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川端由美の「CYBER CARPEDIA」



進化はネクストフェーズへと移った。これからは走りではなく、電脳化こそが自動車の未来を決める鍵となる。2020年の“自動車の常識”をモータージャーナリストの川端由美が現場から解説する。

THIS MONTH’S CYBER CARPEDIA

PORSCHE NEW FACTORY IN LEIPZIG

本拠地ドイツ・シュトゥットガルトに次いで、第二の工場として2002年に旧東ドイツ領ライプツィヒにオープンしたポルシェの最新ファクトリー。完成車の組み立て工場としてオープンしたが、その後に、ボディ、塗装、テストコースが増設されて、総合的ファクトリーへと発展した。

ドイツ車の源流となるポルシェ博士の英知



ドイツ車メーカーのほとんどが、ポルシェの影響を受けている。そう書くと、多くの人は驚くかもしれない。「911」「ケイマン」「ボクスター」に代表されるスポーツカーを中心にしたラインナップに加えて、近年では4ドア・サルーンの「パナメーラ」や、「カイエン」「マカン」といったSUVのラインナップが強化され、人気を博している。ただ、2015年は前年比で18%もの成長を達成したとはいえ、年間の販売台数が22万5000台と決して大規模とは言い難い。

そんな小さな自動車メーカーが、なぜ、大きな影響を与えたのだろうか? 創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士は頭脳明晰な人物として、若い頃から頭角を表し、欧州有数の自動車メーカーの研究開発を請け負っていたのだ。1898年、最初に手掛けたとされるローナー社製ハイブリッド車は、今でもポルシェ博物館で見ることができる。ホイール内に電気モーターを内蔵しており、当時としてはモダンな設計だった。才能が認められて、自動車メーカーの設計トップを歴任したこともあって、ドイツに限らず、ヨーロッパ中にポルシェ博士が手掛けた名車が闊歩することになったのだ。



▲19世紀当時、豪華な馬車の製造で知られたローナー社が、ポルシェ博士に制作を依頼した“馬無し馬車”である「ローナー・ポルシェ」は、世界初のハイブリッド車であった。

なかでも、名門中の名門であるダイムラー社(メルセデス・ベンツ)では、設計主任の重責を得ている。アニメ『ルパン三世』に登場するクラシックカー「SSK」は、その代表作と言っていいだろう。当時、国際的なレースで大活躍を収めており、ダイムラー社の名を世に轟かせた。

1931年にようやく、現在の本拠地であるシュトゥットガルトに、現在のポルシェの礎となるコンサルティング業を請け負う企業を創設する。ドイツの国民車構想を実現したのも、功績の一つだ。大人4人のための移動空間で、最高速100km/hに達する性能と低燃費を低価格で提供するという厳しい条件をクリアしたのが、のちにフォルクスワーゲン「ビートル」につながる。



▲国民車構想に取り組むにあたって、フェルディナント・ポルシェ博士が国民車構想に取り組むにあたって制作したプロトタイプ、「W30」。戦前の1937年に撮影されたものだ。

戦後、息子のフェリー・ポルシェ博士が「356」を開発し、念願のスポーツカー・メーカーへと発展。1964年にようやく、伝説のスポーツカーである「911」が生み出されたのだ。



▲創業以来、車両設計・委託開発を行ってきたポルシェだが、満を持して初の自社製品として開発したのが「356」だ。シンプルな構成の水平対抗エンジンをリアに搭載して、スポーティな走りを実現した。

最新のポルシェは最良のポルシェか?



「911」の歴史を繙くと、「901」なるコードナンバーで呼ばれる試作車に端を発する。リアに水平対向6気筒エンジンを積む後輪駆動という特殊なレイアウトを採用する2人+2のスポーツ・クーペは、1963年の発表当時、そのスタイリングの独自性と高性能とで驚きを持って迎えられた。

「911」については多くを語るまでもないが、今世紀に入ってからのポルシェはスポーツカー専業メーカーから脱却し、大きな変革を迎えている。世界的に人気が増すSUVにポルシェ流のスポーツカー魂を盛り込んだ「カイエン」や「マカン」が大ヒットしたのだ。さらに、異色のスポーティ・サルーンの「パナメーラ」でも、新興国を含む新しいマーケットを開拓した。

そして、最新のポルシェとなるのが、今年の秋にパリ・サロンで発表された「パナメーラ」である。フロントランプの造形やリアエンドの水平基調のラインなど、ぱっと見てポルシェとわかるクリアなエクステリア・デザインだ。ラインナップの中でも、プラグインハイブリッド機構を積む「4E-ハイブリッド」には、最新のテクノロジーが満載されている。全長×全幅×全高=5049×1937×1423个離侫襯汽ぅ此Ε汽襦璽鵑蕕靴い罎辰燭蠅箸靴織椒妊に、330psを生む3LのV6エンジンと、100kwの大出力モーターを組み合わせて搭載する。総合で462psを発揮し、最高速は278km/hに達し、停止から100km/hまでをわずか4.6秒で加速するという俊足ぶりだ。



