『Ms.リリシスト〜トークセッション vol.3』岩里祐穂とヒャダイン(写真=池田真理)

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 作詞家・岩里祐穂によるトークライブ『Ms.リリシスト〜トークセッション vol.3』が2017年4月16日に開催された。このイベントは岩里の作家生活35周年記念アルバム『Ms.リリシスト』リリースを機に、あらゆる作詞家をゲストに招き、それぞれの手がけてきた作品にまつわるトークを展開するもの。リアルサウンドでは、そのトークライブの模様を対談形式で掲載している。今回ゲストとして登場したのは、ももいろクローバーZやでんぱ組.incなどのアイドルを中心とした幅広いアーティストの作詞のみならず、作曲、編曲も手がけるヒャダインこと前山田健一。両者が手がけてきた楽曲の制作秘話を紐解くと、物語の描き方や言葉の使い方など、それぞれの特徴が浮かび上がってきた。(編集部)

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<ももいろクローバーZ「ワニとシャンプー」>

岩里:私がヒャダインさんのことを初めて知ったのが、ももいろクローバーZのシングル『猛烈宇宙交響曲・第七楽章「無限の愛」』。TVアニメ『モーレツ宇宙海賊』(MBSほか)のオープニングテーマで、エンディングが私が作詞した「LOST CHILD」(シングル2曲目に収録)だったので、そこでお名前を知って。その後ももクロちゃんの横浜アリーナのライブに行った時に「ワニとシャンプー」を聴いて衝撃を受けました。歌で日本全国を周る「ももクロのニッポン万歳!」も面白かったし「事務所にもっと推され隊」もよかったな。みんなヒャダインさんの楽曲ですよね。

ヒャダイン:「事務所にもっと推され隊」は有安杏果さんと高城れにさんのユニット曲です。事務所から全然押されてなくてかわいそうな子たちだったので、そのままの曲を作りました(笑)。

岩里:「ワニとシャンプー」は、ライブの巨大スクリーンの詞のテロップを見ながら本当に感心して。とにかく情報量が多いんだけど、ちゃんとした様式美がある。Aで夏休みの情景、A’で自分と宿題との現状を描き、Bで問題と間違った回答を並べて、Cのサビで、終わらない終わらないと叫んであわてまくる……なるほど、上手く構築されているなと。1番2番ときっちり同じパターンで進んで、でも2番に行っても、まだ宿題が70枚も残ってる。1番で80枚だったのであまり進まないんだなとも思ったんですけど(笑)。

ヒャダイン:そうですね。気が乗らないプリントなので。全然進まないんですね。

岩里:でも、そこもよくて。とにかくしっかりと組み立てられている。ここには何を書き、ここにはこれを書くときちんと決められていて。でも、そういう様式美の中に書いてあることが破壊的。

ヒャダイン:破壊的(笑)。「宿題できねーよー」っていう。

岩里:冗談音楽的なものをアイドルに持ってきたのも新しいなと感じました。“かわいいアイドルちゃん”じゃない、今までのアイドルの詞の概念とは全然違うなと思ったんですよね。AKB48のブレイク以降、いろいろなスタイルのアイドル像が出てきたけれど、歌詞の世界観も含め、やっぱりアイドルはかわいらしさがパッケージングされた存在でした。私はBuono!というロックアイドルで、一時期いろいろなことをやらせてもらいましたけれど、ここまでリアルにかっこ悪いことを書く発想はなかったんですもん。

ヒャダイン:なるほど。「8月31日に80枚プリントを残している」というかっこ悪さ(笑)。まあ、どうしようもない、半径がとても狭い世界を描いています。

岩里:とてもピンポイントだけど、その女の子にとってみると人生の一大事。だから素晴らしい題材だし、私もそういうタイプの子どもだったからリアルだなと思って聴きました(笑)。新しいアイドルのエンターテインメントの形で、この曲を聴いた時はジェラシーの塊になりましたね。その上、「宿題」という一ネタでこれだけ長い1曲を書くのって難しいんですよ。

