デビュー小説『永遠の0』が大ヒット、その後もベストセラー作品を生み出し続けるものの、ご自身の「口の悪さ」が災いしてネットでの炎上やメディアから叩かれることも多々ある百田尚樹氏。無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが紹介するのは、そんな百田氏がいかにして誹謗中傷罵詈雑言に負けない「鋼のメンタル」を身につけたかを記した1冊です。『永遠の0』の誕生秘話は感動的ですらありますよ。

『鋼のメンタル』

百田尚樹・著 新潮社

自他ともに「懲りない男」と称されるわたしである。よけいなことをやったり、言ったり、書いたりして、痛い目にあってきた。忘れたふりをしているが、唐突によみがえる過去の失敗や屈辱の記憶に、ときどき落ち込むことがあり、僕はメンタル弱いのかな〜と思い(笑)、百田尚樹『鋼のメンタル』を読んだ。

メンタルは鍛えられるものだ。全メディアから叩かれてもめげない一民間人、ネットで炎上しても平気な百田はそう断言する。百田は小さいときから口が悪く、そのせいで散々痛い目にあってきた。考えが浅く、やることなすこと失敗ばかり、その度落ち込んだ。それが図太さを作りだしていたらしい。

同じような経過を辿ってきたわたし、もしかしたら図太いのか。いやいや、すぐに傷つく繊細な(以下略)。「最初はへこんだけど、よく考えたらどうってことないや、そう思えたとき精神の耐久力がアップしている。人体の使わない器官はどんどん弱くなる。精神力も使わないとどんどん弱くなる」なるほど。

口論テクニックを披露しながら、そんなものは別に身についていなくてもいいと書く。口論で相手を言い負かせば、必ず恨みを買う。無駄で馬鹿馬鹿しいからやめなさいと。わたしがなぜ口論テクに関心があるのか。妻相手の口論に連戦連敗だからだ。グヤジー。内容が生き方の本質に関わるものではないが。

『永遠の0』の誕生秘話が素敵だ。仕事を減らして執筆活動に励んでいると、妻が来て聞く。その原稿いつ終わるの、いま家計が大変なの、と深刻。原稿は半分くらい書き進み、乗ってきたところで一気に書きあげたい。「とりあえず、書いたところまで読んでくれへんか」とプリントアウトの束を渡す。

3時間後、妻は再びやってきてこう言う。「家計のことは私が何とかやりくりするから、これを仕上げて下さい」。10年前のこのときの言葉を思い出すと今も感謝の気持ちでいっぱいになるという。500万部越えの大ベストセラーになったが、その時は出版のあても、まして売れるかどうかも分からなかった。

数か月後、原稿を完成、幸運にも出版できた。小説家として第二の人生に漕ぎ出すことができた。原稿を読んだ妻は、いま夫がやるべきはテレビの仕事を復活させることでなく、この原稿を書き上げることだと思ったのだ。臆面もなくこんなエピソードを出して、と思う人もいるだろうが、わたしは感動した。

百田が自分の悪口を検索して、それを読んで大笑いしているので家族はあきれ果て、あの神経は理解できない、あれは鋼のメンタルやで、と言ったという話をしていたら編集者が食いつき、どうしたら百田のようなメンタルを持てるのか、それを書いてくれということで出来た本。新書判一冊だからすぐに読了。

残念ながら、これ読んでも「鋼のメンタル」は持てない。メンタル強化メソッドが書かれた本ではない軽量級。よし、明日から言いたいことをもっと言ってみよう、と思えた人は素直ないい読者だ。あとがきで、「空気を読むな」という。それだったら、わたしは達人だ。いいことはあまりないが……。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

 

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出典元:まぐまぐニュース!