久々の勝利を挙げた甲府戦は「90分間楽しみました」と振り返る。写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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[J1リーグ12節]甲府 1-2 広島/5月20日/中銀スタ

 練習を終えた塩谷司のもとに、ひとりのチームメイトが駆け寄ってくる。それとなく会話は始まったが、しばらくすると、こう言われた。
 
「あのさ、シオ(塩谷)。最近、サッカーを全然楽しんでないでしょ? 状況が状況だけに、悩むのは分かるけど、いらんこと考えすぎじゃない?」
 
 広島が、リーグ戦で実に6試合ぶりとなる勝利を挙げた12節・甲府戦の4日前、5月17日のことだった。声を掛けてきたのは、チーム最古参であり、体調不良から復帰したばかりの森粼和幸だった。
 
「よく見てるなって思いましたよね。やっぱり、カズさん(森粼)はさすがだなって」
 
 他の記者がいなくなり、先ほどまで白熱した試合が行なわれていたピッチを背に、塩谷は思いを打ち明けてくれた。
 
「ずっと、俺がやらなきゃ、俺がやらなきゃっていうのがすごいあって……実際、自分のところでもミスはあったし、やらなきゃという思いが空回りして、さらにやられるというか……なおさら、どうしたらいいか分からなくなっている自分がいましたね」
 
 広島に加入して今季で6年目を迎えた。シーズン途中に加入した12年のJ1初優勝こそ主力ではなかったものの、その後の二度の優勝は3バックの主軸として貢献した。
 
 28歳になり、自分がチームを牽引しなければという覚悟もあれば、決意もあった。それだけに開幕から勝てず、低迷するチームに、そして自分自身に強い責任を感じていた。
 
「チームが結果を残せなくて、それで考えれば考えるほどに、自分自身のパフォーマンスも悪くなっていく。本当にずっと考えて、考えて、考えているんですけど、どんどん状況は悪化していった。練習場のある吉田サッカー公園まで、家から車で片道1時間くらい掛かるんですけど、その行き帰りもずっと考えちゃうんですよね。
 
 でも、考えるほどに自分のダメなところしか出てこない。これじゃダメだと思って、頭を切り替えようとしたんですけど、家に帰ってもやっぱり、ふとした瞬間にサッカーのことを思い出す。もう頭がパンクしそうでした」
 
 チームのために自分がなんとかしなければ、この悪い流れを断ち切らなければ――思いが増せば増すほどに、自分自身のプレーは精彩を欠いていった。
 
 こちらが「ここ最近は積極性を失い、ミスも多く見えた」と伝えれば、「やっぱり大人しく見えましたよね。自分でも自分のパフォーマンスがよくないことは分かっていました」と、心情を吐露した。
 
「だから……正直、自分のところにボールが来るな、来るなって思ってましたもん。こっちに来るなって……」
 
 森保一監督にも、オフ明けだった17日の練習前に呼ばれると、自身の心境であり、状況について聞かれた。意を決した塩谷は、思いの丈をぶつけた。
 
「森保さんには、チームのこと、自分自身のこと、いろいろなことを考えすぎて、練習を含めて、この瞬間に気持ちが入れていないんじゃないかって言われました。自分としても、もし、そう見えるならメンバーから外してもらっても構わないと伝えました」
 
 その日の練習を終えた直後だった。森粼から「サッカーを楽しんでいないのでは」と指摘されたのは。それを言われ、森粼にも思いをぶつけた。
 
「カズさんと監督、ふたりには感謝しています。思いをぶつけたことで、すっきりしたんですよね。カズさんとは、プレーのこともそうだし、メンタルのこともそうだし、チームとしてこういう方向で戦っていくべきだという話もした。ふたりと話したことは、自分の中ですごいデカかったですね」