ヒャダイン:難しいです。

岩里:私だったら2番あたりでもっとどこかに行きたくなる。宿題と離れたところで、思い出についてもっと膨らませてみたり。でも、ヒャダインさんは宿題に軸足を置いてどこにも行かない。だからヒャダインさんの曲は情報量が多くてもすっきりして、ちゃんと腑に落ちるんですよね。

ヒャダイン:僕の曲、おっしゃる通り情報量が多いんですよ。情報量が多いとフォーカスがブレてしまうので、どこかをすっきり、シンプルにすることで帳尻を合わせなきゃいけないということは常に考えています。僕の場合は曲も一緒に書くので、それができるというのもありますが。

岩里:「ワニとシャンプー」、どのように作っていったんですか?

ヒャダイン:実を言いますと、当時のディレクターさんから「ワニとシャンプー」というタイトルで曲を作ってくださいと言われたんです。ひどい話でしょ。

岩里:その発想は変態的ですね(笑)。さすがにその流れは想像できなかった。

ヒャダイン:だから僕も当時「負けてられるか」と頑張って作りました。無理やり作るのは嫌だし、必然性は絶対持たせてやろうと。一生懸命考えた結果、「ワニとシャンプーで酸素ができる」という架空の方程式が閃いた。そしてその考えている時の感じから「宿題」というテーマも出てきた。そうやって逆算で作った曲なんです。曲や詞を書く時って、頭から書いていったり、トリガーポイント、1個のキーフレーズから派生させていったりすると思うんですけど、この歌詞は「ワニとシャンプー」。ここから枝葉がワーっと広がっていきました。

岩里:それ、すごい天才的だと思いますよ。リスペクトの度合いがかなり上がりました。

ヒャダイン:ありがとうございます。そうやって「ワニとシャンプー」のワードから宿題に追われる女の子までをイメージしていきました。当時ももクロのメンバーが学生だったので、本人たちの学生生活とも合わせるようにして。しかも、あの子たち本当に勉強ができなかったので、“お勉強が嫌いでできない”という要素も入れることにしました。振り返れば楽しく作ることができた曲ですね。岩里さんもそういう無茶なフリはあるんじゃないですか?

岩里:無茶なことを言われると、驚かせたいと思うから頑張りますよね。

ヒャダイン:そうなんです。エンドユーザーに一番びっくりしてほしいですけど、無茶なことを言われたら、まず無茶を言ってきた最初の人にびっくりしてほしい。「こう来たか、ちくしょー!」って言わせたいですよね。

<今井美樹「雨にキッスの花束を」>

ヒャダイン:僕は岩里さんの作品の中から1曲目に今井美樹さんの「雨にキッスの花束を」を選びました。アニメ『YAWARA』のオープニングテーマに起用されていた曲で、作曲はKANさん。お洒落な名曲です。

岩里:懐かしい。1990年のアルバム『retour』収録曲ですね。

ヒャダイン:この曲は27年前の曲ということが一つポイントで。僕がこの歌詞を好きな理由に、ドラマ仕立てということがあって。今井美樹さんの曲の中でも、特にストーリーがある歌詞ですよね。スクランブル交差点で男性にいきなりプロポーズされる女の子の様子を順序立てて説明しています。一般的に、そういうドラマ性のある歌詞は情景や表現の言葉によって時代性が出てしまうもの。でも、この曲は時代に紐づいたワードをほとんど使っていないので、27年前とは思えない普遍性があるんです。「トレンディードラマなのに、今でも全然放送できるじゃん」というような。

岩里:<大雨注意報>も大丈夫かしら?

