ネットニュース編集者の中川淳一郎氏

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 新聞や雑誌などでは好まれる言葉や表現方法が、ネットでも好まれるとは限らない。ならば、いったい、どんな言い回しが好まれるのか、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏が解説する。

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 ネット特有の「嫌われ言葉」というものが多々存在する。一つのパターンが「模範解答」である。最近では北朝鮮情勢に対するものが多いのだが、「外交努力を続け、北朝鮮を対話のテーブルにつけることが重要である。くれぐれも、暴発を招くような挑発や過度な圧力は慎むべきである」といった物言いだ。

 この場合は「国家ぐるみで拉致をするような国を信じられるか」「対話できるような国じゃねーぞ、この脳内お花畑が」「日本中にミサイル打たれてからじゃ遅いんだよバカ」などの嘲笑・罵倒が寄せられる。「脳内お花畑」は「みんななかよくしようね、話せばわかるからね!」といった思考を意味する。

 もう一つのパターンが、「結論めいた一言」だ。明確に主張をし、異論反論なんでも来やがれ! というぐらいの気概があるのならば構わないが、余計な軋轢を生まぬためには、「AもいいけどBもいいよね」のようなどうでもいい結論にした方がいい。

 理由は、ネットの記事を読んだ人は、そのイシューに対して何か一言言いたいのである。「昨今の子供の忍耐力がないのは、親が甘やかしているからに他ならない。まずは親が小学校からやり直すべきである」などと書けばもう炎上まっしぐら。「あなたには現代の子育ての苦労が分かりません!」や「子育てしたこともない老害クソジジイ、さっさと死ね」などの反応が来る。

 さらに、別種の嫌われる締めの言葉が「波紋を呼びそうだ」だ。これは、新聞記事に時々見られるが、「波紋を起こしたいのはお前だろう」「世論誘導乙(お疲れ様)」の反応が容易に予想できる。

 そして、3つ目が余計なたとえ話である。2016年11月、自民党の萩生田光一官房副長官が、国会での野党議員による怒れる質問スタイルについて「本当に田舎のプロレス。ロープに投げて帰ってきて空手チョップで一回倒れて、みたいなやり取りの中でやっている。私は茶番だと思ってる」と述べた。

 これに対し、プロレスを冒涜されたと感じたファンから怒りの火の手があがる。そして鈴木みのる、小島聡、タイチ、馳浩衆議院議員(自民党)らプロレス関係者も次々と不快感を表明し、萩生田氏は謝罪・撤回に追い込まれた。

 そんな中、たとえ話というか週刊誌文脈のガハハオヤジ的比喩は案外愛される。週刊ポストでは広島カープ・鈴木誠也が深夜の路上で美女の胸を揉んでいたことを報じた。これがネットに〈鈴木誠也「深夜の特打ち」撮 翌日は2本塁打5打点の大暴れ〉と〈広島・鈴木誠也、路上で美女の胸を「揉みってる」写真〉のタイトルで転載されたが、「深夜の特打ち」と「揉みってる」はなかなか好評だった。

「深夜の特打ちとかいうタイトルええな」などの声に加え、「性夜の特打ちか」と発展させる者も登場した。

 スポーツ選手と女性の密会や乱痴気騒ぎが報じられると「夜の三冠王」「夜のハットトリック」「夜のスピードスター」「夜の19番ホール」などと書かれるが、これらの例えは面白がられ、若い世代からはこの昭和的表現がむしろ新鮮に映るようだ。

●なかがわ・じゅんいちろう/1973年生まれ。ネットで発生する諍いや珍事件をウオッチしてレポートするのが仕事。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など

※週刊ポスト2017年6月2日号