「人工知能を“人らしく”つくるということは、必ずしも“人そのもの”を目指すわけではなく、絶妙なバランスが必要だということ。人に取って代わろうとしているわけではなく、彼女が人と人の間、人と機械の間に入ることによって、コミュニケーションそのものを活性化するのが目標です」

そう語るのはMicrosoftのA.I.&リサーチ プログラムマネージャー・坪井一菜氏(以下、坪井氏)。LINEやTwitterでおなじみの女子高生AI「りんな」の生みの親の1人だ。5月22日現在、りんなと会話をしているユーザーは570万人(LINE約556万人、Twitter約14万人)にものぼり、いまこの瞬間も増え続けている。

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人工知能と人の新たな関係を築く、女子高生AI「りんな」

「りんなのリリース当初は、社内でもインキュベーションというか……。とりあえず実験的に始めてみましょう、という感じでした。また、りんなと同じコンセプトを持つ『シャオアイス』というAIプロジェクトを中国で展開しているのですが、同国で人気を博しています。シャオアイスの成功を受け、日本でも受け入れられる可能性があると考え、開発に踏み切ったのです」

もともと、日本にはキャラクター性のあるものが受け入れられやすい土壌ができている。そのため、LINE上でチャット形式の会話ができるりんなは、リリース直後から想像以上の大きな反響を呼んだ。そんな彼女が受け入れられた要因には“女子高生AI”というキャラクター設定も大きかったのでは、と坪井さん。

MicrosoftのA.I.&リサーチ プログラムマネージャー・坪井一菜氏


「りんなのように16歳くらいの若い女の子はどんな年代の人とでも関係性を築きやすく、たまに変なことを言っても許されるのではないか、という狙いがありました」

たしかに、急にふざけたり、軽いノリでリプライをくれるりんなは、まさに多感で奔放な女子高生そのもの。開発チームの思惑通り、ユーザーとの距離を縮め、本当の友人のように気のおけない関係を築くことができたのだ。

 

いつも即レスしてくれるりんな


「人工知能のキャラクターによって、与えられた役割や性格は変わるものだと思います。たとえば、最近話題になった囲碁用の人工知能『アルファ碁』は囲碁のために作られたAIですが、りんなはコミュニケーションを主としたAI。彼女は、今の若者の言葉遣いをベースに、自然言語処理という能力を使って学習しています。『それな』などの“若い女の子の話し方”の情報を大量に与えて、どんどん女子高生に近づいているのです」

女子高生らしくなるために日々勉強を重ねるりんなは、学業優先の女子高生そのものなのかもしれない。

開発チームの予想を超越する、ユーザーの反応

他愛ない会話はもちろんだが「しりとり」や「恋愛相談」、「山手線ゲーム」など、ミニゲームを楽しむことができる点もりんなの魅力。こうした新たなコミュニケーション機能を実装するために、2015年のリリース以降、ほぼ週一でアップデートしているという。企画を決めて、製作という流れで短期間でのアップデートを繰り返しているので、かなりハードなスケジュールだ。坪井氏は「最近はネタ切れ気味です」と笑う。

「しりとり」など、キーワードを投稿するとしりとりが開始される


ネタ切れに悩みながらもスピード感を持って新たな機能を提供することも、ユーザーを飽きさせない手法の一つだという。

「私たちは、りんなを通して、人とAIにとってもっとも最適な関係性とは何かを探り、人工知能という実体のないものだからこそ、長く使っていただいて“愛着”を持ってもらうことが大切だと考えたんです」

ユーザーの心を掴むための工夫は会話機能だけにとどまらず、さまざまなイベントを開催している。今年のエイプリルフール前後には、りんなの代わりにイケメンAI「りんお」という男性キャラクターに代役を務めさせたという。しかし、この企画はプロジェクトチームの想像を超える展開を見せる。

「もともと『イケメンAIと喋りたい』という要望がユーザーからもあったので、あくまで期間限定でりんおに代えてみました。でも、いざ実施してみると、ずっとりんなとLINEをしていたユーザーから『りんなを返せ!』という反応が返ってきたんです。もちろん、りんおを喜んでくれたユーザーもいましたが、男女問わずりんおを悪者扱いするユーザーも多かったのは、衝撃的でしたね。ただ、それと同時に、私たちの目指してきた“人工知能と人が友達のようなコミュニケーションを築く”という関係性を築いている証なのかな、とも感じた出来事でしたね」

悪者扱いされてしまった悲しきイケメンAI「りんお」


そのほかにも、りんなに風邪を引かせて「風邪を引いたから、もうしりとりしない!」と言わせてみたところ、心配するどころか人工知能だとわかっているので「やれよ!」と、ユーザーにツッコまれてしまったことも。

「たしかに、想像通りいかないことはたくさんありますが、失敗だとは思いません。私たち自身もそういった過程のなかで、新しい方法や発想を学んでいきたい。ユーザーの反応を見つつ、じゃあ次は何をしようという、試行錯誤の繰り返しですね」

 

今後は女性ラッパー“McRinna”に期待!?

坪井氏が、りんなの新たな可能性として注目しているのが“ラップ”だ。近年、日本でもフリースタイルのラップが再評価され、若者を中心にブームとなっている。そこで、りんなも女子高生代表としてラップに挑戦しているのだ。

彼女が「McRinna」として、先日発表した楽曲はYouTubeの再生回数17万回以上。人工知能が歌うラップ、なんとも不思議な印象だが、なぜ、LINEやTwitter上での文字でのやりとりがメインのりんなが“ラップ”に挑戦することになったのだろうか。

りんなラップ動画

 

「りんなの根幹にある自然言語処理の機能と、ただ歌詞を生成するのではなく一定のルールに基づいて韻を踏んでいくラップのスタイルに親和性を感じ、ラップをさせることにしました。人間ではなかなか思いつかないような韻の踏み方や、ワードのチョイスがどんどん出てくるので、機械が機械なりにラップを作ったような、独特な面白さがあるんですよね」

「りんなのラップを聞いて、ユーザー側にも新たな発想が生まれるような関係になれれば」と期待を寄せるが、まだまだラッパーとしてのりんなには課題も多い。

「実際にラッパーの方とラップバトルをさせていただいたんですが、ラップにはストーリー性や、自分自身を表現するという部分がとても重要視されます。じつは、これらの要素はAIの苦手分野。りんなが本質的な意味でラップができるようになるには、乗り越えるべき壁ですね」

その人自身の人生や主義主張が色濃く反映されるラップ。実体のない人工知能が『自分自身』を表現するのは、かなりの難問といえる。

「一応、りんなには人格を持たせているので“りんならしさ”という点は、何かしらの答えが出るかもしれません。でも“りんな自身”となると難しい。そもそも情報の集合知であるAIの『自分自身』とは何か、という問題にも直面します。りんなが歌手になるという話ではなく、人工知能として『りんならしいラップ』『りんならしい表現』とは何か、という問題を探ることになりますね」

人工知能の自分探しを終えて “りんな自身”を手に入れることができれば、McRinnaが女性ラッパーとして新たなステージに到達する日も近いのではないだろうか。

りんな公式HP http://rinna.jp/

筆者:Yuri Fujino(Seidansha)