チラ見もしないのだから、心憎いアシストである。

 5月21日に行なわれたU−20W杯の南アフリカ戦で、内山篤監督率いる日本は2対1の勝利をつかんだ。24か国参加の今大会は、グループ3位でも決勝トーナメント進出の可能性がある。初戦の勝点3は16強への前進を意味し、0対1からの逆転勝利はチームに勢いをもたらすだろう。

 W杯や五輪に比べると、U−20W杯は異なる性格を持っている。緻密な分析に基づいて相手の特徴を潰すよりも、自分たちの強みを発揮することで勝利を引き寄せようとする国が多いのだ。対戦相手のスカウティング材料が少ないという事情があり、結果よりも育成に軸足が置かれる世代ということが、そうした戦いにつながっているのだろう。

 相手のストロングポイントを解析し、ウィークポイントを突いていく五輪やW杯との違いがそこにある。21日までに消化されたグループリーグの8試合で、スコアレスドローがひとつもないのは示唆に富む。「初戦は手堅く勝点1を狙う」という戦略は主流でない、と考えられる。自分たちの強みをぶつけ合う“プラスの攻防”が、U−20W杯では数多く繰り広げられていくのだ。

 そうした攻防では、ゲーム展開がオープンになる。とりわけ後半は、両ゴール前を行き交う時間帯が長くなる。

 技術を持った選手が生きる。久保建英の閃きが輝く。

 南アフリカ戦に後半途中から出場した久保は、堂安律の決勝弾をアシストした。ペナルティエリア内でフリーになっていただけに、ラストパスを通すのはさほど難しくない。

 パスを受ける前もパスを出す瞬間も、久保はマイナスのポジションにいる堂安を見ていない。チラ見もしていないのだ。視線の先にはファーサイドの小川航がいて、DFも小川へのパスを予測してポジションを移している。背番号20を着けた15歳の目線も、堂安がフリーになり、なおかつシュートコースが広がる一因にあげられるはずだ。

 ファーストタッチでいきなり決定機を演出したプレーも、相手守備陣を目線で困惑させた。センターサークル付近でパスを受けた久保は、身体も視野もピッチの左側を向いている。相手のゴールをまったく見ていないその状態から、DFラインの背中をとった小川へスルーパスを通したのだった。

 24日のグループステージ第2戦で、日本はウルグアイと対戦する。激戦区の南米で堅守速攻の立ち位置を確立する伝統国は、イタリアとの初戦を1対0で制した。“プラスの攻防”が繰り広げられる大会でも、ウルグアイは堅守を捨て去っていない。第3戦で対戦するイタリアも、伝統としてディフェンスを特徴とする。

 今大会の久保は、スーパーサブとしての起用が濃厚だ。ゲームがよりオープンになる時間帯での彼は、最強のジョーカーとなりうるだろう。そのうえで、“プラスの攻防”を望まないウルグアイやイタリア相手に、どこまでできるのかは興味深い。

 U−20W杯は試合間隔が短いだけに、控え選手の活躍が欠かせない。久保の仕事量が増えるほど、チームの可能性は高まっていく。