ヒャダイン:大丈夫です。唯一時代性を感じるのは、<ルージュ>でしょうか。あと、歌詞には表記されていない今井美樹さんのセリフ「やっと言ったな、コイツ」。“コイツ”はさすがに最近は言わないかなというくらい。あと、この歌詞は感情表現が少ないんですけど、僕は歌詞で重要なのは「いかに言わずして言うか」ということだと思っていて。

岩里:なるほど。そのまま言ってはおしまいですからね。

ヒャダイン:そうなんです。この曲では登場人物がどういう人たちなのか、年齢や髪型など人物描写もまったくない。なんなら途中まで女の子の感情も描かれていないんですよ。<突然アイツが言った「結婚しようよ、すぐに」/街は大雨注意報 みんな急ぎ足>の部分で情景描写があって、その後の<愛してるって言いながら ふたり 大人どうし/つかず離れずの仲でいようと 吹いてた>、この<吹いてた>だけでその女の子がどんなふうに思ってたのかが想像できるわけですよね。

岩里:<吹いてた>は、なかなかいい言葉が思い浮かばなくて入れた言葉なんですよね。

ヒャダイン:えっ、そんな感じで決めたんですか? これは、秀逸ですよ。<吹いてた>によって普段この二人がどうお付き合いしてるのかとか、明るい女の子だとイメージできる。「つかず離れずの仲でいようね」って軽口を叩いてる、友達みたいなカップルなんだなと想像できるんです。

岩里:それは嬉しい。迷っても書いてみるものですね(笑)。

ヒャダイン:そして<思いがけないプロポーズ!>の後の<噓でしょう>で、やっと感情が出てくる。続けて出てくる詩的な表現<ころがってゆく傘の花>、これがもう映画的なんですよ。雨で傘をさして、プロポーズして、ぱっと傘を離してしまって転がっていく。スクランブル交差点ですごい迷惑だと思うんですけど(笑)、そのくらい動揺したということですよね。軽口を叩くような女の子が<クラクションさえ聞こえない>状態になって、ここからは感情表現のオンパレードですよ。<ずぶ濡れのまま動けない>、そして最後には<世界中 息をひそめて 今私達 見つめてるよ CHU!CHU!>と。

岩里:なんだそれっていう(笑)。

ヒャダイン:僕も詞の登場人物に「ナルシストが過ぎるぞ!」と思いましたけど(笑)、そのくらい恋愛に夢中で時間が止まったということですよね。このだんだん感情が出てくる手法がドキドキします。さらに2番の<こんなに気の強い女 ねぇ本当に私でいいの?>の部分で「やっぱりお前、気強かったんじゃん!」と答え合わせができる(笑)。

岩里:思わず書いちゃいました。今井美樹さんと私と、二人を重ね合わせながら。

ヒャダイン:気の強い女。でもプロポーズを待っているし、ちょっと怖いから愛してると言いながらも、つかず離れずの仲でいようなんて吹いている。弱虫な部分もあるわけですね。

岩里:<本当に私でいいの?>って、かわいいでしょ。

ヒャダイン:そうなんです、かわいいんですよ。この家庭は絶対上手くいく(笑)。とにかく感情が語られ過ぎていないのがいいんです。情景描写の中に匂わせながら、ちょっとずつ察していく。すごくテクニカルで素敵な歌詞だなと思っております。

<でんぱ組.inc「W.W.D」>

岩里:たくさんのアイドルユニットが活動する中で「どう認知してもらうか」ということが、アイドルたちにとっての最初の勝負です。そこで、ヒャダインさんがももクロちゃんに書いた「Z伝説 〜終わりなき革命〜」のように、自己紹介ソングでアピールするというのはとても有効な手法ですよね。でんぱ組.incの「W.W.D」も自己紹介ソングですが、そういう趣旨の依頼が最初からあったのですか?

ヒャダイン:そうですね。「そろそろ自己紹介ソングをでんぱ組.incに……」という話をいただいて。僕が彼女たちに携わってから4曲目に作った曲です。

岩里:この曲ででんぱ組.incへの理解と認知が一気に広がりましたよね。ヒャダインさんの研究をしたところ、自己紹介ソングを他のアイドルたちにもいっぱい書いてらっしゃるんですね。

ヒャダイン:そうです、書いてます。紹介者です、ほんとに(笑)。

岩里:「W.W.D」は<マイナスからのスタート舐めんな!><生きる場所なんてどこにもなかったんだ>の部分がキラーフレーズだと感じたのですが、曲はここから作り始めたんですか?

