[本稿完了後、記事更新前の5月22日にニッキー・ヘイデンの訃報が発表された。レースの記録を残す重要性に鑑み、執筆時の内容のまま公開する。ただし、逝去の一報に際し、最後の部分のみ若干の修正を加えた(西村)]

 劇的な要素がたくさん詰まった28周の戦いだった。

 第5戦・フランスGPの舞台ル・マン・サーキットは、コースレイアウト的にヤマハが得意なコースといわれている。過去5年の優勝者を見てみると、ヤマハ3勝(ホルヘ・ロレンソ:2012年・2015年・2016年)に対してホンダは2勝(ダニ・ペドロサ:2013年、マルク・マルケス:2014年)。


今季3勝目をマークしたマーベリック・ビニャーレス(中央) この結果だけなら拮抗しているようにも見えるが、直近の2年に注目すれば、6つの表彰台のうちヤマハは4つ(2015年:1位・2位、2016年:1位・2位)を獲っているが、ホンダはゼロ。表彰台占有率(ヤマハ66%、ホンダ0%)で比較するまでもなく、ヤマハ優位の傾向が見て取れる。

 実際に土曜午後の予選を終えて、マーベリック・ビニャーレス(モビスター・ヤマハ MotoGP)、バレンティーノ・ロッシ(同)、ヨハン・ザルコ(モンスター・ヤマハ Tech3)がフロントローを独占。日曜の決勝も、彼らを中心にレースが展開すると予想された。

 そして日曜の戦いは、大方の予想どおり、主役は彼らだった。

 レース序盤はザルコがリード。オープニングラップでビニャーレスからトップを奪い、地元フランスの観客を大いに沸き立たせた。最高峰クラスデビューレースとなった開幕戦では、トップを快走した末にフロントを切れ込ませて転倒に終わったが、その後は5位、5位、4位と常に上位でフィニッシュしている。それだけに、ホームグランプリでの活躍に期待が高まるのは当然のことだ。7周目にはビニャーレスにトップを奪われたものの、安定したラップタイムで走り続けて最後は2位でチェッカーフラッグを受けた。

 レースを終えたザルコは、「開幕戦のときもそうだったけど、トップを走れて気持ちよかった。フロントローからのスタートだったので、それを活かして1コーナーにうまく入っていけた。トップを走っていたときは(開幕戦)カタールのことが脳裏をよぎって、ミスをしないように心がけた。今回はカタールよりも安定して走ることができた」と話し、地元ファンの大きな期待というプレッシャーにも打ち勝って、MotoGP初表彰台を獲得したレースを振り返った。

 しかし、さらに大きなドラマがレース終盤に待ち受けていた。

 ザルコの直後につけていたロッシが、ラスト6周で満を持してオーバーテイク。トップを走るビニャーレスに迫り、ラスト3周でついにトップに立った。ビニャーレスもその背後でふたたびチャンスをうかがう様子で、2台のマシンは緊張感をはらみながらコーナーからコーナーへと駆け抜けていく。長年、ヤマハファクトリーを支えてきたロッシの走りは、勝利に賭ける執念がにじみ出る一方、今年からヤマハファクトリーへ移籍し、開幕2連勝を挙げたビニャーレスからは静かな自信のようなものも垣間見えた。両名のいずれが勝つにせよ、今回のレースでヤマハはグランプリ通算500勝を達成することになる。

 最終ラップでは、6コーナーでロッシの犯したミスを突いてビニャーレスが前に出た。だが、ロッシも食い下がり、最終区間での再逆転を狙って追走を続ける。と、その矢先の最終シケイン11コーナーでロッシが転倒。コースサイドに滑っていったマシンを引き起こしていったんはまたがったものの、再スタートはならず、なすすべもなく悄然とうなだれた。

 その結果、ビニャーレスがトップでチェッカーフラッグを受けて、今季3勝目を達成した。

「バレンティーノのミスを見たときは、ブレーキングを遅らせて勝負をした。フルパワーでブレーキして深く旋回したけれども、フロントの信頼性がすごくよかった。バレンティーノは絶対にあきらめず、最後に仕掛けてくると思っていたので、ゴールするまで彼が転倒したのはわからなかった」(ビニャーレス)

「今回はプラクティスからうまく走れていたし、今日は今シーズン最高のレースにできると思っていた。最終ラップの6コーナーでミスをしてしまい、マーベリックに抜かれたけれども、最終区間は自信があったのでチャンスがあると思っていた。勝てなかったことが何より残念だし、ポイントを獲得できなかったのも残念」(ロッシ)

 くっきりと明暗の分かれたふたりの言葉も印象的だが、ヤマハにとって大きな節目となったこのレースで、ビニャーレスが500勝獲得ライダーとして名を刻んだことも、なにやら象徴的な感がある。

 ロッシの転倒により、単独で4番手を走行していたダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)が3位を獲得し、ランキングでもビニャーレスから17ポイント差の2番手に浮上した。

「13番手の5列目からスタートして、3位表彰台で終われてよかった。厳しいウィークで予選も難しかったけれども、表彰台を獲得してランキングでもこの位置にいるのはうれしい。バイクも少しずつよくなっている」

 そして、ペドロサはレースを終えた直後のパルクフェルメでは、こうも述べていた。

「ニッキーと彼の家族に最大の思いを伝えたい」

 ペドロサの元チームメイトで2006年に世界チャンピオンを獲得したニッキー・ヘイデンは、現在参戦中のスーパーバイク世界選手権のイタリア大会を終えて同国で自転車トレーニング中に自動車と衝突。チェゼーナにある病院の集中治療室で懸命の治療が続いていた。

 今回のフランスGPでは、クラスや陣営を越えて皆がヘイデンの容態を気遣い、回復を祈ってエールを送り続けた。だが、レース翌日の5月22日に逝去した。享年三十五。

 亡くなるには、あまりに早すぎる。

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