には中元や歳暮など、他の国にはない「贈り物」に対する行事が多く、年の間に幾度となくピークがやってくるのだ。

 これだけでもトラックでの配達業務は激務であるといえるのだが、加えて現在の日本には、再配達や時間指定などのサービスが当然のように提供されている。時にそれらは、「無料配送」という文言のもとで行われるにもかかわらず、受取人からは数分遅れるだけで「何のための時間指定だ」というクレームが浴びせられるのである。

◆道交法改正で配達員への負担はさらに増加

 彼ら配達員の労働環境が大きく変わった要因の1つに、過去に行われた道路交通法の改正がある。

 2006年6月1日から駐車違反の取り締まり業務が民間に委託され、停車中の車内に人がいなければ、たとえ1分1秒の停車であっても駐車違反として扱うことができるようになった。これにより、彼らの負担は一気に増えたのだ。

 トラックを離れれば時間との勝負。重い荷物を持ち、雨風や寒暖に抗いながら走って向かった届け先が不在だった時の落胆は、想像に難くない。再配達を約束する不在通知をポストに残し、「緑色の制服姿」がいないことを願いながらトラックへと戻るのである。

 この「緑色の制服姿」の取締員は、違反の対象が配達業者であっても容赦はしない。

 そのため、配達員を2人体制にし、いつでもトラックを動かせるようにするなどして対策を取る宅配業者も中にはいるが、もちろん人件費は倍かかることになるため、「送料無料」が珍しくない昨今においては、コスト的になかなか厳しいものがある。こうして違反切符を切られる配達員が激増するも、交通違反をすると配達業務を禁じられたり、今後の昇進に影響したりするため、配達員の知人による身代わり出頭が横行する結果となるのだ。

 一方、ニューヨークの配達事情はというと、日本のそれとは比べ物にならないほどレベルが低い。世界の最先端と言われるこの街の配達レベルや姿勢は、日本の配達員の働きぶりを知る人間からすると、正直「配達屋さんごっこ」でしかない。

 筆者は最近まで、ニューヨークのクイーンズという人種の交錯する地区に住んでいた。