ヒャダイン:<マイナスからのスタート舐めんな!>は元々使おうと思っていた言葉ですね。自己紹介系は詞と曲を同時に作ったり、詞先の時が多いかもしれません。これも詞が先で、サビの部分だけ曲を先に作るハイブリット方式で作りました。この曲を作った時って、だまし討ちみたいな作り方だったんですよ。本人たちにこういう曲を作るとも言ってないし、本人たちといろいろ話したり、当時のプロデューサーのもふくちゃんにそれぞれのエピソードを聞いて歌詞にして「はい、歌って」って。メンバーは「何これ?」って感じでした。

岩里:ほんと? 嫌だったのかなあ。

ヒャダイン:この詞の内容を見れば、普通は嫌ですよね。彼女たちは僕自身と重なる部分が多い。根暗というか……ももクロちゃんみたいなカラッとした明るさはあんまりない。なので、でんぱ組.incの自己紹介ソングにからっとした曲を書いてもな、という思いがありました。でんぱ組.incの人気がいい感じに出てきていた時期でもあったし、一回過去の清算というか、見つめ直して次に進む時期じゃないかなと思って、最終的に「W.W.D」のような曲を書きました。

岩里:いや、勇気あるプレゼンで、素晴らしいと思いますよ。

ヒャダイン:僕がすごい面白いなと思ったのが、彼女たちは秋葉原のディアステージという本当に小さいステージで初めの頃はやってて。その時から「世界を目指したい」みたいな話をしてたんですけど、僕は無理だとはまったく思わなくて、行けると本当に思っていました。だからこの曲の一番最初はいろんな国の言葉の挨拶にしたんですけど、実際それが叶って世界中を飛び回っている。ちっちゃいステージからでっかい世界に羽ばたいたんですよね。本人たちの頑張りといろんな運の良さで叶えることができた。「あー、歌詞通りになったな」と感慨深かったです。

岩里:だからこそ、この曲には感動がありますよね。「ワニとシャンプー」でも言いましたけど、“かっこ良くないところを見せてもいい”という概念に救われた人もいっぱいいるでしょう。自分をさらけ出して共感を得るという詞がアイドルの定義を広げた作品でもあると思います。ヒャダインさんは、ネガティブワードを書く時もそこまで掘り下げすぎずに優しい言葉の並べ方をしますよね。

ヒャダイン:希望を持てる曲にしたかったんです。でんぱ組は他のアイドルに比べたら大きい事務所の所属でもないし、恵まれた環境でもなかった。けど、そこでも必死こいたるぞっていう人間の強さを表現したくて。

岩里:ヒャダインさんの詞には、アイドルたちへの愛を感じます。あと、タイトルの「W.W.D」は「ワールドワイド☆でんぱ」の略だとか。

ヒャダイン:そうなんです。元々「World Wide Dempagumi」というタイトルをつけていて。「W.W.D」は作詞家の畑亜貴さんと一緒にお仕事した時、タイトルの頭文字を略したファイル名のデータが送られてきたんですよ。それがかっこよくて。僕もそれを真似して「World Wide Dempagumi」は長いから「W.W.D」というタイトルでスタッフに送ったら、それがそのまま採用されました。

岩里:この楽曲と出会って、でんぱ組はアイドルとして何段階も大きくなれたんじゃないかと思います。

ヒャダイン:さらけ出して成功した例ですね。成功するためにはいろんな要素があるので、その要素の一つに過ぎないんですけど。

岩里:ヒャダインさんがアイドルに提供している詞を見てみると、あまりひねくれた表現はないんですよね。

ヒャダイン:意外とこじれてないんです(笑)。まあ単純にそうしかできない。何重にも読める歌詞とか、かっこいい詞を書かれる方っているじゃないですか。憧れますけどね。僕、好きなものと出来ることがまったく違うんです。本当はもっと阿久悠先生とか松本隆先生のような、情緒ある映画のような歌詞を書きたいなと思ってるんですけど。書けやしないっていう。

