2019年のラグビーワールドカップ日本大会に向けて候補選手を絞り込む日本代表にあって、生き残りを誓うリーダー候補がいる。
 
 流大――苗字は「ながれ」、名を「ゆたか」と読む。ポジションは攻めの起点となるスクラムハーフだ。身長165センチ、体重74キロと小柄な24歳は、強弱をつけたテンポのいいパスさばきや正確なキックを持ち味とする。
 

日本代表初選出ながらキャプテンに任命された流大 この春、流は若手主体の編成で臨んだアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)でキャプテンを務めた。昨秋、就任した日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が、この大会が代表デビューとなる流に白羽の矢を立てたのだ。

「この先は強いリーダー陣が必要で、彼はそのひとりになっていけると思います」

 社会人2年目だった昨季も、サントリーのキャプテンを務め、国内タイトルを総なめにしていた。2015年まで代表のスタッフだったサントリーの沢木敬介監督は言う。

「リーダーってセンスだと思うんです。センスのある人が経験を重ねて成長する。流にはその素質が絶対にある。自分の意思を持ってトレーニングをしているし、周りに対して言いたいことははっきり言う」

 所属先の指揮官に「センス」と評される、流の引っ張る力。一見、持って生まれた才能のように映るが、そのスキルは学生時代に築かれた。

 荒尾高校(熊本)時代、徳井清明監督とノートを交換。練習や試合に関する自分の思いを綴り、その都度、アドバイスを書いてもらっていた。「7冊ぐらいあります」という宝物に、問題解決のヒントが埋まっているという。

「行数や文字数は決まっていないですけど、その日に起きたことや思いを毎朝提出していました。こういうことが起きたときはこう頑張っていたんだ……とか。卒業後に見返したときにいいことがたくさんありました」

 そして流のリーダーとしての資質がより磨かれたのが大学時代だ。大学選手権8連覇中の帝京大ラグビー部だが、流は6連覇を成し遂げた2014年度にキャプテンを務めていた。選手同士で行なったミーティングの内容を岩出雅之監督に報告しに行けば、「何を言っているのかわからん」と突き放され、より明確な説明を求められた。話の内容に少しでも不備があれば、容赦なく指摘された。流が当時を振り返る。

「監督のところへ行くときは、その前に相当な時間を使って準備をし、覚悟を持っていました。その経験が生きています。どんな話し方をすれば相手に伝わるのか、こう言われたときにはこう返そうとか、常に考える習慣がつきました」

 現在、流は会社で大手酒量販店への営業を任されている。仕事とラグビーの両立を課せられているが、流はきっぱりと言う。

「甘えるときは甘え、やるときはやる。そうすると、いざというときに助けてもらえることが多いんです」

 初めて代表チームでキャプテンを任された今回も、ひとりで背負い込むことはなかった。東京、沖縄でも直前キャンプでは、立川理道、山田章仁といった2015年のワールドカップ経験者と一緒だったが、流はふたりの実力者に「あえて助けてもらおう」と割り切った。

「僕自身の経験できていないことをチームに落とし込んでもらおう、と。そういう話はジェイミーからも出ていました。若手を誘って一緒に練習をしてくれたり、食事に誘ってくれたり。そうした何気ないことが本当に助かりました」

 それでも苦しかったのが、4月22日のARC初戦である。敵地で韓国代表に47-29で白星を挙げるも、ひたむきさや激しさが課題となった。流自身、しばし相手の闘志あるプレーに気圧(けお)された。

「本当にワクワクしていて、僕のなかでは準備もよかったと思います。ただ、実際に始まってみれば……緊張はなかったんですけど、うまくいかないなという感じでした」

 対戦カードに関係なく、テストマッチは大一番だ。世界ランクに直結するだけに、重圧は避けられない。本来ならば、それを踏まえた上での意識づけはリーダーがやるべきだったが、流自身、初めてのテストマッチだった。さらに、この日の登録メンバー23人中11人がテストマッチデビューで、立川も山田も欠場していた。流は悔しそうに、代表デビュー戦を振り返った。

「選手同士でテストマッチの重み、国を代表することへの責任に関する声が出ていなくて……。いま思えば、僕がしっかり話しておけばよかったかな、と。実際に日本代表を経験していなかったので、うまく伝えられなかった」

 しかし翌週には、気持ちを切り替えていた。「僕自身が態度で示したい」と、副キャプテンとなった石原慎太郎とともに闘志を前面に出し、ジョセフHCが課したタックルの練習に取り組んだ。

 4月29日、東京・秩父宮ラグビー場で行なわれた韓国代表との再戦。前半16分にペナルティキックから流が速攻を仕掛ける。敵陣ゴール前でボールを左右に振り、アマナキ・ロトアヘアのトライを演出した。ジョセフHCは、流のプレーに目を細めた。

「運動量、球のさばき、スピード……今回の流は、非常に安定したプレーを見せてくれました」

 連携ミスから大きく突破される場面もあったが、この試合を80-10で制した。さらに5月6日、13日に行なわれた第3戦、第4戦では、香港代表に29-17、16-0と苦しみながらも勝利。「いい展開ではなかった」と流は課題を挙げたが、優勝という結果を残した。

「あらためて日本を代表する責任の重さを感じた。そこを自分のプライドとして持ちたいです」

 2019年のワールドカップに向け、日本代表のスクラムハーフは激しい競争を繰り広げている。2016年からスーパーラグビーへ挑んでいる日本のサンウルブズには、日本人初のスーパーラグビープレーヤーである田中史朗をはじめ、5人の代表経験者がいる。流にとって、出世への道のりは厳しく、そして長い。それでも流はこう力を込めた。

「ジェイミーのラグビーはよくキックを使うのですが、そこは僕の強みです」

 2019年のワールドカップで流は日本代表入りし、プレーヤーとしてフィールドに立っているのだろうか。ジョセフHCがリーダーに指名した男の挑戦が始まる。

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