写真(マクロン氏)=ロイター/アフロ 撮影(小池百合子氏)=原貴彦

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最年少で仏大統領となったマクロン氏。小池都知事は「国民ファーストで」とアドバイスするが、これから2人は共通する「試練」を迎える――。

5月7日のフランス大統領選の決選投票で、極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補をダブルスコアでくだし、大統領の座を勝ち取ったエマニュエル・マクロン氏。フランス大統領としては最年少の39歳。しかも二大政党に属さない大統領という話題に事欠かない新リーダーだ。

欧州連合(EU)離脱の是非を問う国民投票を行おうと訴えたルペン氏に対し、親EUの立場を訴えたマクロン氏が当選したことで、保護主義の台頭を心配していた世界の指導者の多くは安堵し、マクロン氏の当選を歓迎。各国の報道も若いイケメンの快挙に、おおむね好意的な記事を並べた。大統領就任後、フランス国民の人気も上々のようだ。今月26、27日にイタリア・タオルミーナで行われる主要国首脳会議(G7サミット)でも、トランプ米大統領、メイ英国首相ら「新顔首脳」とともに注目を集めることだろう。

■2人とも支持基盤は固くない

このマクロン劇場をみて、「あの人のパフォーマンスに似ている」と思った人も少なくないのではないか。小池百合子東京都知事のことである。

昨年7月31日、舛添要一氏の辞任に伴って行われた都知事選に出馬した小池氏。政党の支持を受けず、たった一人の戦いを演じた小池氏が、自民・公明両党などが推す増田寛也元岩手県知事や、民進党ら野党が支援したジャーナリスト・鳥越俊太郎氏を相手に圧勝したのは記憶に新しい。都民だけでなく日本全体が小池氏を応援した。民放テレビの報道、情報番組は、小池氏の箸の上げ下げまで取り上げ、同月10日に行われた参院選は、小池劇場の前座のようになってしまった。

今のマクロン氏の姿は1年前の小池氏とダブって見える。

既成政党の助けを受けず、いわゆる無党派層、今の政治に飽きた人たちの支持を受けてリーダーの座についた2人。性別や年齢は違うが、清潔なルックス、分かりやすい演説……と共通点は多い。マクロン氏は5月14日の就任演説で「国民との約束は譲らない」と力説した。国民との連帯を強調する姿は、都民ファーストを掲げる小池氏と重なる。2人とも支持基盤が固くないだけに、有権者の一人ひとりに語り合う必要性を感じているのだろう。

2人は意外なところでも「共通点」がある。マクロン氏の妻・ブリジットさんは、マクロン氏より25歳年上のバツイチ。マクロン氏が高校時代の教師だったということで注目を集めた。プライバシーにおおらかなフランスだからこそ誕生した異色の「プルミエール・ダム」(フランス語でファーストレディーの意)ということなのだろうが、ブリジットさんは公私両面からマクロン氏に助言をする、文字通り「政権の屋台骨」となるだろう。

そのブリジットさんは64歳。偶然にも小池氏と同じ年だ。25歳の差は、マクロン氏にとって障壁とならないことは、既に証明済みだから、マクロン氏、小池氏の2人は、案外波長が合うかもしれない。

■似た境遇で、選挙には勝った

小池氏もマクロン氏に親近感を抱いているようだ。5月8日、都内で行った演説では「私は都知事選で政党のバックアップがなかった。マクロン氏も独立候補」と、似た境遇から選挙に勝ったことを指摘した上でこう語ったという。

「(自分は『都民ファースト』だが)マクロン氏は『国民ファースト』でいけばいい。先輩づらしてアドバイスしたい」

「先輩づら」というよりも「年上女房づら」といったほうがいいのかもしれない。

2人はこの夏、決戦を迎える。小池氏は7月2日の東京都議選。ここで自身が事実上率いる「都民ファーストの会」と、選挙協力で合意している公明党とあわせて127議席の過半数64以上の獲得を目指す。「64」は小池氏の年齢と同じ数字だ。小池氏は今、都議選の勝利を祈念して今年1月から「一滴も」酒を飲んでいない。7月2日の開票日に自身の年齢を上回る議席をクリアして勝利の美酒に酔おう、というのが小池氏の夢なのだ。たった1人で都庁に乗り込んだ小池氏が1年で都議会で多数派を形成できるかどうか。

一方のマクロン氏は、都議選よりも一足早く6月に国民議会選挙を迎える。マクロン氏は自身の選挙を支えた市民運動「前進」を基盤にした「共和国前進」で過半数を目指す。「国民が熱望する変革を行うため、議会選挙では過半数を占めないといけない」と鼻息が荒いマクロン氏。5月11日、577の選挙区に428人の候補擁立を発表したが、内訳は男女が214人ずつでぴったり同数。約半数が政治経験のない候補だった。この顔触れは、既成組織に頼らず清新さをアピールするマクロン氏らしい。「共和国前進」は、どこまで「前進」するか。

■議会で多数派を獲れるか

小池氏は最近、勢いを失いつつあるという見方もある。2020年の東京五輪・パラリンピックの費用負担問題では首相官邸に押し込められるような形で、仮設整備費500億円を全額都が負担すると発表。築地市場の豊洲移転問題では、なかなか結論を示せない。都議選で、都民ファーストの会が自民党より少ない議席にとどまるようなことがあれば、失速は一層顕著になる。

マクロン氏も支持勢力が議会で少数派となってしまえば、こちらも当選後1カ月たらずで早くも壁にぶつかってしまう。

議員の投票によって首相が決まる議院内閣制の日本の国政と違い、フランスや、東京都を含む日本の地方政治は、首長と議会がそれぞれ直接有権者から選ばれる二元代表制だ。二元代表制のもとでは、議会は首長をチェックする役割が求められる。首長側から言えば、議会内に敵が増えると、政策実行は困難になる。

マクロン氏と小池氏。よく似ていながら恐らく面識もない2人は、今年の夏、ともに正念場を迎える。

(写真(マクロン氏)=ロイター/アフロ 撮影(小池百合子氏)=原貴彦)