▲2016年秋に開催されたパリ・モーターショーで発表された新型「パナメーラ」のハイブリッド仕様である「4E-ハイブリッド」

リアにあるリッドを開けると、充電プラグが現れる。標準の3.6kwチャージャーで5.8時間、オプション装備の7.2kwチャージャーであれば3.6時間の早さで充電か可能だ。電気モーターのみでも50kmのEV走行が可能だ。ピュアなEV走行での最高速度は140km/hに達する。一方で、欧州モードでの燃費は2.5リッター/100kmと、コンパクトカーですら達成が難しいほどの高い環境性能をマークする。



▲まるでポルシェのパーツの一部かのようにデザインされたウォールボックス式の充電器。標準の3.6kWチャージャーで5.8時間オプションの7.2kWチャージャーなら3.6時間で充電できる。

ここで再び、冒頭の歴史を繙くと、プラグインハイブリッドという機構は、ポルシェの原点であるローナー・ポルシェを彷彿とさせる。いつの時代も、ポルシェ博士の頭脳が、ポルシェのクルマ作りに息づいているのだ。



▲サイドに、グリーンの縁取りのある「e-hybrid」の文字が備わることで、一目で環境に配慮したモデルだとわかる。



▲PHVモデルでは、大径ホイールから顔をのぞかせる対向式ブレーキキャリパーも、グリーンで彩られている。ポルシェの伝統的なスポーツカーでは、イエローやレッドのブレーキキャリパーが備わるのと対照的だ。

最新のポルシェを作る最新鋭のファクトリー



ドイツ・シュトゥットガルトに本拠を構え、最新鋭スポーツカーを開発する。そんなイメージのポルシェだが、同時に旧東ドイツ領にあるライプツィヒ工場を見ずして、最新のポルシェのクルマ作りは語れない。

百聞は一見にしかずと、美しい旧市街地が残るライプツィヒに足を運んでみた。旧東ドイツ領の例に漏れず、高い失業率に喘いでいたが、2002年にポルシェの工場が開設されたことをきっかけに、自動車や部品の工場が進出し、失業率が軽減した。

SUVの「カイエン」の最終組立工場としてオープンしたものの、10余年の間に、ボディ、塗装、テストコースが増強されて、総合的なファクトリーへと発展。4ドア・サルーンの「パナメーラ」、ミドルサイズSUVの「マカン」へとプロダクト・ポートフォリオを広げてきた。

そして今年、ブランニューとなる「パナメーラ」の生産を開始するにあたって、“インダストリー4.0”=「第4次産業革命」を導入した最新鋭ファクトリーへと刷新された。スマート・ファクトリー(=考える工場)なるコンセプトに基づいており、工場を中心に据えつつ、生産ラインを工程ごとに区切ってダイナミックに入れ替えができる。工程をリアルタイムに連携させて、少量多品種に対応する。……と書くと難しそうだけれど、要するに付加価値の高い製品を大量に生産できる仕組みだ。

工場内に一歩足を踏み入れると、従来の自動車工場との違いに愕然とする。というのも、既存の生産設備を改良して使うのが常であり、このように最新設備に最新されるのは稀だ。すべてのモデルにタグ付けされたコードに基づいて、生産ラインに注文を出し、完了までを追う。最後の品質管理まで一貫して、システムをクラウドおよびセンター・ベースで管理する。部品まで遡って品質や生産工程の管理ができるというスグレモノだ。



▲新型パナメーラでは、パネルなどの大型部品を中心にアルミ製パーツを30%以上採用する。接着、レーザー溶接、リベットやネジ留めなどを使い分けた結果、溶接を減らして、軽量化されている。



▲アルミはプレス後の表面が荒れやすいため、30〜40分もの時間をかけて、アルミ製ボディパネルの表面を修正する。1台のクルマが完成されるまでにには、一般的な乗用車の1.4倍程度の36時間を要する。

工場と聞くと、味気ないものと思いがちだが、ライプツィヒ工場の美点を挙げていると、紙幅が尽きてしまいそうだ。革新的なイノヴェーションを取り入れつつ、人の手による丁寧な品質管理も行われている。1000万円を超えるプライスタグを掲げるクルマではあるが、その背後にある革新を目にした後なら、その価値があるとわかるだろう。



▲人の手で丁寧にアルミボディの表面を整えたのち、工場内の塗装ラインでボディカラーが塗られる。輝度の高いライトトンネルの中で、塗装表面のムラなどがないか人間の目で最終確認をした上で、世に送り出す。



▲リアを低め、ルーフラインを引き締めることで、よりポルシェらしいスタイングを得た。完成車組み立て工程の最後に、ポルシェのバッジを付ける。

文/川端由美

かわばたゆみ/自動車評論家・環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

※『デジモノステーション』2017年2月号より抜粋

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