大前研一氏が人材育成について語る

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 欧米で拡大しているネット経由の単発請負型経済「ギグ・エコノミー」から、日本は取り残されつつあると経営コンサルタントの大前研一氏はいう。世界での新しい働き方潮流からほど遠い状況にある日本で、どのような教育が望ましいのか、大前氏が解説する。

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 安倍晋三政権は「働き方改革」で「同一労働同一賃金の実現」「残業時間の上限規制」「非正規という言葉をなくす」などの旗を掲げている。だが、これらはすべて20世紀の労働形態に対する政策だ。

 21世紀のギグ・エコノミーでは、同一労働同一賃金、残業時間、正規雇用・非正規雇用という概念はない。会社に雇われるかどうか、長時間働くかどうかではなく、成果を出せるかどうか、新しい事業を生み出す能力があるかどうかが各個人に問われるのだ。

 その現実を知らない安倍政権は、国を挙げて月末の金曜日に早めの退社を促す「プレミアムフライデー」などを提唱したが、的外れも甚だしい。前号で紹介したアメリカのコロラド州やイギリスのエジンバラに移住してネット経由で仕事をしている人たちは、成果さえ出せば、いつどこで何をしていてもかまわないので、いわば「プレミアムエブリデー」なのだ。

 そんな“働き方後進国”の日本にも、ギグ・エコノミーが拡大しそうな“芽”はある。たとえば、ICT(情報通信技術)やネットベンチャーの起業家たちは、10代の時のゲームに始まった友達同士のネットワークで、その後もそのままつながっている。まさに「類は友を呼ぶ」である。

 彼らは組織に属することを嫌い、「ソロ」で活動することを好む。自分1人だと手に余る場合は、仲間と組んでジャズのジャムセッション(即興演奏)のような形で仕事をする。会社の名刺や肩書で仕事をするのではなく、個人の能力でギグ(単発の仕事)をするのが当たり前――そういう人たちが増えてくることが強みになるのだ。

 では、そもそもソロで国際的に活躍できる人材とは、どういうタイプなのか?

 興味深いことに、マイクロソフトのビル・ゲイツ、ツイッターのジャック・ドーシー、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ、ペイパルやテスラ・モーターズのイーロン・マスクら、評価額が1000億円以上の「ユニコーン企業」を創設した起業家たちがいつからプログラミングができるようになったか調べると、たいがい小学生時代で、遅くとも中学生時代には大人と互角以上の勝負ができるようになっていた。

 プログラミングができる能力とコンピューターを使える能力は全く違う。プログラミングができる人は新しいものを自分で生み出すことができるが、コンピューターを使えるだけでプログラミングができない人は、誰かが作ったプラットフォームに乗っかるしかない。

 プログラミングができるということは、画家が絵を描いたり作曲家が音楽を書いたりするのと同じく、頭の中にある新しいシステムを現実に創り出していく能力なのである。だから、これからのサイバー社会においては、プログラミングができるかどうかが人生の分かれ道、と言っても過言ではないのである。

 小学生時代から母国語のごとくプログラミングに習熟し、高校を卒業する頃には企業から仕事を頼まれるくらいのレベルになるのがベストだ。

 ところが、安倍首相や文部科学省は「教育勅語」を教材として使用することを否定しないとする閣議決定を出したり、アナクロな道徳教育を強化したりしている。そんな時代錯誤なことに力を注ぐよりも、これからは日本語と、英語などの外国語、さらにプログラミング言語を加えた「トリリンガル」を目指す教育にシフトすべきである。

※週刊ポスト2017年6月2日号