岩里:でもこういった一連のヒャダインさんの詞がきっかけで、アイドルの曲を書く方たちの概念も変わりました。革命だったと思います。

ヒャダイン:当時はAKB48の一強だったので、秋元先生の書く少女性の高い詞に対抗して、カウンターカルチャーとして宿題の曲だったり生々しいテーマの曲を書いていたというのもあるかもしれないです。僕は秋元先生の歌詞も本当に大好きで、そのカウンターをとっていましたが、最近では秋元先生がまたカウンターのように、乃木坂46や欅坂46のような新しい方向を生み出していて……。マジですごい。アイドル界に面白いうねりができているなと感じています。

<AKINO「荒野のヒース」>

ヒャダイン:「荒野のヒース」はアニメ『創聖のアクエリオン』の挿入歌で使われていて、AKINOさんのボーカルを活かした菅野よう子さんの曲作りもさることながら、岩里さんの美しい世界観が丸出しの曲です。僕がこの曲が好きな理由を上げていきますね。まず世界観で言うと、アニメに準じながら、岩里さんの歌詞の特徴である男性作家には書けない溢れ出す母性、優しさ、愛を感じられるところです。

岩里:え!

ヒャダイン:あれ、自覚なさそうですね(笑)。<愛を求めて旅するよ>の部分からは愛を求めると言っているのに、包み込む大きな愛を感じます。しかも恋人に歌っているようにも聴こえるし、お母さんが生まれた子どもに歌ってるような曲にも聴こえる。<君に会うために生まれたと伝えたいんだ>の部分はまさに。

岩里:なるほど。でもこれ、けっこう怖い歌詞ですけどね。<もしもはぐれたら身体ごと散ってみせる/花びらたった一枚の姿になって君の愛求めて旅するよ>、わかってんのか、っていう。

ヒャダイン:(笑)。なるほど、「散ってやるぞ」と。

岩里:そうそう。そういう感じ(笑)。

ヒャダイン:(笑)。あとテクニカルな言葉の使い方では、ド頭の響きが印象的でした。この曲は<ア音>と<イ音>の使い方のせめぎ合いだと思っていて。開口音と言われている<アウオ>は声を張る時に使いやすい音ですけど、<イ>は一番発音しにくい。高い声が出しにくい音なのであまり使わないんです。

岩里:何にも考えてなかった!

ヒャダイン:天才発言(笑)。そしてポイントとなるのが<ひりひりする声になるのさ>。<ひりひりする声>って、どういうことなんですか?

岩里:好きすぎてひりひりするくらい胸が痛いっていう、そんな心の声でしょうか。そのフレーズ、いいですよね。<粗野な風>と<ひりひりする声>は、言葉が降りてきてぱぱっと書けました。

ヒャダイン:フックになっているというか、ピリッとします。しかも、その「ひりひり」のところが高音なんですよね。高い声で「ひりひり」を歌わせる詰まる感じが面白いです。

岩里:AKINOちゃんだから歌えたというのはあるかもしれませんね。この曲は「AKINOちゃんがかわいい歌が歌いたいらしい」という菅野よう子さんからのリクエストで書き始めた曲でした。だからサビも<キミヲアイシテル>と、あえて分かりやすいフレーズでカタカナを使ってみたり。いつもの小難しい詞ではなく、ひねったりせずに真っ直ぐな想いを書いたという記憶があります。

ヒャダイン:どうですか? 菅野よう子さんとの制作は。

岩里:面白いです。タイトルのつけかたは特に勉強になることが多くて。例えば、「荒野のヒース」は最初、歌詞からとって「Wild Flower」とつけていたんです。アイルランドの寒々しい、アラン諸島みたいな光景で花びらが舞ってるようなイメージで。でも、菅野さんは「うーんとさー、どうする?」と。そういう時はだいたい変わる(笑)。結局、ワイルドフラワーの花の名前を探そうということになり、ヒースという名前の花を見つけて、それをタイトルにしました。ヒースの方が確かに「女の子の名前かな」とか想像が広がりますよね。まさに菅野マジックだと思っています。

