仏パリのスタジアム、スタッド・ド・フランスでコンサートを行う米ラッパーのエミニム(2013年8月22日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】世界共通の言語と呼ばれてきたラップ音楽は、消滅の危機に直面している少数言語を守る手段ともなり得る。

 世界中の小規模な言語社会で今、先住民たちがコミュニケーションの手段としてラップを取り入れ、自分たちの言語に新たな息吹を与えている。それまでは予想もしなかったようなオーディエンスも獲得しているという。

 アーティストたちの経歴や動機はさまざまだが、唯一共通するテーマは、ヒップホップが持つ力の実現だ。1970年代に米ニューヨーク(New York)ブロンクス地区(The Bronx)のストリートカルチャーの一つとして誕生したヒップホップはその後世界中に広まり、少なくともスタイル上では共通言語として多くの若者たちに受け入れられた。

 コロンビア北部の山岳地帯に位置するアンティオキア(Antioquia)県で暮らす先住民の10代の兄弟、ブライアン・タスコン(Brayan Tascon)さんとダイロン・タスコン(Dairon Tascon)さんは数年前、バルパライソ(Valparaiso)の中央広場で行われていたストリートパフォーマンスを見た際に初めてラップと出会った。

 ラップにエネルギーや即興性を見出した2人は、自分たちの言語であるエンベラ語でラップを再現。エンベラ語は、コロンビアやパナマで使われている言語で、使用者は10万人に満たないと推定されている。

 ユーチューブ(YouTube)に投稿した動画で2人は、初期の頃のラッパーを真似て「Yo」と言うかのように手を前方に突き出している。けれど彼らが身に着けているのは金のチェーンではなく、エンベラの人々特有のカラフルな首飾りやヘッドバンドだ。AFPの電話取材に応じたダイロンさんは「以前はラップと言えば、ドラッグや暴力のことを歌にしただけだと思っている人もいた。でも僕たちにとって音楽は、いかに話すか、いかに生きるかということなんだ」と語った。

■言語の政治

 先住民たちが歌うヒップホップは、サブジャンルとして米国やカナダで耳にするようになっている。彼らの詩もラップの草分けであるアフリカ系米国人たちのものと同様、不平等について訴えていることが多い。

 米ミネソタ(Minnesota)州ミネアポリス(Minneapolis)やセントポール(St. Paul)は、その躍動する音楽シーンや先住民の遺産とともに、先住民ヒップホップの中心地となっている。地元ラッパーのトール・ポール(Tall Paul)さんは英語とアニシナベ語の両方で歌う。

 彼の楽曲「Prayers in a Song」には、アメリカ先住民の最も古い言語の一つである祖先の言葉を学ぶ際の苦労を歌ったもので、コーラス部分ではスピリチュアルな強さを呼び起こすためにこの言語が使われている。英語部分の歌詞では「言葉への敬意 神聖なものを復活させる義務を感じる/実現しなければ民族の名誉が傷ついてしまう」と歌っている。

 一方、ノルウェー極北のラッパー「スリンクレイス(SlinCraze)」ことニルス・ルネ・ウッツィ(Nils Rune Utsi)さんは、自らの言語であるサーミ語で語りかける新たなラップの形式を生み出した。

 作品の一つ「Suhtadit(「議論」の意)」には米白人ラップアーティストのエミネム(Eminem)の影響が色濃く、凄みのあるバッキング・リフをバックに早口で歌詞がまくし立てられている。動画には群衆を前に立つ牧師やトナカイに狙いをつける仮面の集団といった象徴が多数登場する。トナカイの遊牧は昔からサーミの民にとって生きる術だった。

 スリンクレイスはラップの中で「そうさ、僕はサーミだ。僕らのシンボルは破壊され、僕らの言語は踏みつける。奴らはやりたい放題。奴らはそれができるんだ」と歌う。

■オーディエンスの拡大

 スリンクレイスは、この楽曲について、サーミだということを理由に上着に火を付けられた少女に関する記事を読み、怒りにかられて歌詞を書いたと語った。

 彼と同じ北部サーミの方言を話す人は2万人以下。スリンクレイスは、オーディエンスが限定されてしまうリスクを認識している。しかし、たとえ歌詞の意味がわからなくても、自分の音楽はオーディエンスを引き付けているんだと喜びをにじませた。

 スリンクレイスは当初、言語の保存についてはあまり考えていなかった。だが一定のファン層を確立したため、借り物のノルウェー語や英語ではなく、サーミ語再生のためにより力を注ぐことに決めたと語った。またそれと同時にノルウェー語での初のEP制作にも取り組んでいる。

 ノルウェー政府は何十年もの間、先住民を腕づくで統合しようとしてきたが、彼や仲間のアーティストたちは、ノルウェーのサーミ文化を盛り上げようとしているのだとスリンクレイスは語った。「くだらないことかもしれないけど、ここぞヒップスターの役割なんだ。今では多くの子どもたちが、自分はサーミだと堂々と言える。誇りに思っているんだ」
【翻訳編集】AFPBB News