(c)2017映画「サクラダリセット」製作委員会

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 一般的には『相棒』シリーズのイメージが強いかもしれない。だが映画俳優としての及川光博の印象を決定づけているのは、何と言っても活動初期の悪役っぷりである。『漂流街 THE HAZARD CITY』『キューティーハニー』『CASSHERN』……三池崇史、庵野秀明、紀里谷和明という作家性の強い監督たちに立ち続けにヒール役で起用された事実は、“ミッチー”として一世を風靡した時代背景のみならず、演じ手の本質がそこにあったからではないか。

参考:及川光博、『A LIFE』嫌味な役でも好感持たれる理由 役柄に深み持たせる“二面性”とは

 メガネも似合う及川光博には、どこかインテリヤクザの匂いがある。知的で、非情で、マッチョな単細胞人間を心底軽蔑しながら、同じ土壌に属し、そいつらとはまったく違うルートでのし上がっていく男。冷徹さの中に激情を宿し、キレたら、あらゆるヤツらを虫けらのように踏み潰す。上から目線がここまでサマになり、さらにセックスアピールになりうる存在は、もはや21世紀においては「絶滅危惧種」に認定できる希少価値、保護すべきだと個人的には思う。なぜ北野武の『アウトレイジ』シリーズにキャスティングされなかったのか不思議なくらいだし、及川光博ならばもし全盛期の『仁義なき戦い』シリーズに紛れ込んでいたとしても、理屈を超えた迫力で往年の名優たちと互角に渡り合っていたと想像する。

 陳腐な言葉で言えば、クールでニヒル。だが、こうした本来型通りで薄っぺらい形容詞を全うし、そこに血を通わせるのが、この俳優の力量だ。

 冷静さ、というより冷たさ。その面構えも相まって、爬虫類的な低体温の生きものを想起させもするが、一方でこの「冷血」ぶりはドクター役でも威力を発揮する。『明日への記憶』で、主人公の渡辺謙をテストし、若年性アルツハイマーを宣告する不敵なメッセンジャーは、淡々と仕事をしているだけだからこそ、観る者を震え上がらせた。あんな医師にテストされたら、誰もがアルツハイマーになってしまうのではないかと思うほどだった。

 ドラマ『アイムホーム』では決して怖い役ではなかったが、木村拓哉の深層心理にメスを入れるカウンセラー、同じく木村主演のドラマ『A LIFE 〜愛しき人〜』でもキーパーソンであるエリート医師を颯爽と演じていたのは記憶に新しい。

 近年は、たとえば悪役に扮した『僕だけがいない街』でも彼ならではの毒が控え目に感じられたが(老け役だったということもある)、『サクラダリセット 後篇』では久しぶりのヒール全開、さらにそこに滑稽さが大胆にミックスされ、新境地、いや、大飛躍を見せている。

 『サクラダリセット』は能力者たちが半数を占める町を舞台に、その能力を管理する当局に、高校生たちが反旗を翻す物語。二部作だが、後篇だけ観ても充分楽しめる。

 後篇だけに登場するラスボス、管理局対策室室長、浦地正宗。この役を及川が演じている。三つ揃いのスーツにハットという出で立ちは、英国紳士風。さらに意味ありげに(意味はあるのだが)手袋までしている浦地は一見、頭脳派に見える。この町から能力を一掃する野心を抱え持つ彼は、能力を有効活用しようとする若者世代と全面対立。彼ら彼女らをディベートする姿からは、確かに頭の良さがうかがえる。だが、次第にその化けの皮が剥がれていき、まるでピエロのようにジタバタし、七転八倒することになる。

 このギャップがたまらない。上から目線は死守するものの、たとえば、なぜか顔に真っ白な粉をつけたまま走り回る場面を目撃すれば、浦地がいかに愛すべきヤツか感じ取れるはずだ。

 従来の及川光博イメージを逆手にとり、その仮面をひょいと脱ぎ捨てた後に見せる人間くささは新鮮だ。そう、低温に見えて高温というか、キャラクター本体そのものが、無意識のツンデレと化している。本人はカッコつけてるつもりなのに空転しているというさり気ない芝居が及川は上手いが、この細部を拡大解釈した結果、ズレが増幅され、想定外の効果をもたらした。

 正義は勝つのか否かよりも、浦地政宗がどうなるのか。『サクラダリセット 後篇』最大の見どころはここにある。及川は「まるで道化師のように。あるいは学者のように。歌でも歌うかのようにセリフをしゃべる」と語っているが、そのセリフ回しも実に噛みごたえがある。映画俳優、及川光博の可能性が充満した一作だ。(相田冬二)