ヒャダイン:芸術肌ですね。タイトルをつけるのは苦手です。

岩里:私も。タイトルから入るっていう方もいますよね。菅野さんは記号のようにつけるんですね。「指輪」とか「プラチナ」とか、曲の中に出てこない言葉をタイトルにすることもあって。「ユッカ」みたいにぱっと意味がわからない単語も。でも、残るんですよね。「あぁ、タイトルってこういうやり方もあるんだ」と彼女と作品を作っていて思いました。

<山下智久「パレード」>

ヒャダイン:アルバム『A NUDE』の収録曲で、作曲はSEKAI NO OWARIのNakajinくん。僕が作詞とアレンジを担当するという変則的なスタイルで作った楽曲です。

岩里:でも、ニコ動時代も作詞と編曲でしたよね。

ヒャダイン:そうなんです。なので僕にとっては当たり前のことではあって。楽しかったですね、この曲は。

岩里:ドラマ仕立てのストーリーものの歌詞ですよね。ヒャダインさん、こういう詞も書けるんですよ!

ヒャダイン:(笑)。これは、おべんちゃらでも何でもなく「雨にキッスの花束を」の影響はあります。お休みの日の雑踏の中での一コマを描いていて。山P(山下智久)と付き合う普通の私が、普通のデートをする。その普通がスペシャルなんだという世界を描きました。

岩里:この曲はどのように作っていったんですか?

ヒャダイン:曲先ですね。Nakajinくんのメロディが来てから歌詞を書きました。かわいい曲といったリクエストがあった気はします。で、僕けっこう曲を書いてるので記憶が飛ぶんですけど、全部書き直した気がします。

岩里:最初はどんな詞だったのかなあ?

ヒャダイン:それが便利な性格で、忘れちゃうんですよ。職業作家として芯の髄まで浸食されているらしくて、書き直してくださいとなったら、今まで築き上げたものをポイってゴミ箱に捨てることができるんです。

岩里:いや、それも、大切なことですよね。いいと思います(笑)。男性アーティストに曲を書く際、なにか心がけていることはありますか?

ヒャダイン:ジャニーズや韓流といった男性アーティストの場合は、女性ファンが言ってほしいこと、聞きたいことを書くっていうのは特に心がけています。コンサートを見に行かせてもらった時は、需要と供給についてずっと考えていて。MCで甘いセリフを言ったり、メンバー同士が抱きついたりすると、悲鳴のような歓声があがるんです。それを見て「こういうことかな」と。男性アーティストには疑似恋愛のような世界をけっこう書きますね。逆に僕が書く女性アイドルの歌詞はそれがない。

岩里:なるほど。

ヒャダイン:例えば関ジャニ∞さんに書かせてもらった「三十路少年」という曲では、<苗字、錦戸になってみーへん?>という歌詞を書いていたり。錦戸亮くんがこれをライブでファンにむけて言ったら、みなさんに絶対喜んでいただけるじゃないですか。そういった言葉を意識して入れるようにしていますね。

<Buono!「ロッタラ ロッタラ」>

ヒャダイン:僕は岩里さんがBuono!に書いた「ロッタラ ロッタラ」を最後にご紹介したいと思います。Buono!は、この頃のハロプロでは珍しい、つんく♂さん以外の方が曲を書かれるプロジェクトでした。Buono!は特に曲がいいと評判で、つんく♂さん外のプロジェクトとしてはかなり人気の高いグループでしたね。その中の代表曲の一つが「ロッタラ ロッタラ」です。曲調も明るいし、Buono!のイメージもすごく明るいので、ずっとこの曲はハッピーな曲だと思ってたんですよ。でも今回、歌詞をしっかり見させていただいたたら、<君を抱きしめたはずなのに/2人なくしたシアワセ>って、すごい悲しい曲なんですね……。

岩里:これを歌わせたかった。アイドルに<2人なくしたシアワセ>と歌ってもらいたかったんです。

ヒャダイン:消えていくことへの絶望感や悲しみ、刹那が消えていくことへの虚無感がありますよね。<今日の僕たちが大人んなってしまえば/きっと見えてるものさえ見えなくなってしまう/今日まで僕たちが夢中になって探したものは/ほんとはいったい何だったんだろう>では青春の虚無感が表されています。

