「チケトレ」で転売は減るか? 買い占めなどの転売ビジネス抑止に必要なこととは?

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インターネットが普及した現代は、なんでもネットで手に入る時代でもあります。
日曜品から家電、新製品から中古品まで、ネット通販やネットオークション、ネットフリーマーケットなど、インターネットを介して購入できる商品は溢れています。

こうしたネット売買で問題が浮上しているのが転売です。
特に、転売を目的とした買い占めや、高額な価格での転売により
・転売目的での買い占めで、商品入手が困難になる
・転売目的での買い占めで、高価な価格での転売を余儀なくされる
など、近年、社会問題にもなりつつあります。

特に、コンサートやライブといったイベントでの「チケットの高額転売」問題は、注目を集めています。

■ネットダフ屋だけでなく。一般人の高額転売も問題に
チケット高額転売は、以前からあった問題です。
・チケット販売サイトに専用のプログラムでアクセス
・大量にチケットを買い占める
・買い占めたチケットを正価よりも高い価格でネット転売する
「ネットダフ屋」とも呼ばれることもある転売行為です。

以前は、転売業者などが行っていた行為ですが、最近では、
一般の人が「チケット二次売買サービス」を通じて高額な価格で転売取引するケースも増えており、問題が拡大しています。

こうしたチケット転売の増加は、
・チケット購入を希望する人
・チケット販売をする主催者
どちらにとっても、大きな問題となります。

音楽プロダクション231社が加盟する日本音楽制作者連盟の野村達矢氏は、二次売買サービスの存在について
「転売目的でチケットを購入する人たちの増加につながっていて、純粋にコンサートを観たいと思っている人たちが、チケットを買えない状況」
というコメントも出し、純粋に音楽を楽しみたいファンへの影響を危惧しています。

こうした状況を踏まえ、定額取引に限定したチケット二次売買サービス「チケトレ」が5月10日にプレオープンしました。
これは、音楽業界で初となる公式サービスです。

「チケトレ」に対して、ネットでは業界の姿勢に評価の声があがる一方、問題を指摘する声も聞かれます。


■「チケトレ」が仕入先となる? チケット転売される可能性とは
「チケトレ」の大きな特徴の1つは取引価格がすべて定価で統一されていることです。

既存の二次売買サービスでは、人気アーティストのチケットはプレミア価格が付きやすく、定価の何倍の価格に高騰することもあり、それが問題とされていました。

「チケトレ」では、チケットの取引は「定価」となるため、
諸事情でライブやコンサートに行けなくなったチケット購入者が、別の人に定価でチケットを譲ることができます。

チケトレ内では、購入したチケットを定価以上の価格をつけて転売はできないシステムとなっています。

しかしながら、現在のチケトレには、問題があるとの指摘もあります。
それが「取引手数料」の存在です。

チケトレでは、
出品者には
・チケット金額の10%(3999円以下は一律400円)(※オープン当初は無料)
・1回の取引当たり380円の送金システム手数料

購入者には
・チケット金額の10%(3999円以下は一律400円)
・チケット価格の3%の決済手数料

という手数料が設定されています。

一方、定価以上の価格で転売可能なサービスは、
「チケットストリート」で
・購入者にチケット代金8001円以上で手数料5%、
・8000円以下だと一律400円

「チケットキャンプ」
・出品者に8.64%
・8000円以下だと一律690円

と、チケトレに比べて、手数料は安くなっています。

手数料が高いチケトレで、転売する利用者が増えるのか? といった声もあるようです。

もう1つの問題は、定価でチケットが入手できる「チケトレ」が転売グループの仕入先として利用されないか? という懸念です。
つまり、
・チケトレで定価のチケットを購入
・チケット二次売買サービスで高額転売する
といった可能性も、ありえるのでは? という指摘です。

■海外では席による価格差は当たり前 日本の音楽ライブはなぜ一律?
ここで、視点を変えて、海外での、「チケットの転売」の問題に対する対処を、みてみましょう。

アメリカや欧州など、海外の音楽ライブをはじめ公演では、座席によって細かく価格設定がされているのが一般的です。
日本でも歌舞伎や相撲などでは、座席の位置や種類によって価格差が設定されています。

一方、日本の音楽ライブのチケットでは、一律な価格に設定される傾向があります。この理由は。主に2つあるといわれています。

理由その1
・アーティストや主催者の「ファンがみんなで楽しめるイベントにしたい」
ファンには平等に接したいという意向から、チケットに価格差をつけないという考え方です。

理由その2
・日本ではCDの売上低下が遅く、ライブ重視ビジネスの転換が遅れた
CD売上が好調だった時代では、ライブは曲を聴くためにきてもらう場所、いわばCDのプロモーションで開催するというケースが多くありました。
しかし、CDの売上が下降の一途をたどった2000年代後半以降は、ライブそのもので収益をあげるビジネスモデルに転換していきます。
特に欧米では、CD売り上げの低下が顕著だったことから、ライブ収益ビジネスへの移行が早かったようです。

一方、日本ではCDが欧米と比較して、CDが売れていたことで、ビジネスモデルの移行が遅れ、結果、価格差のあるライブチケット普及が遅れたとも言われています。

■アメリカの二次売買サービスによる先進的な「公式ダフ機能」
現在のアメリカでは、StubHub、Ticketmasterなどによるチケット二次売買サイトで、コンサートやスポーツなどのチケット転売は一般化しています。

Ticketmasterは、マドンナも契約する世界最大のイベントプロモーション企業・Live Nation傘下のサービスです。

Ticketmasterでは、
・人気チケットの「公式オークション」を実施
・チケット購入者が自由に値段をつけて再販売できる
など先進的な「公式ダフ機能」を提供したりしています。

こうしたサービスでは、席番号も全て明示した上で出品するように義務付けられています。
このため
・席の場所をマップで確認
・ほかの座席との比較が可能
など、ユーザーの利便性や選択肢が重視されています。

つまり
・座席による価格差が大きい。
転売してプレミアがつくチケットは、仕入れ値段が高い
元が安い座席のチケットは、比較され高値が付きにくい

人気のチケットは、転売時にプレミア価格がつくのは避けられません。
しかし、
・低価格で購入したチケットが、簡単に高価格で大量転売できない
・高価格で転売できるチケットは、少なく、仕入れ価格も高い

日本でも、こうした仕組みや体制が整備されていけば、大がかりな転売のメリットは低くなり、転売目的の買い占め抑制になるのかもしれません。


磯崎 新