岩里:けっこう悲しい歌なんです。出会いと喪失の。でも、それをロックサウンドに乗せているので、ギャップを楽しんでいただく曲でもあります。

ヒャダイン:Buono!の3人が歌って、歌詞もストレートに明るかったらそのままになるところを、虚無や悲しみのスパイスを入れることで曲がふくよかになるんですね。あと作詞家をやっていて一番やりたいこととして「言葉を作る」っていうのがあるんですけど、「ロッタラ」はまさにそれで。

岩里:「Lotta love」なんですけどね。

ヒャダイン:そうなんですよ。けど、それをあえて「ロッタラ」とカタカナにするという。

岩里:サビの<どれくらい胸いっぱいの愛を>のフレーズはすぐできたんですけど、その後がなかなか思い浮かばなくて。何にしようかなと悩んでいた時に「胸いっぱいの愛」だから「Whole Lotta Love」はどうか、とアドバイスをもらったんですね。そこから「Lotta love」になり、それをカタカナにしてみたらよくわからない、面白い広がりのある言葉が生まれました。「ロッタラ ロッタラ」には菅野イズムが活かされているのかもしれません。

<最後に>

岩里:ヒャダインさんのニコ動時代のアイデアって、今考えてもすごいですよね。ゲーム音楽をアレンジして、自分で詞を書いて歌うということをやっていたわけですけど、これをはじめたきっかけは?

ヒャダイン:2007年12月から始めたんですけど。その頃はまったく作家として売れてなくてバイト中心の生活でした。新しい事務所に所属して6月くらいからコンペの案内メールが来るようになって。テンションが上がって、一つのコンペに2曲ずつ出してました。けど、リアクションもないし、曲をきちんと聴いてくれたかどうかもわからない。もちろん全然決まらないんですよね。腐ってはないですけど……。

岩里:疲弊していきますよね。

ヒャダイン:そう。疲れてくるんです。僕そんなに友達もいないし照れ屋だから、自分の曲を人に聴かせる機会がなくて。いいと思っているけど、自分の曲のレベル。特にアレンジが果たして一般の人たちに受け入れられるレベルに達してるのかがわからなかった。それでニコ動に投稿するようになったんです。ニコ動に投稿した一番のモチベーションは「自分の曲を出したらどこまでみんなが認めてくれるんだろう」ということ。結果、みんなすごい認めてくれました。それが自信になりましたね。嬉しくてたくさん曲を投稿しました。だって音楽で認められたことがそれまでなかったから。

岩里:作詞家や作曲家を目指している人の中には、コンペで疲弊している人もいるかと思います。そこで道を切り開いていくためのアドバイスはありますか?

ヒャダイン:人に言えた義理じゃないんですけど……つまるところ、人がやってないことをやらなきゃいけないですよね。

岩里:そうですね。傷つくのも恥をかくのも承知の上で、勇気を出して何かアクションを起こさないと同じ場所にずっといることになってしまう。

ヒャダイン:そうなんです。冷静に考えたら同じことをやっている人の中で、ずっと同じことをやって芽が出るなんて、シンデレラストーリー的なものは強運の持ち主じゃないと無いと思います。でも、いつか見つけられるんだという妙な自信を持ってる人も多い。見つけられない状況を人のせいや時代のせいにしますが、最終的には自分の人生ですからね。岩里さんもおっしゃる通り、アクションを起こしたり、あと、捨てる勇気ですかね。いかに気持ちを切り替えられるか。作ったものが全直しになったら逆に新しい良いものを作るチャンスだなと思うこと。なぜリテイクをお願いされるのかというと、その作品をみんな良いものにしたいからなんです。結果、世に出た何回も直した後の作品が、一番ベストだと思いますし。結果、みんな音楽が好きなんですよね。なので腐らず、人のせいにせず、過信せず、だけど自分に自信を持つ。そうやってやっていけたらいいと思いますね。